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次善の一手を使う次善隊の突撃
しおりを挟む「さすがマルクス殿だな。魔法と矢が止むその直後に、結界へ次善隊が到達できるタイミングだ。それでいて、頭上を走る魔法や矢にも当たらないよう、計算している」
シュットラウル様が感心したように、確かに頭上をすさまじい勢いで飛ぶ魔法や矢は、次善隊の先頭にすら当たっていないようね。
私を含めて、剣などでも攻撃する関係上魔法や矢で狙う場所は、私達を覆っている結界をして低い場所。
大体、皆の顔くらいの位置としているから、当然頭上に打ち上げられた魔法も矢も、当たる前に高度を落とす。
どうしても、突撃する次善隊の頭に当たってしまう恐れがあったわけだけど、そうならないようにマルクスさんがタイミングを見計らい、見定めて突撃の号令を出したって事なんだわ。
それでいて、最後に放たれた魔法と矢が結界に当たった直後に次善隊が到達し、次善の一手を撃ち込めるようにもしている……と。
さすがは大隊長にまでなった人、なのかしら。
私やソフィー達じゃ、自分はともかく皆の進む速度まで頭の中で計算して、当たらないようになんてできないし、少しでも躊躇すれば間が空いてしまうわ。
ほんの少し程度なら、大きな問題にはならないんだろうけど……エルサちゃんが言うには、攻撃を加えて魔力に干渉、乱したとしても間が空けば開く程他の結界の他の場所から魔力が供給され、維持と修復が行われるみたい。
だから、できるだけ間を置かず、間断ない攻撃が望まれるって話だったんだけど。
ちなみに、とんでもない数の結界が張られているため、攻撃を加えて破る……割れた結界も間を置けば修復されて元通りになるとか。
修復されないよう間断ない攻撃を加えたうえで、確実に結界を破って行かないといけないなんて、ほんととんでもないわ。
「さて、私も準備をせねばな」
「シ、シュットラウル様……?」
感心しながら、櫓から飛び降りて来るシュットラウル様。
次善隊が突撃して見晴らしがよくなったとはいえ、降りてきたら全体を見渡せないと思うのだけれど……。
戸惑う私を余所に、スラリと抜かれる剣……細身で突く事に特化したレイピアという部類の剣ね。
ロングソードより長いけど、鋭さを追求するための細い剣身が折れやすく、扱いが難しいとされているわ。
槍の方が柄が長いため、突進力やリーチはあるけれど、深く突き刺すという点に関してはレイピアの方が上ね。
櫓から降りて、剣を抜いて何をするつもりだろうか……? なんて、考えるまでもないわね。
「なに、私も向かわねばなと思ってな。貴族は民の先頭に立って戦う者でもある。全てを皆に任せるだけというのは性に合わん。それに、リク殿の結界ならば危険はないからな」
事もなげにそう言って、レイピアで素振りをするシュットラウル様……剣身が細いのもあってか、鋭い突きはほとんど私の目には見えなかった。
隣で、フィネさんやソフィーもその鋭さに目を見開いている……あ、シュットラウル様が降りて来たから驚いているのかも。
「た、確かに危険なありませんけど……」
リクさんの結界は私達を守るため。
当然結界が反撃なんてしてくるわけはないし、ただそこにある壁というだけ。
むしろ危険があるとすれば、味方の何かしらの攻撃に巻き込まれる事。
近くで結界へ攻撃を加える次善の一手に当たったりとか、それくらいのものだけど……。
「……」
櫓の上を見てみると、侯爵家の執事が首を振っていた……止めても聞かない、という事だろう。
貴族は国から領地を与えられ、それを治める……貴族と聞くとまずそういった役目を思い浮かべるけど、本来は外敵、魔物や他国から民を守るためにある……らしいわ。
リクさんと出会うまでは、貴族とのかかわりを持った事がなかったし、詳しくはないけど。
でもそういった役割があるため、侯爵軍のように街などを守る衛兵以外に、兵士を集めて軍を持っているし、当主の判断で動かす事ができるんだとか。
とはいえ、これまでセンテを守るために手を尽くしたシュットラウル様を、今更攻撃に参加しなくても、悪く言う人はいないだろうと思うわ。
以前に魔法鎧を身に付けて、魔物に突撃した事もあるみたいだし。
と思ったのだけれど、張り切っている様子のシュットラウル様を見て、この場に留まるよう進言するのは諦めたわ。
成る程、後ろで見ているだけなのは性に合わない……ね。
「そろそろ次の魔法攻撃が再開されるか」
ヒュン……空気を斬る音を立ててレイピアを降ろしたシュットラウル様が、呟きながら視線を向ける先。
そちらでは、次善隊のほとんどが結界に攻撃を加えて散会……左右に別れて転身しているところだった。
次善隊は一撃離脱。
突撃した兵士が退いたら、準備を整えていた魔法隊による魔法攻撃が再開され、余力を残さないよう全力を撃ち込む手筈になっているわ。
「「魔法隊構え!!」」
私が頭の中で作戦の流れを確認しているのを肯定するように、響く母さんとベリエスさんの声。
あと数列、次善隊の攻撃が加えられたら、魔法を放つためね。
「少し、結界が薄くなっている……か?」
魔法隊を指揮する母さん達の声を聞きながら、結界へと目を凝らすシュットラウル様。
次善隊が転身してたおかげでよく見えるようになった、攻撃を加えていた結界部分。
私達を覆う結界は、うっすらとしか外が見えなかったはずなのに、攻撃を加えていた場所のいくつかははっきりと外が見える程にまでなっていた。
「大分削ったのだわ。だから、見えにくかった外が見やすくなっている部分がいくつかあるのだわ」
「エルサちゃん、お疲れ様」
「効果は着実に出ているようですな、エルサ様」
シュットラウル様の言葉に答えながら、空から降りてきたエルサちゃん。
いつの間にか、体の大きさも小さくなっているわね……魔力の節約かしら?
ともあれ、確かに結界の一部は薄くなり、外が見やすくなっているのがあちこち見受けられるわ。
あとどれくらいなのか……まではわからないけれど、それでも目に見えて結果が出ているのがわかるのは、私達にとっては重要ね。
「外が見える場所を狙え! そこが特に効果的な部分だと思え……!!」
エルサちゃんの声が聞こえたわけではないはずなのに、なんとなくで察したのか、母さんから結界の狙うべき部分が魔法隊へと伝えられる。
わかりやすくはあるけれど、一瞬で見抜くのはさすが母さんね。
「ちょっと休憩なのだわ」
呟いて、私の後頭部から頭頂部にかけてペッタリと張り付くエルサちゃん。
手……というか前足は、私の額あたりに垂れ下がっているわ。
「私の頭? でも、リクさんのように魔力は出ていないわよ?」
「わかっているのだわ。そもそもリク以外から魔力が流れて来る事はないのだわ。それにモニカの手は空いていないのだわ。だからここなのだわ」
「成る程ね……」
いつもリクさんの頭にくっ付いて、滲み出る魔力を取り込んでいるらしいエルサちゃん。
私はリクさん程魔力量はないし、人間の中でも一般的と言えるくらいだから、滲み出たりはしないんだけど……思ったら、本当にただ休憩をするためだけだったみたい。
魔力の輪で威力増強をしていて疲れたのかもしれないわね――。
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