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傭兵としての信頼とリクの評判
しおりを挟む下に見られる事もある傭兵の中で、獣人の傭兵はお金だけでは寝返らない一部に該当し、一定の評価と信頼を勝ち取っている。
まぁアマリーラさん達をシュットラウルさんが雇っているのは、シュットラウルさん自身の力があってこそで、お金だけじゃないとも言っていたからね。
だからといって、別の人物の力を認めたからと簡単に雇い主を変えていては、それはそれで獣人の傭兵……場合によっては獣人その物の信用を失う結果になりかねないとか。
早い話が、俺に雇われる、もしくは忠誠を誓って配下になりたいのであれば、ちゃんとシュットラウルさんと話して辞する手続きを経てからだ、というのがリネルトさんの言い分。
正直なところ、普段はキリっとしていて規律に厳しそうなアマリーラさんが、のんびりしているリネルトさんにこういった話をされるとは思っていなかった。
逆ならありそうだけどね。
ともかく、もしこのままアマリーラさんが勝手に俺について来ようものなら、獣人の傭兵に対する信頼に関わるうえ、俺に対する評判も悪くなる可能性があるらしい。
リネルトさん曰く、俺が無理矢理アマリーラさんを引き入れたとか、言われかねないと。
また、もしアマリーラさんが俺の力を認めたからそうしたのだと主張しても、だったらと変に力の主張をして来る輩も出る可能性だってあるとかなんとか。
ちなみに、獣人の傭兵は精強で、一人雇えば人間の兵士数十人以上、場合によっては百人以上の戦力増強になると言われていたりもして、雇いたい人はかなり多いらしい。
侯爵軍との演習の際、モニカさん達に混じってアマリーラさんとリネルトさんもこちら側に参加してくれたけど、誰も二人を止められなかったからね。
エルサの魔法による攪乱があったし、一番注目される攻め手をモニカさん達が担っていたとはいえだ。
「アマリーラ様はリク様への献身だとか言っていますけどぉ、それが本当に献身になっていないんですよぉ。むしろ邪魔になっているんじゃないですかぁ?」
「そ、そんな事は……リ、リク様ぁ……」
リネルトさんに言われて、正論であるからか言い返せない様子のアマリーラさん。
俺に助けを求めるように、下からウルウルとした目で見られる……顔は上げているけど、まだ跪いているから位置が低く、まるで助けを求める子犬のようだ。
アマリーラさんは猫だけど。
忠誠とか言っているから、確かに犬っぽくはあるけど……むしろ普段はリネルトさんの方が猫っぽい。
「そんな、雨に濡れた子犬のような目をされても困りますけど。うーん……邪魔、というのは少し言い過ぎかなぁ?」
「どうだリネルト、リク様は私の事がお邪魔ではないようだぞ!」
「気を遣われているだけなのがわからないんですかぁ? リク様も、ここは厳しく言う所ですぅ」
「そう言われても……」
あんな目で見られたら、突き放すなんてできないし。
それに、色々と頑張ってくれた事を考えると邪魔と言う程の事はないかなって。
現状、お腹を空かせて帰って来て、アマリーラさんに防がれている形になっており、頭にくっ付いているエルサが段々と苛立ちを募らせているような雰囲気が、俺の頭を掴む力が弱まっていない事から伝わって来るけど。
ギリギリと締め付けていたのは、既に解かれているからあまり痛くないんだけどね……ちょっと痛いかな。
モニカさんは、リネルトさんが乱入してきた時から少し離れた場所に移動して、傍観している。
俺がどうするのか、半眼で見ているようでもあるけれど。
「とにかく、最低でもシュットラウル様に話を通してからでないといけませんよぉ。傭兵としての筋を通さなければ、獣王様に叱られますよぉ?」
「獣王様や、他の獣人も私の気持ちはわかってくれるとは思うが……」
「気持ちがわかる事と、筋を通す事は違いますよぉ。ほら、エルサ様だってちゃんとしろって、こちらを睨んでいるじゃないですかぁ?」
「ようやくキューが食べられると思って帰って来て、邪魔をされているのだわ。睨むのも当然なのだわ」
食べ物の恨み、と言う程ではないけど空腹のエルサは気が立っている。
触らぬドラゴンにたたりなしだ。
リネルトさんに言われて、小さく呟くエルサからはアマリーラさんに対して、憎しみのようなものが漏れている気がしなくもない。
低く、地の底を這うような声に、アマリーラさんは身を震わせた。
さすが獣人と言うべきか、小さい声でもちゃんと聞き取れたらしい……耳がいいのかもしれない。
「……う、うぅ……だが、この恐怖に打ち勝ってこそリク様のために……これは私への試練……」
再び頭を垂れて、と言うよりは項垂れて体を震わせつつも、何やら意気込むアマリーラさん。
エルサはお腹が減っているだけで、試練でもなんでもないですよー。
「はいはい、意味のない事に頑張ろうとしないで、別の事を頑張りましょうねぇ。リク様、エルサ様、それからモニカさん、アマリーラ様が失礼しました~」
「ちょ、何を……話せリネルト! 私はまだリク様に……!」
俺と同じ事を考えたのか、意味がないとアマリーラさんの意気込みを一蹴したリネルトさん。
そのまま、俺やモニカさん達お辞儀をしてアマリーラさんの襟首をひっつかんで引き摺って行く。
アマリーラさんは抵抗するためジタバタしているようだけど、リネルトさんはその手を離さずズルズルと、階段を昇って行く。
……階段、痛くないのかな? というか、戦いっぷりを見ていたらリネルトさんよりアマリーラさんの方が力が強そうなのに、振りほどけないのは不思議だね。
体格的には、大柄なリネルトさんの力が強いのは納得なんだけど。
「エルサ様からの圧で、体に力が入っていないアマリーラ様はおとなしく引き摺られて下さいねぇ~」
「いや、そんな事は……あ、痛い! 痛いぞリネルト! さすがに階段は……あー!」
……アマリーラさんが振り解けない理由は、エルサに睨まれて腰が抜けていたとか、そんなような状態だかららしい。
そのまま、リネルトさんに引きずられ……というより、階段の段差に体を打ち付けられながら、悲鳴を上げつつアマリーラさんは連れていかれて行った。
というか、リネルトさんとアマリーラさん、この宿に泊まるのかな?
空き部屋はあるみたいだから、いいんだけど。
「はぁ……」
静かになったその場に、俺の溜め息が響く。
リネルトさん達が去った後に、宿の人達が俺達を迎えるために出て来ている……もしかして、アマリーラさん達がいたから、出るに出られなかったんだろうか?
巻き込まれたらめんど……様子を見ていたんだろう。
「アマリーラさんがあんなに積極的だったとは。私もうかうかしていられないわ……ところでリクさん?」
「え、どうしたのモニカさん?」
俺達を迎え、食事の準備が整っているとの言葉をかけてくれる、宿の人達。
早くと急かすエルサを撫でつつ、食堂に移動している途中、何やら小さく呟いたあとにモニカさんが俺に対して呼びかけた。
モニカさんの表情はにこやかで、声もいつもとあまり変わらないはずなのに、なぜか底冷えする気がするのは一体……。
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