1,320 / 1,903
いつ終わるとも知れない隔離生活
しおりを挟む「とんでもない事、か……現状が既にとんでもない事ではあるが」
自分でも、はっきりとしていないと思う。
そして、そんな考えや思いで、皆を危険に晒してしまうのは本来なら避けるべき事。
今後どうなるかは未知数だけれど、少なくとも結界がある限り、この中にいれば安全である事は保証されているのだから。
わざわざ結界を破って外に出ようとするなんて、シュットラウル様達からすれば、多くの人を危険に晒すための行動でしかないわ……でも、それでも……。
「もしリクが負の感情に支配されているなら、と仮定するのだわ。そうすると、その支配から逃れるには放っておく、おとなしく閉じ込められておく事が、必ずしも正しわけではないのだわ」
難しい表情のシュットラウル様や、マルクスさんを見て、私の考えが否定されると思ったのか、エルサちゃんが話しに入って来る。
私が表情を曇らせたから? いえ、エルサちゃんもリクさんとの繋がりが切れて、どうにかしたいと焦っているんだわ。
抱いている私の腕、エルサちゃんの手が乗っている部分に、力がこもっているから。
人間だったら、強く拳を握りしめている状態なのかもしれないわね。
「エルサ様、それはどういう……?」
マルクスさんが、話しだしたエルサちゃんに訝し気な視線を向ける。
意味がわからなかったというよりも、何を言いたいのかが気になった、という風ね。
シュットラウル様も、エルサちゃんに視線を向けているわ。
「よく考えるのだわ。もしリクが負の感情に支配されていて、破壊衝動なんかに体を任せていたら……それはリク自身が抵抗できなかった、制御したり反発できなかったって事なのだわ。そんな状態、いつまで続くと思うのだわ? 自然に、そのうち解消されるのだわ?」
「それは……しかし、結界を破る事とは関係ないのではないですか?」
エルサちゃんの話に、シュットラウル様が反論。
確かに、いつまで支配が続くのかという事と、結界を破る事は直接関係ない気がするわ。
結界を破ったところで、私達が何もできないのなら、むやみに危険へと飛び込んで行こうとしているだけ……我ながら、結界を破ってリクさんの所に行きたいのに、否定する事を考えてしまっているわね。
「関係あるのだわ。自然に解消できるのならいつまで待てばいいのだわ? その時、この結界はまだ維持されているのだわ? そんな保証、どこにもないのだわ。こう考える事もできるのだわ。リクが最後の理性で、もう自分で他の事ができないから今こうして結界で私達だけでも守れるようにした……とだわ。それは外が危険になるということでもあるのだけどだわ、でも、リクだけじゃどうにもならないという事でもあるのだわ」
「リク様だけでは……」
「待っていても、意味はあまりないと?」
「ないとは言わないのだわ。安全なのは間違いないのだわ。けど、リクへの負の感情の支配がいつまでも終わらなかったら……ずっと維持し続けられるとは思っていないけどだわ、でもいつまで中に閉じこもっていればいいのだわ? 一日だわ? それとも十日だわ? もしかしたら年単位でだわ?」
「……長引けば、必ずしも結界内が安全であり続けるわけもない、か」
一日や二日ならまだいいと思うわ。
むしろ、戦い続けてきた人達が休めるから。
でも、それがずっと続けばどうなるか……結界が維持されている限り外に出られなければ、街は、人は緩やかに壊滅へと向かう。
私でも少し考えればわかるけど、食糧の備蓄がなくなれば長くは保たない。
結界で囲まれている範囲は、自給自足で軍や冒険者全てを賄えるような広さじゃないわ。
私だけでもこうして長引く危険性を考えられるんだから、シュットラウル様やマルクスさんは、もっと色んな事が浮かんでいるでしょうね。
「あくまで可能性なのだわ。本当に長く続くかはわからないのだわ。けど、もしこのまま閉じこもっているのなら、核戦争後の核シェルターなのだわ。多少外は見れるけど、遠くの状況まではわからないのだわ」
「か、核戦争? 核シェルター?」
エルサちゃんの言葉に、首を傾げる皆。
私もよくわからなかったけれど……時折、こういう言葉を使うのよねエルサちゃんって。
リクさんはわかっているようで、通じ合っている気がしてちょっとだけ悔しいのだけれど……。
「間違えたのだわ。リク以外には通じない言葉だったのだわ。中にいれば外の事がわからず想像するしかない、と言いたかったのだわ。とにかく、閉じこもっていれば外がどうなっているのかわからず、ただただ守られるだけなのだわ。危険を伴うとしても、外に出れば多くの状況がわかるようになるのだわ。もしかしたら、リクを止める手立てだってあるかもしれないのだわ」
エルサちゃんは、私と同じく今すぐにでも外に出てリクさんがどうなっているかを確認したいはず。
それでも、自分だけじゃどうにもできないと理解して、シュットラウル様達を説得しようとしているのでしょうね。
不安なのはエルサちゃんもなのに……ちょっと腕が痛いわ。
「エルサ様の言いたい事はわかります。確かに、外に出ようとしなければ状況が変わらないかもしれないし、どうなっているかもわからない。本当に大丈夫なのか、リク殿に対して以外にも我々自身も不安に駆られながら過ごす事になるでしょう」
「リク様に守られている、という事に安心しきっていても長く続けば、いつ出られるのかと不安になります。成る程、エルサ様に言われて気付きましたが、確かにその通りです」
凄いわエルサちゃん、私が上手く伝えられない感情を訴えかけるだけだったのに、エルサちゃんは色んな事を考えて、色んな可能性を思い浮かべていたのね。
マルクスさんは、最初から私からの要請で結界を破るよう動こうとしてくれていたけれど、シュットラウルさんはどちらかと言うと否定的だった。
というのに、今は雰囲気が変わってきているわ。
「それにもし、リクが自然に支配から解放されなかった場合は、私達から呼びかける必要があるかもしれないのだわ」
「私達から……」
私達の呼びかけに、リクさんが応えてくれるのか……エルサちゃんの言っている内容に、希望ともしかしたら届かない不安が同時に沸き上がる。
リクさんにとって、私達がどうでもいい存在だったら、なんて思いまで浮かんで来たわ。
いえ、どうでもいいのなら、こうして結界で守ろうとはしないはず……だからきっと私達が呼びかけたらリクさんも応えてくれるのではないか、という希望。
「呼びかけて、どうにかなるものなのでしょうか?」
「リクも人間なのだわ。だから、多くの負の感情に晒されて衝動に飲み込まれたかもしれないのだわ。けど、親しい人との繋がりが全て切れたわけではないのだわ。もし切れていても、繋ぎ合わせればリクが自分を取り戻せるかもしれないのだわ」
親しい人の繋がり、の部分でエルサちゃんの手に力がさらにこもったわね。
間違いなく、エルサちゃん自身との繋がりの事も考えているのでしょうね……。
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる