1,413 / 1,903
起きた直後あるいは起きる直前のちょっとしたドタバタ
しおりを挟む「つぅ……一体何が? って、エルサとモニカさん?」
「おはよう、リクさん。よく寝ていたみたいね」
「よ、ようやく離れられたのだわ。それにしても、痛いのだわぁ……」
痛みに耐えかねて目を開けると、ベッドのすぐそばからモニカさんが覗き込んでいて、何故か恥ずかしそうに視線をさまよわせていた。
それと、いつも俺の頭にくっ付けるくらいの大きさではなく、一メートルくらいの大きさになったエルサが、俺と同じベッドで悶絶していた。
「えっと……?」
「もうお昼よ。それだけリクさんも消耗していたんでしょうけど、ユノちゃんやロジーナちゃんも起きたから、リクさんもそろそろ起きた方がいいかなって」
「あぁ、ユノ達が。そうなんだ……」
どういう状況かわからなかったため、視線をさまよわせていると笑いながらモニカさんが教えてくれた……さっきまでの恥ずかしさは、もうほとんどなくなったようだ。
おそらくモニカさんだろう、開け放たれた木窓の外は明るく高い位置まで日が昇っているのがわかる。
寝たのは遅かったけど、昼まで寝るとは思っていなかったなぁ……意識はともかく、体がずっと寝ていなかったために、疲れが溜まっていたんだろう。
納得しながら体を起こし、ふと昨夜の事を思い出して恥ずかしくなりつつ、モニカさんと寝起きの挨拶をしながら話を聞く。
俺は恥ずかしくて正面から目を合わせられられないのに、モニカさんはもう平気なようだ……女の子は強い。
いや、単純に平気な振りをしているだけかもしれないけど。
それはともかく、俺が寝ている間にユノとロジーナが目を覚まし、昼までの間に色々とやっていたらしい。
とは言っても、大体は隔離結界の外、凍てついた地面の対処法をシュットラウルさんと話したりとかくらいだったみたいだけど。
あと、ロジーナからちょっとした事情聴取をしたみたい。
ユノがいたからか、レッタさんが捕まっているからか、全てではないけど質問には素直に答えているとか。
俺の記憶が確かなら、レッタさんにドロップキックを決めて吹っ飛ばしたのはロジーナだったと思うんだけど……ぞんざいに扱っているのかと思っていたけど、そうでもないみたいだ。
ともあれ、準備を整えて隔離結界の外に行く前に、俺からも一応の話を聞きたいとからしい。
それで、寝ている俺をモニカさんが起こしに来てくれたと。
「で、モニカさんが起こしてくれた理由はわかったけど……エルサはなんで痛がっているんだ?」
いや、ほとんど起きていた状態からの、顎への衝撃。
大体事情はわかっているけど……何故そうしたのかがわからない。
起こすならもっと穏便にしてくれてもいいのに、ユノがお腹の上に飛び乗るよりはいいけど。
「リクが私を離さなかったからなのだわ! 抜け出すには仕方なかったのだわ!」
「俺が?」
そういえば、ずっと極上の感触が腕の中にあって安らかな気持ちになれている、と思っていたけど……あれはエルサのモフモフを俺が抱き締めていたからなのか。
正直、この世界のみならず、地球を合わせても一番の抱き枕だと思う、おかげでよく眠れたし。
まぁエルサにとって、抱き枕扱いされるのは不服だろうけど。
「まぁまぁエルサちゃん。えっと、私が部屋に来た時の状況から話すけど……」
苦笑しながら、エルサの頭を撫で始めたモニカさんが教えてくれる。
なんでも俺がエルサを抱き締めて寝たまま、離さなかったらしい。
ガッチリと腕を組んでいて、モニカさんが解こうと手伝っても、エルサがジタバタと暴れても抜け出せなかったんだとか。
そういえば寝る前に、色んな感情やら衝動やらを抑えるためにエルサを抱き締めた覚えがあるけど……寝ている間中ずっと抱き締めたままだったのか。
抵抗されていたのに、起きなかった俺はよっぽど深く眠っていたらしい。
それだけ意識しないところで、疲れていたんだと思っておこう。
「そういえば、起きる直前にモニカさんとエルサの話し声がしたような……?」
「あ、あれは……」
意識が覚醒しかけていた時の事を思い出し、聞いてみるとモニカさんが気まずそうに視線を逸らした。
「モニカが、リクの寝顔に見とれていたからのだわ。私を助け出すのも、リクを起こすのも忘れていたのだわ」
モニカさんの代わりに、エルサが教えてくれた。
俺の寝顔、観察されていたのか……これまでもモニカさんに起こされた事は何度もあるし、寝顔は見られているだろうけど。
でも、今日はいつになく気恥ずかしさが湧き上がる。
……昨夜の事があったからだろうけど。
「そ! そんな事は……ない、わよ?」
エルサの言葉に、大きく否定しようとしたモニカさんだけど、すぐに勢いを失い、後半は自信がなさそうに疑問形になるモニカさん。
視線が泳いでいるから……エルサの言っている事が正しいのだろう。
「いい加減起きないし、モニカも起こす気を失くしていたから、仕方なく私が大きくなって抜け出したのだわ。物凄く痛かったけどだわ……」
だからあの衝撃か……。
俺の腕から抜け出せず、抱き締められていたエルサが大きくなって、俺の顎とごっつんこしたと。
衝撃が来る直前、瞼を通して感じた光やモフモフの広がりはそのためだったか。
そうまでしないと抜け出せないとは、俺のモフモフへの欲求は寝ている無意識化でもそこまで強く……! なんて考えている場合じゃないね。
「そ、そうなんだ。ごめんエルサ」
モニカさんに寝顔を見られていた、という恥ずかしさから復帰していない俺は、視線を泳がせながらもエルサに謝る。
エルサが寝ている時ならともかく、昼までずっと抜け出せない状況なのは辛かっただろうからね。
というか、顎に衝撃を受けた俺よりもエルサの方が長く痛がるって、俺の顎ってそんなに硬かったのか?
顎対頭……どちらも骨が硬い部分ではあるけど、頭の方が痛みが持続してしまいそうな部分だから、そのせいだと思っておこう。
「それじゃ、モニカさん。また食堂で」
「えぇ。エルサちゃんもお腹を空かせているから、できるだけ早くね。ユノちゃん達も待っていると思うわ」
「早くするのだわー!」
事情などを聴いてベッドから降り、支度をする俺と部屋を出るモニカさん。
その頃には、お互い恥ずかしさもなんとか抑える事ができて笑い合うくらいはできていた。
なんとなく、俺とモニカさんの間に流れる空気がいつもと違う気がするけれど、それは当然とも言える。
まぁ、そんな空気も読まないエルサに邪魔されたんだけど。
「……」
「どうしたんだ、エルサ?」
いつものように、俺の頭にドッキングしたエルサが、何やら静かだ。
朝の支度をほぼ終えて、後は部屋を出るくらいとなるまで特に喋れらなかったから、気になって聞いてみる。
俺から離れられずに、朝食も食べられなかったらしいからお腹が減っていて、もっと急かされると思っていたんだけどね。
「なんか、モニカとリクの様子がおかしいのだわ……」
「うぇ!? い、いや、別にそんな事ないと思うけど……いつも通りだよ?」
モニカさんがいる時は特に空気を読まなかったエルサなのに、妙な鋭さを発揮している。
驚いたけど、とりあえず誤魔化しておく。
でもエルサは、誤魔化されてはくれなかったみたいだ――。
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる