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魔法の壁は呼び鈴代わり
しおりを挟む「分厚く、皆で協力してできた穴を埋めるように、魔法を発動させたのだけど……壁が外側からジワジワと崩れていくようだったの。それで、クォンツァイタを設置して魔力を供給。新しい壁を作って常に埋まっている状態にしたのよ。一度発動した魔法に、クォンツァイタからの魔力を供給するのは、リクの結界で慣れているからね」
結界に似せた壁を作って、それで問題は万事解決……というわけではなかったらしい。
言われて気付いたけど、俺達が戻ってきた穴の周囲には大量のクォンツァイタが散らばっていた。
クォンツァイタを魔法具化して、魔法の維持などに使うのは結界を応用した維持を、何度もフィリーナがやってくれているからね。
それの応用って事だろう。
「……本当は再生するようにしたかったんだけど、発動した壁と合わさらなくて新しく発生するようになっちゃったってわけ」
「成る程、それであんな事になっていたのね。戻って来たら、よくわからない壁があって驚いたわ」
フィリーナが両手を空に向け、肩をすくめながら言うのに対し、頷いて納得するモニカさん。
フィネさんとリネルトさんは、ちょっとだけ首を傾げていたので完全に理解したわけじゃないっぽいけど、とりあえず納得はしたようだ。
二人は結界を見ていても魔法を使わないからね……そちらの感覚的な部分とか、色々とわからないんだろうと思う。
使えないのか使わないのかは、わからないけど。
「驚いたのはこちらよ。穴が塞げた事で、とりあえずしばらくは大丈夫と思って休んでいたら……急に外が氷の世界になったのよ? 皆驚いて、今この覆っている結界の各地で外を窺ったり、確認に追われているわ」
「それは、リクさんのやる事だから。まぁでも、地面まで赤くなっていた状況は改善したと言っていいかしらね」
「……まぁ、そんな事リク以外にできるわけがないけど。で、そんな混乱の最中、急に作った魔法の壁に異変を感じたの。魔力は色々と供給してもらったけど、魔法を使ったのは私だからね。魔力的な繋がりで、部分的な攻撃というか圧力のようなものを感じたのよ」
俺が結界を使っている時、維持のために魔力を繋げている際に強い衝撃などを受けると、感じる感覚だろうか……俺の場合は、軋みのように感じるけど。
多分、地面を凍てつかせた時も感じていたはずだけど、半透明ながら見える外の景色が完全に銀世界……というか凍てついたから、それどころではなかったんだと思われる。
そうして、混乱して調べているうちに俺達が氷を砕き、魔法の壁を斬り裂き始めた事でフィリーナが感知したってとこだろう。
「私達がやっていた事は、フィリーナへの報せになっていたわけね。だったら、もう少し待っていれば誰か隔離結界の外にいる私達に気付いていたかしら?」
結界を真似しているものだから微妙だけど、呼び鈴代わりみたいになってくれたのか。
用途として正しいかはともかく、そういう使い方もできるって事だね。
「それはわからないわ。でも少なくとも、すぐじゃなかったと思うわよ? 一部の人達が外の異変を調べようとしているけど、ここは皆が集まっているところから離れているから。私はほら、あそこにいるワイバーンに乗せてもらったから、不完全な壁の様子をすぐに調べに来られたけど……」
モニカさんの言葉に答えるフィリーナが示す先……少し離れた石壁の向こう側には、ワイバーンが一体顔をのぞかせていた。
成る程、この場所はセンテの南東の位置で、東門からも離れているから隔離結界を調べるにしても、すぐに駆け付けるのは難しかったんだろうね。
ワイバーンに乗って早めに来れただけで、それは魔法の壁から異変を感じられたからってわけで、無理に壊そうとしなければ良かったという事でもないみたいだ。
まぁ、あのまま外で誰かが気付くのを待っていたら、寒かっただろうし寝ているユノ達もいるからね。
早く入れるに越した事はないか。
わざわざ暖を取る方法をなんとかするよりは、さっさと内部に入り込んだ方がいいだろうし。
「そういえば、皆が集まっているってフィリーナは言うけど、どこに集まっているの?」
「兵士の一部はともかく、大体は街の中央付近に集められているわ。自分達の家を持つ人もいるけれど、いつ何があるかはわからないと考えて、いつでも動けるようにね。冒険者は冒険者ギルドに、侯爵様達は庁舎で私達は使っていた宿ってところね」
「成る程……」
「戦えない者達は、街の門には近づかないようにさせているわ。東側はともかく、他の場所では門から結界まであまり距離がないからね。動ける兵士を巡回はさせているけれど……」
ふと気になってフィリーナに聞いてみると、モニカさん達が隔離結界を出た後、シュットラウルさんやマルクスさんの指示で戦えない人達は街の中央付近にひとまとめ。
それから兵士さん達は一部が休むために北側の駐屯地になっている場所へ、冒険者さんは冒険者ギルド周辺に集まっているみたいだ、ベリエスさんからの指示を受けやすくするためだろう。
ただ警戒態勢は続けて、シュットラウルさん達指揮する人達は庁舎に留まりつつ、兵士さん達による巡回をさせているとか。
魔物は一応完全に排除したみたいだけど……西側はスピリット達が、東側は隔離結界を抜ける前に殲滅したみたい。
隔離結界は戦場となっていた東側を除いて、門や外壁に近い場所で覆っている。
まぁ西側は少しスペースを取ってあるけど……隔離結界を使った時、魔物と戦っていた人達がいるから。
なんにせよ、もし隔離結界がいきなりなくなってまた何か異変が起きた時、街の中にこもっていた方が対処しやすいと考えたんだろうね。
戦えない人達も、中心部にいてくれれば東西南北どこから何かが来ても、少しくらいは時間が稼げるだろうし、その間に逆方向に逃げようとする事だってできる。
とにかく、そうして人を集めつつ隔離結界の穴から、赤熱した地面の浸食を確認して対処。
フィリーナはカイツさんと協力して、魔力が余っている人と一緒に魔法の壁を作ったってわけだね。
「とりあえず、この先どうなるかの見通しはともかく、なんとか諸々の対処を終えてようやく休めると思ったら……外が凍るという異変に、魔法の壁の異常を感知よ。リク達だったから良かったけど、疲れたわ……」
「あはは……お騒がせしました」
「まぁ、無事にリクは帰ってきたし、結果の外が凍ったのもリクの仕業なんでしょ? だったら、もう脅威がなくなったって思っても良さそうね」
「うん。周辺の魔物は全ていなくなったし、何かが襲って来る事はないよ。少なくとも、今すぐにはね」
モニカさんを支えに立っていたフィリーナは、やっと近くに投げられた槍が突き刺さったショックから抜け出したのか、ヨロヨロとおぼつかない足取りながらも安心した様子になった。
話を聞く限りだと、隔離結界に穴を開ける時も魔法の壁を作る時も、結構無茶と言いうか無理をしているみたいだから、疲れて当然だよね。
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