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本当の脅威の正体は

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 あまり考えたくない事だけど、リクさん自身が私達に降り注ぐ災厄になるのだとしたら、強固な結界で守る必要性が出て来るんじゃないかと思ったの。
 まぁ、リクさんが脅威になって、その脅威から皆を守るためにリクさんが結界を張って、という矛盾した考えではあるのだけれどね。

「リク殿が……か。しかし、リク殿が我々になど……その矛先を向けるとは思えんが」
「私もそう思います。リク様がいたずらに人に対して、攻撃を加えるような人には思えません」

 二人共リクさんの事をよく見てくれているようで、それはあり得ない、という表情ね。
 私だって考えて、口に出しておきながらあり得ない事だと思うわ。
 ただ、それがもしリクさん自身の意思でなければ……。

「それは……もちろん私も同意見です。リクさんが私達を含め、兵士や冒険者。何も罪のない人達に攻撃を向けるとは思えません。ですけど……」

 私の胸にある悪い予感と確信。
 それから、ヒュドラーとの戦闘が開始される前、スピリット達と話していた内容を考えると、もしかしたら? という考えが浮かぶ。
 それはエルサちゃんも同じだったようで、私の腕の中で「負の感情、破壊衝動……だわ?」なんて小さく呟いているわ。
 シュットラウル様達には聞こえていないようだけれど。

「もし、リクさんが何かの意思に支配されたら……自分の意思でなければ……」
「リク殿の意思ではない、か。そう感じる何かが、モニカ殿にはあるのだな?」
「はい。確信はありませんし、断定はできませんけど……少し前、エルサちゃんとリクさんが……」

 負の感情と言われていた、スピリット達を召喚して対処させていた事について話す。
 シュットラウル様とマルクスさんは、そうした感情が渦巻いて魔力と繋がって……等々の内容に驚きながらも、ある程度どこかで感じていたのか、腑に落ちた様子を見せた。
 二人共、何かしっくりこないような、はっきりとはわからないまでも渦巻く負の感情の片鱗みたいなものを、感じていたらしい。
 シュットラウル様は、センテの人達の様子が違う事から……戦闘中だから、違うのは当然だけどそう言うのとは別の何かを感じていたらしい、領主貴族であり、センテをよく知っているからこそなのかもしれないわね。

 マルクスさんの方は、シュットラウル様と近いようでちょっと違う、援軍として到着した時に妙な雰囲気を感じ取ったのだとか。
 他から移動してきたからこそ、ヘルサルよりも遠いまだ何も大きな影響の出ていない王都から来たから、その雰囲気などの違いに気付けたのでしょうね。
 ずっとセンテにいた私達は、なんとなくであっても違う雰囲気を感じられなかった。
 それは徐々に負の感情が集まり、渦巻いていたからなんだと思うわ。

「ふぅむ……レムレースの成り立ちは確か……」
「殺された魔物の残滓、残った意思や魔力が集まって人が介在しない事、だったかと」
「魔物のみでそうであるならば、人も混じれば魔力溜まり以外にも、そういった感情が凝り固まる事も、否定はできんか……」
「エルサちゃんとリクさんは、それを早くから感じていて……それでスピリット達を、対処のために召喚していたんです。ですけど、この結界で覆われる少し前、センテからおぞましい何かが固まって、流れて言ったんです。あの方向はセンテの東南……おそらくリクさんがいたと思われる場所です」

 あれは、見た人それぞれに違う感想が出る不思議な現象だった。
 ただ、綺麗だとか汚いだとか、人によって違う感想の中でも共通点があり、それがおぞましいとか、触れてはいけない何かだ……という事。
 なんだったのかと理解はしていないけど、それでも本能のような部分から、あれは決していいものじゃないと警鐘が鳴らされていたように思うわ。

「それは私も見ました。あれは黒よりも黒く、ですが光っても見え、おぞましさの中に美しさを感じましたね。触れてはいけない危うさも、同時に感じましたが」

 マルクスさんは、そんな感覚で見えたのね。
 ちょっとフィネさんと似ているかもしれないわ。
 けど、やっぱり私達と共通の感じ方もしている……。

「庁舎位にいた私は見ていないが……おぞましい何か、か。渦巻く負の感情とやらが、リク殿に流れ込んだと考えるべきか?」
「スピリット達は、近くにいるもっとも魔力を持った者に流れやすい、と言っていました。この周辺で一番魔力を持っているのは、間違いなくリクさんです。リクさんがいるはずの方へと流れるのも確認していますので、ほぼ間違いなく……」

 やっぱり、こうして誰かと話し合って考えるというのは大事だ。
 エルサちゃんとだけ、最悪な状況を想像しながら話すだけだったら考え付かなかった事が、どんどん自分から出てくるのがわかる。
 相変わらず、胸の中にある悪い予感や確信はそのままだけど……でも冷静に、リクさんがまだ無事であると願って信じながらも、望んでいない方向の話ができているわ。
 相手がシュットラウル様とマルクスさんで、緊張しているから、というのもあるかもしれないけれど。

「だとしたら、あまり考えたくありませんが……リク殿は今、その負の感情に支配されているかも、と?」
「あくまで想像で、状況的にそういう考えができる、というだけですけど、はい」

 リクさんが、別の何かに支配されるなんて、考えたくもないけれど。
 それは、私達じゃ太刀打ちできないという事よりも、リクさんがリクさんではない別の何かになる気がしてしまうから……。

「であれば、この結界はリク殿がその負の感情に支配される前の、最後の良心といったところか。最後の抵抗なのかもしれんが……」
「なんにせよ、魔法が使えなくなっているはずのリクさんが、魔法を使っているのは間違いありません。との魔物達を凍らせたように……その理由としても、負の感情に支配されればもしかしたら、と思ったんです」

 負の感情に支配されれば、エルサちゃんとの繋がり関係なく、魔法を使えるようになっていてもおかしくない。
 といいうより、そう考えないと他に答えが見つからないのよね。
 ……他に、私達じゃ考えも及ばなない何かがあれば、話は別だけれど……そもそも考えが及ばない事なら、考えても無駄ね。

「だが、もし今モニカ殿が言った事、考えている事が事実であれば……それはリク殿が望んだ事なのではないか? 我々が余計な事をしても、危険が増す可能性が高いぞ」
「それは……そうかもしれません……」

 シュットラウル様の指摘はその通りで、私達が余計な事をしなくても、リクさんなら全てなんとかしてくれるかもしれない。
 いえ、これまでもそうだったように、一人でなんとかするのがリクさんよね。
 でも……なんだろう、リクさんを助ける、リクさんのために何かを……と考えている方が、胸にある悪い予感や確信が騒がない気がするの。

「あまりうまく言葉にできないのですが……こうしないと、どうしても結界を破ってリクさんの所に駆け付けないと、いけない気がするんです。そうしないと、とんでもない事が起こるような……」


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