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詳細は刺激が強すぎるため省略

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 レッタさんがなんとかして突き止めた真実は……。
 帝国が魔物を研究し、利用する方法を探していて、そのために大量の魔物をレッタさんの故郷付近に冒険者……裏ギルドを通して追い込み、一斉に捕まえる手筈だったとか。
 人里離れた場所、レッタさんの村はあったけど少数だったので、口封じのために皆殺しにしても大した影響はないだろうし、収めるのも楽だと。
 そうして、魔物を集めて追い込んで……邪魔な村を壊滅させた後に拠点化し、ゆっくり捕獲して研究をしようとしていたが、誤算があったとか。

 レッタさんが、魔物を暴走させた事だろう。
 結局計画は失敗に終わったと……。
 そしてその計画の立案者、実行者はというと……次期帝国の皇帝。
 つまり、第一皇子だったとの情報まで掴み、さらなる復讐心を募らせる。
 
 とはいえ相手は帝国の皇子……さすがに軍と一緒に出てくるわけもなく、帝都のお城にいてはレッタさんが手も足も出ないのは当然の事。
 というか帝国の第一皇子って、確か姉さんがこちらの世界で生まれてまだ幼い頃、物凄い上から目線で婚姻を迫った相手だったよね。
 一応、国力としては帝国よりアテトリア王国の方が、圧倒的に上なのに、偉そうにしていた俺とは違って本当のロリコンだ。

「帝国は、そのような事を随分前から行っていたのか……」
「今からだと、大体十年以上前かしら? とにかく、復讐したいレッタはけれど、そこで全てを諦めざるを得なくなったの」
「……なんだと? 話を聞いていれば、何か事を起こしてもおかしくはないと思うのだが。成否にかかわらずな」
「そうね、レッタはそれでも何かできないかと考えた。けれどできなかったの。帝国にバレたから」

 帝国もただレッタさんという、特殊な能力はあってもただ一人の女性にやられてばかりじゃない。
 魔物を操るとまでは言わなくとも、誘導する事ができる人物としてレッタさんを掴んだ。
 そして当然ながら、個人対国ではどうする事もできずレッタさんは捕まる。
 まぁどれだけ特殊な能力があろうと、人数で勝る帝国側に一人でっていうのは相当用意周到でも難し過ぎるからね。

「それからしばらく、またレッタの記憶は混濁していて、詳しいところは私もよくわからないわ。察する事はできるけど」
「それは、捕まってから何かあったという事か」
「通常で考えれば、取り調べなどをすると思いますが……記憶が混濁する程となると……」

 ロジーナの言葉に、考え込むシュットラウルさんとマルクスさん。
 モニカさん達も、レッタさんに何があったのかと類推しているみたいだ。
 国に対して明らかな敵対行動……当然反逆者とかそういう扱いで捕まったんだろうから、マルクスさんが言うような、通常の取り調べじゃないだろう。
 ある程度調べが付いていたとしても、レッタさんが本当に単独なのかとか、どうやって魔物をとか調べなきゃならないし。

 そういった場合の取り調べとなると、拷問とかあまりよくない考えが浮かぶ。
 でも待てよ? 今、というか今回レッタさんは帝国側として、魔物に指示を与えていた。
 帝国と明らかに敵対して、復讐に駆られたレッタさんが帝国側に付いている理由はわからないけど……魔物を研究しようとしている帝国と、レッタさんの能力。
 良くない想像が浮かんでしまう。

「……もしかしてレッタさんは、帝国に実験を……とか?」
「えぇ、そうよ」
「っ!?」

 あまり口にしたくはなかったけど、考えられる事の一つとして小さく口に出すと、ロジーナが肩を竦めながら肯定。
 シュットラウルさん達は、一斉に顔をしかめた。

「どれだけ特殊な能力を持っていても、どれだけ異常な状況で生還していたとしても、そしてどれだけの復讐心を持っていても……レッタは元々平凡な人間として、平和に暮らしていた。全てを隠し通せるわけじゃないわ」

 レッタさんがどういう風に取り調べされたのか、なんとなくの想像はできるけど実際は定かじゃない。
 けれど、平和に暮らしてきたはずのレッタさんにとって、自分の能力含めて全てを隠し通すなんて事はできなかったんだろう。
 どれだけ、過酷な経験をしていたとしてもだ。

「まぁ、訓練された者であろうと、絶対に口を割らないなんて事はないからな」

 シュットラウルさんも頷いているように、絶対はないと俺も思う。
 だからこそ、帝国の組織に連なる……ツヴァイやクラウリアさん達の部下は、何かあった時のために毒を仕込まれているんだろう。
 死んでしまえば、話す事なんてできないのだから。

「どうやってレッタに口を割らせたか、それからレッタを使ってどんな実験をしたかは、省いておくわ。これでも私は女の神だから。私ですら、今でなく神の身でも同情を禁じ得ないくらいだった、とだけ言っておくわね」
「……」

 ロジーナが詳細を話さなかった事で、逆に皆が押し黙って想像をかき立てられているようだ。
 特に、女の神だから……つまり女神だからこそ言いたくないという部分が引っかかっている様子でもある、モニカさんやフィネさんがだけどね。
 人間の体に思考が引き摺られている今ではなく、破壊神だった時でさえ、レッタさんに同情するくらいなんてよっぽどだ。
 自分が創った魔物だけでなく、人が破壊されて大量に死んでいくのを、なんとも思っていないようだったのに。

「あぁあと一つだけ。魔物の研究を立案、実行した帝国の第一皇子……多分今頃は皇帝かしらね? そいつはとんでもなく性悪だって事。なんて言うのかしら、人を人とも思っていない? 自分だけが唯一特別だと思って、他人を踏みにじる事をなんとも思っていないクズよ」
「ロジーナに言われるなんて、相当なの。しかもここで付け加えるっていう事は、今省いた話にも関係しているって事っぽいの」
「うるさいわね。私はただ、破壊をもたらす神として行動していただけよ。人をなぶって喜ぶ趣味なんてないわ」

 第一皇子、今は帝位に就いている可能性が高いみたいだけど、そいつはロジーナが吐き捨てるように言う程、最悪な人物のようだ。
 ユノが突っ込みに対しても、嫌そうに顔をしかめながら言うあたり……好ましい人物でない事は間違いない。
 それと、ぽろっとロジーナが言ったけど、なぶってという事はまぁつまり、そういう事なんだろう。
 考えたくないし、想像すらしたくないけど……。

 しかもレッタさんが捕まった頃って、幼い頃の姉さんが第一皇子に口説かれていた前後くらいのはず。
 ロリコンのうえにクズな趣味があるとは、本当にどうしようもない奴だ。
 ……おっと、落ち着こう。

「……ちょっと待って下さい。ロジーナ殿、今皇帝と言いましたか?」
「えぇ。私がリクにちょっかいを出す少し前に決まっていたわ。あれから随分経つし、もう皇帝になっているんじゃないかしら?」

 ふと、何やら険しい顔をして考え込んでいたマルクスさんが、ロジーナに聞いた。
 皇帝という部分が気になっていたらしい。
 ロジーナが頷いたけど、俺にちょっかいを出す前という事はセンテが魔物に包囲される前という事になる。

 つまり、大体三十日から四十日くらい経っているって事だ。
 帝位の継承にどれだけの期間がかかるかわからないけど、大きな混乱がなかったり、準備されていたら今頃は皇帝になっていてもおかしくないか――。


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