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ヘルサルの農場は順調そう

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 以前様子を見に行った時は、短期間でもかなり大きく成長していた作物……になる前の植物の様子が見られた。
 あれからそれなりに建っているし、俺の感覚だと短くても隔離されている間に結構日数が経っているから、最初の収穫が終わったんだろう。
 それが、王軍の到着前後、もしくは一緒にセンテに届いていたのか。
 もしかしたら、王軍がヘルサル付近を通る時、物資を補給して一緒に持ってきたのかもしれないけど。

 ヘルサル農場、初めての結界を使ったハウス化と魔力溜まりのある場所だから、色々と不安な部分はあったけど。
 今のところは想像以上に順調ってところかな。
 広さはそれなり程度らしいけど、作物の成長が早くて何度も収穫できるなら、今後重要な場所になったりするのかな?

 ある意味すでに重要ではあるけど……でも、連作障害が怖いか。
 こちらの世界では連作障害にどう対処しているのか、知らないけど。

「良かったのだわ。私が頑張った甲斐があったのだわ~」
「エルサがって、頑張ったのはキューを作った人達だろう?」
「私も頑張って、リクを運んだのだわ。それで、農場ができるようになったのだわ」
「いやまぁ、そうだけど……」

 空を飛ぶのが好きだから、エルサにとっては頑張ったという程じゃないくせになぁ。
 本当に頑張ったのは、結界の維持をするために魔力が以上に蓄積されてしまったガラスを、魔法具化してくれたフィリーナと、改良したアルネ。
 それから、実際にその農場で作物を作った人達だ。
 ……元ギルドマスターさんも、農夫として協力していたんだったっけ。

「私のおかげなのだわ~。私がキューを増やしたのだわ~」
「ふふ、エルサちゃんが楽しそうだから、それでいいんじゃない?」
「はぁ、そうだね」

 頭にくっ付いたまま、歌うような声を出して上機嫌なエルサ。
 それを笑って見ているモニカさん。
 移動に関しては、エルサのおかげなところも大きく、おかげでセンテが危機に陥ったタイミングでキューを収穫できていたので、エルサが増やしたと言っても過言じゃないんだろう、多分。
 俺は息を一つ吐いて、モニカさんに頷いた。

「でも、今日明日は大丈夫だと思うけど、今の状態がずっと続いたら結局不足する事になるかもしれないわね……」
「キューがいっぱい作られるのだ……どういう事なのだわ、モニカ?」

 ふと思いついたように、視線を空へと向けてモニカさんが呟く。
 上機嫌だったエルサが途中で止まった。

「だって、今結界の外の地面はセンテ一帯が凍っているのよ? いくら近いからと言っても、ヘルサルから運んでこられないし……そもそも入れないわ」
「あーそう言われればそうだったね。まぁ入るとしたら、モニカさん達が開けた穴からくらいだけど、グルッとセンテを回って南東側からになる。それに、あの寒い中作物を運んで来るのは厳しいだろうね。作物の保存にはいいかもしれないけど」

 ヘルサルがあるのは西で、出入りができそうな結界の穴は南東。
 センテとの距離は乗り合い馬車で数時間程度だから、そこまで離れていないしエルサなら飛べばすぐだ。
 だけど、西からは隔離結界があって入れないし、穴のある南東まで回るのは結構手間だ。
 そもそも、凍てついた地面を馬が走れないだろうし……人が持って運ぼうとしたらさらに時間がかかるうえ、労力も増す。

 それに外はかなり寒いので、ちゃんとした備えをしていないと人の足で運ぶのに一日以上かかってしまえば、凍死の危険性がある。
 凍った地面の上で寝るなんて自殺行為だし、休まず運び続けるなんてのもできないだろう。

「そ、そんな……だわ。キューが、キューが届かなくなるのだわ!?」

 モニカさんの言葉を理解し、驚くエルサ。
 エルサにとっては、キューが少なくなるのは死活問題だろうからね。

「まぁすぐになくなるわけじゃないと思うし、食べる量を減らせばいいんじゃないかエルサ?」
「そんな……キューを減らすなんて、考えたくないのだわ」

 愕然とした声がエルサから返って来る。
 モニカさんの様子から、そうそう足りなくなる事はないとは思っていても、ついついイタズラ心から言ってしまっていたけど……ちょっと申し訳なくなるね。

「あはは、冗談だよ。頑張ってくれたエルサに、キューを我慢させるような事はさせないから。きにせず、思う存分食べるといいよ」
「なくなったりしないのだわ?」
「食べ続けてたら、いつかなくなるとは思うけど……あと、大きくしてさらにいっぱい食べるとかはだと困るけど。でも、方法はあるでしょ」
「そうよね。リクさんの言う通りよ」
「方法、なのだわ?」

 頭から、エルサが首を傾げたような動きが伝わってくる。
 さっきの庁舎で、皆が気付かなかった事にも気付いたり、鋭いところがあるのにこういうところは気付かないんだな。
 キューの事だから必死になり過ぎて、っていうのもあるだろうけど。
 モニカさんは、俺が言いたい事に気付いている様子だ。

「外には出られるんだから、こちらから取りに行けばいいんだよ。明日になれば、エルサも大分魔力が回復しているだろうし」
「そ、そうなのだわ! 私が自ら行けばいいのだわ! 魔力が回復したら、すぐに行くのだわ!」
「いや、すぐにキューはなくならないから、そこまで急ぐ必要はないんだけどね」

 今すぐでも、魔力が流れ続けているから大きくなって飛ぶくらいはできるだろうけど……結界を張りながら飛べるかはわからない。
 だから明日以降であれば、これまでのようにエルサが自由に空を飛んで移動する事ができるわけで。
 だったら、キューもそうだけど物資が不足しそうだったらエルサが、というかエルサに乗った俺達が外から運んでくればいい。
 まぁそれまで、俺が凍てつかせた地面の問題が解消しなければ、だけど。

「それに、空を飛べるのはエルサだけじゃないだろう?」
「リーバー達もいるわよね」

 ワイバーン達なら、ヘルサルに飛んで行くくらいわけがないだろうし、食料を運んで来る事もできるはずだからね。
 それこそ、食料を大量に入れた箱とかを数体のワイバーンに繋げて飛んで運んでもらう、なんて事もできそうだ。

「そうだったのだわ。こき使ってやればいいのだわ」
「協力してくれているんだから、こき使うのはちょっとね。今回の事で大分頑張ってくれてもいたし。喜びそうではあるけど」

 むしろワイバーンの一部は、こき使われるのを喜んで受け入れそうだけど……物を運ぶだけだから、危険はないし。
 とはいえ、協力してくれる事になってからのワイバーンは、皮などの素材提供から空を飛んでの偵察、ヒュドラーと一緒に迫ってきた魔物との戦いなど、貢献度は高いし無茶な扱いはしたくないし労いたいくらいだ。
 今このセンテにいる人達の中で、ワイバーンを怖がる人こそいるかもしれないけど、忌避する人はかなり少ないと思う……それだけ、活躍してくれた。
 ただヘルサルに飛んで行くなら、先に事情を伝えるか、伝えられる人が同乗する必要があるだろうけど。

 向こうでは、ワイバーンの事が伝わっているとしても直に見た人はまだいないんだから。
 まぁとはいっても、これはもし物資が足りなくなったらの話。
 明日になれば皆で地面を溶かす作業が始まるし、俺も手伝えばそんなに長い期間になる事はないと思う。
 ……やり過ぎないよう注意しなきゃいけないけど。

 むしろ、地面を溶かした後の街道の整備とかの方が、大変だろうなぁ。
 シュットラウルさんは、しばらく忙しくなりそうだ……体調には気を付けてもらいたい。
 そんな話をしながら、キューが食べられなくなる心配のなくなったエルサに再び急かされて、モニカさんと宿へ戻った。
 ユノ達、そろそろ起きているかな?

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