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不思議な感触の何かも三人で
しおりを挟む「なんでもないよ……っ。足場結界っと……これで、不思議な感触の壁のすぐ近くまで行けるよ」
「……リクさん、本当に大丈夫なの? なんだか少し様子がおかしいけれど」
「結界を張るのに、こめかみを抑える必要はないのだわ。どうしたのだわ?」
不思議な感触のすぐそばまで足場結界を作り出し、何でもないと示すようにモニカさん達の方を向いて、笑う。
けど、モニカさんとエルサは、そんな俺の様子から不自然さを感じたようだ……フィネさんやリネルトさんも、少し訝し気にこちらを見ている。
まぁ、思わずこめかみを抑えていたし、見られていて当然だからね。
でも、その痛みやノイズみたいなものももう一切なくなっていて、動く事や話す事に支障はない。
「大丈夫。ちょっとだけ変な感じがしたけど、多分ずっと寝ていないからだと思う。俺自身は、あまり疲れた感じはないんだけど……体の方はちょっと疲れを感じているのかもね。寝不足とか」
「あ、そうよね。私達にとってはヒュドラーとかと戦っている時から、一日も経っていないけど。リクさんにとっては十日だったかしら? そんなに経っているみたいだものね」
「……怪しいけど、そういう事にしておくのだわ」
問題ない事を示すように、モニカさんに笑いかける。
モニカさんは納得したようだけど、頭にくっ付いているエルサは不承不承頷いたのが伝わってきた。
さすがに、平気な振りをしていてもエルサにはなんとなく、違和感のようなものが伝わってしまったのかもしれない。
今モニカさん達に言った寝不足というのは、半分本当で半分嘘だ。
俺の体はともかく、意識としては飲み込まれていたのでずっと起きていたという感覚はない。
それに、魔力が充実しているせいか、疲れもほとんど感じていない。
ただ、俺が感じないだけで体は確かに寝てはいなかったはずだから、そういう事もあるかもとね。
人間が、十日以上も寝ずに過ごせるかというのはともかく、体がずっと起きていればそういう事だってあるだろう……特に、イメージするのは頭の中なので、脳内が疲労をため込んでいる可能性とかもあるかもしれないし。
ノイズというと、ユノ命名のバーサーカーモードの時、敵を倒す事以外がノイズのように感じられていたから、それも何かしら関係していたりするのかも?
いや、こじつけだけど……バーサーカーモードには今回なっていないし。
なんにせよ、もうすぐ隔離結界の中に入れるんだから、その後はゆっくりと寝させてもらえば大丈夫だろう。
「それじゃ俺は無理しないように、離れて見ておくよ」
「えぇ、任せて」
「任せて下さいねぇ」
「はい!」
手を振って離れる俺に、それぞれ頷いて応えるモニカさん達。
三人がそれぞれ視線を合わせ、新しく俺が作った足場結界に乗って武器を構える。
あ、さすがに三人並ぶには穴の幅が狭いから、フィネさんとリネルトさんが前で、モニカさんが後ろにいるんだね。
武器を振るわなきゃいけないから、並んで詰まらないようにだろう。
「では……いざ!」
大きく斧を振りかぶるフィネさんは、氷を砕いていた投擲にも使う斧ではなく、ワイバーンの素材を使って作られた青い刃の両刃で少し大きめの斧。
ラブリュスっていうんだったっけ? 確か、もっと大型なのをリリーフラワーのおっとりアンリさんが持っていたっけ。
「行きますよぉ! せっ! はっ! たっ!」
短い呼気と共に、振りが大きいフィネさんの間断を縫うように、素早く何度も剣を繰り出すリネルトさんはあまり特徴のないショートソード。
とはいえ次善の一手を使っているのもあるけど、その切れ味は申し分なく……さっきは斬ろうと振るったら、途中で受け止められると言っていた様子は見られない。
振り下ろせば下まで、振り上げれば上まで抵抗らしい抵抗もなく、斬り裂けているようだ。
さすがに、横薙ぎにはフィネさんが横にいるためできていないけど。
「モニカさん!」
「えぇ! はぁっ!」
フィネさんが斧で大きく外側を斧でぶった斬り、リネルトさんが細かく切り刻む。
さらにフィネさんから声をかけられたモニカさんが、手を止めて隔離結界に体を張り着かせ、空間をあけた二人の間に入り、魔力を纏わせた槍で突きを放つ。
そういえば、モニカさんの槍がいつの間にか以前から使っている物になっているね……対ヒュドラーの作戦開始前、ワイバーンの素材を使った槍を受け取っていたはず。
レムレースと戦っていた時は持っていたと思うけど、どこかで落としたんだろうか? 壊れるなんて事はそうそうないと思うけど……。
「っ! 再生しているの!?」
「いえ、というよりは新しい壁が発生している、と言った方が正しいのかもしれません」
「細かい違いはわからないけどぉ、もっと一気にやらないといけないみたいですねぇ」
俺が余計な事を考えている間に、それぞれの武器で攻撃を終えた三人が不思議な感触の壁に触れて確認。
何やら、斬り裂いても貫いても、その後すぐに再生しているらしい。
いや、フィネさんの言う事が本当なら再生というよりも新規に発生している、という事みたいだ。
壁は目に見えないし、下がっている俺からするとどう違うのかわからないけど。
「ちょっと、試してみるわ。離れていてね……フレイム!」
モニカさんの指示で、フィネさんとリネルトさんが下がるとすぐに発動する魔法。
良くモニカさんが使っている、炎を出す魔法だ……急な事で驚いたけど、リーバーの吐き出す炎程の勢いはないので、俺達がいる結界内に大きな影響はなさそうだね。
「やっぱり駄目ね、表面が少し燃えたような反応をだったけど、すぐに新しくなっているわ」
「となると、リネルトさんの言っていたように、一気に奥まで貫き通す必要がありそうですね」
「貫くとなれば、やっぱりモニカさんですよねぇ?」
「まぁ、この中では確かにそうね。それじゃ、こういうのはどう……?」
不思議な感触の壁の前で、魔法も特に意味がなかったのを確認した後、三人が何やら相談を始めた。
エルサはただ見ているだけだし、というかウトウトしている気配が頭から伝わってくる……魔力をかなり使っていて疲れているからだろう、退屈だからというわけではない、のかもしれない。
とにかく、なんとなくハブられているような感じで寂しかったので、寝ているユノ達の様子を見つつ、リーバーやワイバーン達を相手にして寂しさを紛らわせる事にした。
……俺も仲間に加わりたかったとか、楽しそうでいいなぁとか、思っていない……くすん。
「貫けぇっ!!」
リーバー達を撫でていると、突然響いたモニカさんの叫び。
その声にビクッと体を竦ませてしまったのは、意識が飲み込まれていた時にモニカさんが色々と、筆舌に尽くしがたい言葉を叫んでいた影響かもしれない。
状況が状況だったから、聞こえていなかったので全部じゃないけど、印象深くて深く記憶に刻み込まれているからなぁ。
ともあれ、叫び声が聞こえたモニカさんに注目すると、大きく振りかぶって持っていた槍を投擲する場面だった――。
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