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リク以外で協力して氷を砕いていく

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「フィネさん、斧を……」
「いえ、これくらいなら私でも割れるかと。お任せ下さい」

 割るとなれば、斬る剣や貫く槍よりも斧が最適……と思って、白い剣を鞘に納めつつフィネさんに斧を借りようと声をかける。
 すると、表面が周囲の温度によって溶け始めている氷を、軽く叩いて確かめていたフィネさんは、自分でやると構えた。
 絶対俺がやらなきゃいけないわけでもないし、フィネさんにもできるだろうから任せよう。

「わかりました、よろしくお願いします」
「はっ! では、皆様少々離れていて下さい」
「……アマリーラ様が起きていないくて良かったですぅ。起きていたら絶対自分がやるんだって、きかなかったでしょうから、しかも素手でぇ」

 フィネさんにお願いして、少しだけ距離を取る……斧を振りやすいようにと、割れた氷が飛んで来る可能性があるからな。
 そんな俺達の様子を見ていたリネルトさんがぽつりと呟き、ワイバーンに縄でぐるぐる巻きに括りつけられているアマリーラさんを見た。
 確かに、起きていた時の様子を見る限り、言いかねないね。
 アマリーラさんは今武器を持っていないし……素手でぶち抜く! みたいな事を言い出しそうでもある。

 小柄な体に似合わず、怪力系のアマリーラさんだからできなくはないけど、素手で氷を割るのはちょっと危ないから、寝ていてくれて良かった。
 意識を失わせたのは俺だというのはともかくとして。
 ちなみに皆の武器だけど、植物が消えて落ちて来るワイバーン達をエルサが受け止めた後、まとめて隅の方に落ちてきた。
 どうやら、生き物から力を吸う事を目的として茎で皆を絡め捕っていたらしく、持っていた武器は植物が一つの場所に集めて除外していたらしい……意識を持っているような行動だけど、植物にはその意識はなかった。

 ワイバーンに乗って出発する時、モニカさんやフィネさん、リネルトさんは自分の武器を回収。
 ユノやロジーナ、それからロジーナが借りていたアマリーラさんの大剣や新たに持って来ていた物は、誰も乗せていないワイバーンの背中にまとめて載せてあったりする。

「リク様の魔法での氷、割るのはとんでもないと言い出すか、それならせめて素手でと言い出すでしょうねぇ……」
「あははは……」

 困ったような表情でありながら、間延びする喋り方のリネルトさんに俺は、苦笑を返すしかできない。
 だって、ちょっとの時間だけど結界に頬擦りまでしていた人だから、否定もできないからね。
 ……アマリーラさん、どうしてそう残念な事になってしまったのか。
 何はともあれ、今はアマリーラさんの事より氷を割ろうとしているフィネさんの方に意識を移そう。

「はぁっ!」

 フィネさんの吐き出される呼気と、力の入った声と共に振り下ろされる斧。
 おそらく次善の一手として、魔力も纏わせているんだろう。
 見ている分には抵抗らしい抵抗もなく、氷に斧の刃が通ったと思った瞬間……バキッ! バリィン! といくつもの音を立てて、穴を塞いでいた氷が割れた。

「お……」

 周囲に散らばる氷の破片。
 それらを見て、さすがフィネさんと思っていると……さらに斧を振り上げるのが見えた。

「ふん! てあぁ!」

 斧の刃ではなく、逆側……斧頭の部分を使い、何度も振り下ろして氷を叩き割って行く。
 成る程、先に刃で大きく斬りつけて深めに割ってから、今度は鈍器のように使って残っている氷を砕いているのか。
 最初をフィネさんが振り下ろした時、次善の一手で刃を通してその周辺が割れていたけど、全部を割るには至らなかった。

 穴を塞ぐ氷はリーバー達が通れるくらうで、縦横三メートル前後くらいあるからね。
 俺が白い剣で貫いた穴と、フィネさんの斧で斬り開いて割りやすくなっているから、ここからは打撃の方がやりやすそうだ。

「私も手伝って来るわ。細かい部分はこっちの方が良さそうだからね。リクさんは少し休んでいて」
「あ、うんわかった」
「私も行ってきますぅ。こういうの好きなんですよねぇ」

 そう言って、モニカさんとリネルトさんがフィネさんの方へ駆け寄る。
 フィネさんが唐竹割のように真っ直ぐ縦に斧を振り下ろすのに対し、左右に槍と剣を持って残っている隅の方の氷を砕き始めた。
 大きくフィネさんが氷を割って進み、左右はモニカさんとリネルトさんが担当して完全に氷を砕いて行っているみたいだね。
 さらに、上部の高いところは槍で、下部の低いところは剣で砕いているから、直に終わるだろう。

「……とはいえ、休んでいてと言われても手持無沙汰なだけなんだけどね。まぁ、モニカさん達に任せて、見ているだけにしておこう。――リーバー、ありがとうな。ここまで乗せてくれて。それに、モニカさん達にも協力してくれたみたいだし」
「ガァ、ガァゥ!」

 あまり時間はかからないだろうけど、氷を割るのはモニカさんやフィネさん達に任せる事にして、作業を見守りながらリーバーを労う。
 首辺りを撫でながらお礼を言うと、嬉しそうに鳴いた。

「リーバーもワイバーンも本当に頑張ったのだわ。押し寄せる魔物相手にも戦っていたし、リクを助ける時も、リーバー達がいなかったらどうしようもなかったのだわ。特別にキューを食べる事を許すのだわ!」
「ガァ~ウ。ガァ?」
「いやエルサ、頑張ってくれてありがたいのは確かだけど、リーバー達は別にキューを食べないだろ?」

 エルサから褒められて嬉しそうにするリーバーはしかし、キューと聞いて首を傾げた。
 野生のキューみたいなのがあるかは知らないけど、あまり食事を必要としないワイバーン達はキューを食べた事ないし、知らないだろうにと苦笑する。
 でも本当に、あの赤熱した地面を見ているから、空を飛べなくなっていたエルサに変わってモニカさん達を乗せてくれなければ、俺のいた場所まで来れなかった。
 赤い光の影響を残す地面が覚めるのを待っていたら、取り返しのつかない事になっていたかもしれないからなぁ。

 植物が大きく広がり、皆が協力しても、ユノやロジーナが無理をしても内部に入り込めなかったと思う。
 そもそも、高い位置で茎に絡め捕られていたロジーナを、救出する事はできなかっただろうから、無理をする事もできなかったんだけど。
 それに隔離結界に守られているセンテは無事……とはならず、穴が開いているので内部にも茎が入り込んで、皆が巻き込まれていた可能性が高いし。
 冷気と違って、生き物の力目掛けて茎が伸びるし、内部に入らないと考える方が間違いだろうね。

 それにしても、エルサに本当に素直になったなぁ。
 キューを食べさせると言うのもそうだけど、以前ならだれの事も今のように褒めたりはしなかったともう。
 ……俺が意識を飲み込まれている間に、何があったのか気になるところだね。

「そんな、なのだわ!? あの全ての世界で最高の食べ物を、食べないなんて人生……魔物生だわ? とにかく、損をしているのだわ! 生きている意味がないのだわ!」
「大袈裟だから。エルサが一番好きなのがキューってだけで、他にも美味しい物はいっぱいあるし。そもそも、リーバー達はあまり食事に興味はなさそうだからなぁ」


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