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妙な雰囲気になったけどなんとか話を戻す

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「もう安心だって、そう思うでしょエルサちゃん。けど、まだまだなのよ……」
「え、モニカさん!?」

 内心で俺が色々と反省している中、何故かモニカさんがエルサに愚痴るような雰囲気で話しかけ始める。
 どうやら、さっき俺が笑いかけて照れたのはもう効果が切れてしまったようだ。
 ……それとも、俺への不満みたいなものが照れを上回ってしまったからだろうか。

「あーそういえばそうなのだわ。昨夜の事はなんとなく、リクから伝わってきているのだわ。モニカが大変なのは変わらないのだわ~」
「ちょ、え? 昨夜の……エルサちゃん知っていたの!?」
「エルサは、契約でね。よくわからない寝相も、そのせいだったみたい」

 今度はエルサの言葉にモニカさんが驚く番……そういえば、モニカさんには昨夜の事をほとんどエルサが知っているって教えていなかったっけ。
 まぁ、改めて口にするのはモニカさんも恥ずかしいだろうし、言う必要はないと思ったんだけど。
 現に今、モニカさんの顔ははっきりと赤くなっているから。
 俺もそうだけど、寝ているから安心していたんだろうなぁ……それが知られているとなったら、こうなるのも無理はない。

「んんっ! そろそろ、先程の話に戻ろうかリク殿」
「そ、そうですな。皆様も気持ちを落ち着けたようですので……」
「あ、はい。わかりました、すみませ……んん?」

 さっきまでの重い雰囲気、沈んでいた気持ちはどこへやら、俺とモニカさん、それからエルサとのやり取りですっかり変わってしまった空気を振り払うように、シュットラウルさんが咳払い。
 マルクスさんも、真面目な表情で俺や皆を見ている。
 頷き、締まらない雰囲気にしてしまった事を謝ろうとして、途中で気付く。
 シュットラウルさんとマルクスさんの二人も、何やら少しだけ気まずい雰囲気を滲み出しているような……チラチラと、俺とモニカさんを見ているようだし。

 もしかして、二人で話し込んでいたのは俺達の話を聞かないふりをしていただけ、とか?
 まぁ、広い部屋だけど同じテーブルについているわけで……話し声が聞こえないわけもないか。
 全て聞かれたわけでもないと思うけど、位置は離れているから。
 でも、妙な雰囲気や俺達の様子はすっかり伝わってしまっているみたいだ。

 これからは、人が多いところでモニカさんを照れさせたりするのは控えよう……はぁ……。
 絶対しないとまで考えられないのは、まだ無自覚鈍感な部分が絶対にないと確信できない、俺自身への信用のなさからだ。
 とりあえず、皆の表情がかなり明るくなったから、結果オーライという事で――。


「ものすっごく話しづらい雰囲気だけど、続けるわね。えぇと、どこまで話したかしら?」

 少しだけ間があり、ロジーナが嫌そうな表情になりながら口を開く。
 話しづらいのは、俺とモニカさん……いや、俺のせいだからちょっと申し訳ない。

「もうボケたの? ロジーナは老化したの」
「うるさいわね! ちょっと確認のためよ! それに老化ならユノもじゃない」
「私はまだまだボケないの~」

 茶化すユノに、反論するロジーナ。
 両方とも、この部屋にいる人達の中でも見た目は最年少組なんだから、老化とかボケとか言わない。
 そりゃ存在としては実際この中でも、一番長い年月を……。

「「リク、変な事を考えるのは止めなさい!」なの!」
「あ、はい……」

 ユノとロジーナ、両方から声を合わせて突っ込まれ、途中まで考えていた事を放棄する。
 生きた年月の事を考えるのは、危険みたいだ……エルサやフィリーナも厳しいからなぁ、注意しておこう。

「まったく、リクのせいで話が進まないわ」

 俺のせいにされても……いや、はい、俺のせいですね、すみません。
 ぎろりと睨まれたので、反論は口に出さないようにする。
 なんというか、余計な事を考える癖があるせいで、いつも真面目な雰囲気が続かないのはもう仕方ないと諦めるしかないのかもしれない。

「えーと、確かレッタが能力に目覚めかけて……そうね、レッタだけが生き残ったところまで話したんだったわ」
「うむ」

 どこまで話したかを思い出しつつ、呟くロジーナに頷くシュットラウルさん。
 それと共に、部屋内の雰囲気が引き締まって話に備えるよう、皆が気を引き締めた。
 ……俺が返事をしなくて良かったところだろう。
 って、いかんいかん、余計な事を考えずにロジーナの話に集中しないと。

「レッタはその後、しばらく惨状が広がる自分の村で呆然としていたみたいね」
「まぁ、状況を考えるとそうなるのもわかる気がするな」

 ロジーナの言葉に頷くシュットラウルさん、他の人達も頷いている。
 いきなり襲い掛かってきた人達によって、平和だった村が崩壊……その直後に魔物が大量に押し寄せて、レッタさんだけを残して全てなくなった。
 当然周囲は目を覆いたくなるような状態だろうし、何がなんだかわからなくて呆然としてしまうのも当然と言える。

「それからは、レッタ自身もよく覚えてないみたいだけど……気付いたら、全然違う場所にいたって本人は言っていたわね」

 信じられない事が目の前で起こって、記憶が混濁したりというのは俺も覚えがある。
 ただ俺と違うのは、姉さんを失った事に耐えられず、存在そのものを記憶の奥底に封印して忘れてしまっていたのに対し、レッタさんは事件が起きた後の事が曖昧になっているみたいだ。
 目の前で起きた事は、鮮明な記憶として残っているんだろう……忘れてしまった方が、自分の精神を守るためにはいいかもしれないけど、本人が決められる事じゃないので仕方ないとしか言えない。

「では、事が起こった後の足取りはわからないのか?」
「最初に言ったけど、記憶を覗いたわ。本人が思い出せなくても、体に刻まれた記憶はなくならない。まぁ、今はできないしレッタの記憶も随分混乱していて、わかりづらかったけど……」

 神様だったからこそできたんだろう、記憶を覗いたロジーナは、それからのレッタさんを語ってくれた。
 とは言っても、ロジーナが言うには本人が覚えていないくらいかなり混乱していたため、細部はわからないみたいだけど。
 ぼんやりとした映像を見て、何をしていたか知った……と言っていた。

「しばらく呆然としていたレッタだけど、その後……」

 大体二日程度、呆然として過ごしたレッタさん。
 ただ、人間で生きている以上何もしなくても眠くなったりお腹が減る。
 おそらく混乱した意識の中で、無意識かなんだろう……食い散らかされた魔物の肉を、食べて飢えを凌いだようだ。

「魔物は、一部は食べられる。それはここにいる全員がわかっていると思うけど……でも、調理されているからこそよ。無意識と言える行動で飢えを凌いだレッタに、そんな理知的な行動はできなかったわ。どういう事かわかる?」
「調理をしなかった……つまり、焼く事もせず、という事ですか」

 ロジーナの問いかけに対し、苦々しく答えるマルクスさん。
 村で人が生活していたので、探せば調理道具なんかもあったんだろうけど、ただ生きる本能みたいな物だけで動くレッタさんには、その判断はできなかったんだろう――。


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