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フィリーナ達への可能性
しおりを挟む「私はあくまで、私の本質のままに行動しただけよ。そして、帝国……正確には、帝国にいるエルフにだけれど。ちょうどいい研究をしていたから、ちょっとだけ知識の供与をしてあげたの。それが一番、計画のための近道だったから。別に、だからといって帝国に肩入れしているわけではないわ。それこそ、今すぐ帝国の全てが破棄し尽くされても、あちら側の人間自身が招いた事としか思わないわね」
ロジーナは特になんて事ないといった様子で、ソフィーの疑問に答える。
破壊神としては、世界の破壊をする事が目的で本懐。
そこに理由があるのかは神ならぬ俺にはわからないし、何故そうしなければいけないのかもわからない。
多分、聞いても本質がそうだからとしか答えないと思うし、戦った時に似たような話をした覚えがある。
だから、帝国にちょっとした協力をしたのも、世界に破壊をもたらすための方法としてだし、今回センテで起こった事は基本的に俺を破壊の衝動に憑りつかせるためだった……らしい。
まぁ人間になってしまった事で、俺がそうなってしまうとロジーナが危険だから、今は協力しているけど。
ユノ曰く、人間になっている状態で死んでしまうと、神様としても消滅をしてしまう可能性が高いとか。
さっき聞いた、体に魂を押し込んでいるという事から、体が外的な要因で死を迎えると魂に悪影響が出るとかなんだろう……よくわからないけど。
だから、ロジーナ自身に帝国に協力しているという考えはないし、帝国がどうなろうと知ったこっちゃないってとこかな。
むしろ破壊神としては、他の国も巻き込んで破壊し尽くされた方がいいとすら思ってるかもしれない。
「それこそ、研究内容次第では……そこのエルフ。あなたの所でも良かったのよ。そうね……例えば、人間を異端視してエルフ至上を訴える長老衆を刺激して、この国の掌握に乗り出すよう仕向ける。とかかしら」
「っ! そ、そんな事、いくら長老衆が人間を見下していたからと言って……」
「できない、と思う? そうね、エルフは数が少ないわ。だから本気で乗り出そうとしても、押し潰されるだけ。でも、数が少なくともそれを凌駕できる力を手に入れられるとしたら?」
「数を凌駕できる力……? それは、もしかして……」
「えぇそうよ。帝国のエルフ達はそれを受け入れた。魔物を使うための方法をね。魔物は創造神ではなく破壊神が作りし生物。それを利用する方法なんて、私にとってはいくらでも思いつくし、伝えられるわ」
あの長老達なら、ロジーナに簡単に付け込まれそうだから、もし目を付けられていたら帝国じゃなくアテトリア王国が、魔物を使うエルフに掌握されていた可能性はある。
それこそ、神様としてアルセイス様を抑えて名を騙ってなんて事ができてもおかしくないし、魔物を利用できれば数の振りを覆せる可能性は高いと思う。
今回のヒュドラーとレムレース、俺もそうだけどユノやロジーナの協力がなければ、それこそこの国が滅んでいてもおかしくなかった程の魔物を、実際に利用できているのだから。
「でも残念ね、この国のエルフが掌握する未来は来ないわ。研究していた内容が、魔法の活用だもの。魔物を倒す、戦闘を有利にするような魔法の研究も行っていたけど、方向性が帝国のエルフとはまるで違うわ。それじゃ、破壊を招くのに多くの手間がかかるの」
「……帝国のエルフ達は、違ったと?」
「あちらは魔力を活用して、内面から操作する方法を研究していたのよ。まぁ、魔物を操る、復元するという事まで当初は考えていなかったようだけど。でも簡単だったわよ? あちらは帝国に迫害とは言わなくても、蔑視されていたから。長老を扇動しなくても、ちょっと刺激するくらいで良かったもの」
「帝国では、エルフの扱いはそんなに悪かったのね……同胞としては、反応に困るわ。この国でのエルフの扱いは、珍しい種族という程度で悪くなかった。私達エルフ、というか長老たちが関係を拒否していて、奇異の目で見られる事はあっても、決して下に見られる事はなかったわ。研究の内容もそうだけど、目を付けられなくて良かったとは思うわね」
小さな女の子とは思えない程、蠱惑的という言葉が似合いそうな笑みを浮かべるロジーナ。
それに対し、フィリーナはこめかみから汗を流しながら、微妙な表情。
もし何かがズレていたら、ロジーナが知識や技術を伝えていたのは自分達だったという事だろうから。
ただその場合、フィリーナ達が魔物を使っているわけで、まずはアテトリア王国内での内乱のようになっていたかもしれない。
……フィリーナ達が人間や獣人を嫌っていないのも大きいけど、同じ国の中で争う事にならなくて、俺も良かったと思う。
その場合、国外から魔物を使って画策している帝国よりも、こちら側の被害はもっと大きくなっていただろうから。
そう考える俺とは別に、何故かフィリーナが俺を見て溜め息を吐いた……おや?
「はぁ……もし目を付けられて、本当に国の掌握に乗り出していたら……リクと敵対していた可能性が高いのよね。というか絶対そうなるわよね。掌握できるできないじゃなく、一番的にしちゃいけない相手じゃない。帝国にはちょっとだけ同情する気持ちすら湧いてしまうわ」
「……そうですね。立場は違いますが、私もリク様を敵に回したと考えると……国そのものを敵に回すよりも怖いです」
「え? あれ? えっと……モニカさんやソフィーも頷いている!?」
そりゃ、この国の女王は姉さんだし、お世話になっている人達に被害が及ぶだろうから、俺も戦う事になるだろうけど。
でも、そこまで絶望的な表情になる程!?
フィリーナの言葉にモニカさん達はさもあらんと深く頷いているし、フィネさんに至っては小さく「フランク子爵様なら大丈夫でしょうが、絶対にリク様に敵対しないよう、念のためお伝えしておかなければ……」なんて呟いていた。
えー……。
「ま、あなた達の気持ちは私もわかるわ。リクに敵対するなんて、馬鹿馬鹿しいとすら今では思うわ。なんなのよ、意識を奪われたといっても、あんな滅茶苦茶な方法で無理矢理門を……それも二つも開いて世界の力を引き摺り出すなんて……」
なんて、フィリーナに向けていた怪しい笑みをひっこめたロジーナが、溜め息交じりで言った。
首も横に振っているし、やれやれといった様子……。
結局、俺に敵対したら絶望しかないとか、敵とはいえ帝国には破滅の未来しか待っていないだろうから、多少の同情心が出る等々、ロジーナを含めてソフィー達も散々好き勝手に言った後、話を戻した。
……結構な事をやったしやってきた自覚はあるので、俺からは何も言えなかったけど、そこまで言わないでもいいんじゃないかな? とも思わなくもない。
逸れた話が長くなりそうだから、口を挟まずに黙って聞いていたけど。
いや、聞き流していたかな。
エルサがキューをモリモリ食べるのを見ながら、聞こえてくる声は片方の耳からもう片方の耳に流して、料理に集中する事にしていた。
おかげで、少し食べ過ぎてしまったかもしれないけど、朝を抜いているからちょうどいいという事にしておこうと思う――。
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