1,324 / 1,903
魔法ではない消失の赤い光
しおりを挟む「あれは世界の意思なの。魔力を繋いで世界と事実に干渉し、全てを消滅させる光なの」
「……ユノちゃん……?」
ふと、後ろで幼く聞き覚えのある声がして、振り返ってみると……そこにはユノちゃんが結界の外を凝視していたわ。
世界の意思って……どういう事なのか、よくわからないのだけど。
とにかく、魔法ではないって事は確定なのね。
「リクの結界が、内部と外を完全に隔離しているの。だからこちらに光は見えても、中に入って来ないの。今この中は、隔離された別の世界と言っても過言じゃないの」
「別の世界……だったらもしかして、結界を破ったりするのは……」
「今すぐ、という意味なら止めるの。危険すら感じる間もなく、中にいる全員が一瞬で消滅するの。外にいた凍った魔物達のようになの」
「それじゃあ……」
リクさんとの繋がりを取り戻すために、これからやろうとしている事は意味がないってわけなの?
いえ、意味がないどころか、危険に飛び込む以上に自ら消滅するような事に……。
「でも安心するの。ほら……外の光が収まって行っているの。少し待てば世界の意思、繋がっていた魔力が切れて門が閉じるの」
「なら、今から私達がやろうとしている事は、大丈夫なのね?」
「大丈夫という保証はできないの。ただ、このまま放っておくとこの国……最悪の場合は世界から人と魔物がいなくなるの。話は聞いたの。モニカやエルサには私も同意見なの。でもだとしたら、リクは今全てを破壊し尽くし、消滅させる存在になっているの」
「全てを破壊し、消滅させる……そんな」
それこそ、以前話に聞いた破壊神の所業じゃないのかしら?
まさか、リクさんが破壊神なんて事、あるわけないし……。
「あのロ……じゃないのだわ。破壊神とリクが同じような存在になったって事なのだわ?」
「わからないの。でも多分違うの。ここまでの事は、破壊神も望んでいなかったはずなの。全てを破壊するにしても、その破壊神すら破壊してしまいかねない力なの。今は赤い光。けれど他にも別の光だったら……」
首を振ってエルサちゃんに答えるユノちゃんだけど、全てがわかっているわけではない様子ね。
最初はリクさんの妹、というちょっと信じがたい紹介だったユノちゃんだけれど……だって全然似ていないし。
ともあれ、リクさんが言うには創造神……つまりこの世界の神という、私達では手の届かない存在のはず。
でもその創造神様ですら、今の状況が全てわかっているわけではないという。
別の世界として隔離されている結界の内部だからかしら?
それとも、リクさんがその想像を越えているからかしら……?
「べ、別の光もあるのだわ?」
「エルサは知らないだろうけど、いくつかあるの。緑だったら植物が繁栄し、とりあえず文明すら飲み込むわ。青だったら一切の存在が動く事を許されない、極寒が世界を包むの。他にもあるけど……そのいくつかの光は世界と繋がり門を開け、空から降り注ぐ。幸いなのか、ちょっとだけ門が開いただけみたいだから、赤い光はセンテ周辺にしか注がれていないみたいなの」
「センテ周辺……それって、間違いなくリクさんがやっている事よね。私達を隔離して、周辺の魔物全てを排除するような……」
門だとか世界と繋がるだとか、よくわからない事を話すユノちゃんだけど、その中でセンテ周辺にのみほとんど収まった赤い光が降り注いでいると聞いて、そこにリクさんの考えが介在しているのではないかと感じたわ。
「本当にリクが、というのはわからないの。でも、リクの意思で赤い光を呼び出し、リクの意思でセンテ周辺に降り注がせたのかもしれないし、負の感情に支配されたからかもしれないの」
「リクが負の感情に飲み込まれているから、混在していてそれがリクなのかどうかわからないって事なのだわ?」
「そんな風なものなの」
負の感情と混ざり合ったリクさんの意思が、リクさんとして意識を保っているかどうかはわからないってところかしら。
よくわからないけど、もしかしたらリクさんが本当にやりたいと思っていた事じゃないのかもしれないわ。
だって、リクさんだったら魔物を倒すにしても何も残さず消滅させようなんて、考えないと思うから。
私の知っている、出会ってからずっと見てきたリクさんは、そんな人じゃないわ。
「って、ちょっと待って。今結界の外はさっきの赤い光が降り注いだのよね。センテ周辺とはいえ、それはリクさんにもって事?」
「もちろんなの。リクを中心にしているはずなの。とは言っても、リクから満遍なく広がるわけじゃなくて、目的や意思が介在しているから、センテを包み込むようにその周辺に降り注いでいるの。でもリクにも降り注いでいるのは間違いないの。起点だから……」
「よくわからないけど、リクさんが門だっけ? それを開いたから、リクさんから赤い光を発せられている、と考えていいのよね?」
「リクが発光しているわけじゃないの。そんな愉快な事に放っていないと思うけど……でも、似たような物なの」
「だとしたら……」
凍った魔物を全て一瞬で消し去った赤い光。
その光にリクさんも包まれているのだとしたら……もうリクさんは消失してしまった?
私達を包むような結界で、リクさん自身も包まれていたなら安心ではあるけれど、そうしていたらきっとこの外まで赤い光を降り注がせる事ができない気がするわ。
何せ隔離するための結界は、エルサちゃんとの繋がりすら途切れさせるくらいなのだから。
「リ、リクさんは、既に消失している可能性もあるって事……なの?」
それこそ、負の感情と同じように渦巻く意思や魔力などと同化して、体を失って……なんて、漠然とした考えが浮かんだ。
「それはないわ。そうだとしたら、この結界も今はもう解けているはずなの。多少、魔力の残滓で維持できたとしても、長くは続かないの。リクがまだリクとして存在している証拠なの。それからもう一つ……」
未だ結界にくっ付いているアマリーラさんの横、私やソフィー達の視線を受けているユノちゃんが、リクさんの結界に手の平を触れさせ、外に目を向ける。
横から見えるその表情は、何か憂いを帯びているように見えたわ。
ユノちゃんという、幼い女の子としての表情ではないような気がするわね。
「陸男近くにはロジーナがいるはずなのだわ。ロジーナが無事な以上、リクも無事な事は間違いないのだわ。あくまで単なる人間であるロジーナが、何もなく赤い光を浴びて生きていられるわけがないの」
「だったら、だとしたら、何かの方法で耐えている。もしくは避けているってわけよね」
つまりそれは、リクさんが消失してはいないという事でもある。
「でも、なんでロジーナちゃんが無事だって、ユノちゃんにわかるの? まさか、ここからリクさん達の様子がわかるわけじゃないし……」
わかっていたら、もっと詳しくリクさんの状態を知っていたはずよ。
それがわからないのに、ロジーナちゃんが無事だと確定しているかのように話すのは、少し不自然に感じたわね――。
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる