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即席会議勃発
しおりを挟む「そうか……これがリク様の作られた結界……あぁ、リク様ぁ……」
「……最近、段々とアマリーラから毅然とした雰囲気が失われていっているように思うな。これも、リク殿の影響か……」
いきなり結界に頬擦りを始めたアマリーラさんに、私だけでなく他の皆がギョッとする。
シュットラウル様が目を閉じながら溜め息交じりにそう漏らした。
けど、リクさんがあんな影響を与えるっているのは、ちょっと……いえ、かなり嫌ね。
初めて会った時は毅然としていて、小柄ながらも凛とした雰囲気を纏っていた人なのに。
今でも、リクさんが関わらなければ、その雰囲気自体は損なわれていないのだけど、一旦リクさんの事となれば豹変する。
……獣人だから、力のある者を認めて経緯を評するから、というのはわかっているんだけど、アマリーラさんからはリクさんに向けて特別な感情が向けられている気がして、あまりいい気分じゃないわ。
誰かに言ったら、嫉妬とか言われそうで表には出さないけれどね。
アマリーラさんはクラウリアさんとは違って、嫌いではないけれど……できれば、人目もはばからず見せている感情が、私と同じではありませんように……。
「んんっ! アマリーラはあのまま放っておくとしてだ。完全に外と隔離された状況、というのはわかっている。入り込んだ魔物も駆逐され、安全である事もな。だからこうして出てきたのだが……引き留める者を振り切るのは大変だったが……して、マルクス殿、モニカ殿、何やら私に伝令を向かわせるようだったが?」
咳払いをし、アマリーラさんから自分へと注目を集めたシュットラウルさん。
安全なのがわかっていたから、自分の目で確かめるためにこうして出てきた……というわけのようね。
アマリーラさんもいれば、多少の危険は問題さそうだけど。
それはそうと、何かをボソッと言ったような気がしたのだけれど……振り切るとか言っていたような? こうして来てくれただけで多くの手間が省けたのだから、細かい事は気にしないでおきましょう。
「え、えっとですね……」
現状がどうなっているのか、結界が農地のハウス化だったかしら? あれとはまた違ってすさまじく強固だという事などをシュットラウル様に伝えていく。
リクさんとエルサちゃんの繋がりに関して、はあまり詳細を話さない方がいい気がしたから、そこはぼかして……とてつもなく広くて頑丈な結界を使って維持しているから、他の魔法が使えないはずって事にしておいたわ。
まぁ、魔法が使えないはずっていう話自体は、外の魔物が凍っているから説得力がないんだけど、そこは私達もエルサちゃんですらもわからない事だから、説明のしようがないのだけれど。
「何はともあれ、私達はリク殿に守られている状態。だが、外にいるはずのリク殿は孤立し、危険な状態かもしれないという事だな。いや、見る限り魔物が凍っているから、本当に危険かは判断できないか」
「ですが、モニカ殿やエルサ様が言うように、リク様が結界を張った理由と言うのが気になります。魔物達を凍らせた魔法から守るため、とも考えられますが……」
「それだけのためだったら、これ程の結界を張る必要はないと思うんです。それに、もし私達まで凍らないようにであれば、いずれ結界へ維持魔力の供給がなくなって解けるはずですが、その気配もありません」
状況を伝えて、シュットラウル様やマルクスさんと話し合う。
母さんやソフィー、フィネさんも一緒に話を聞いてくれているけど、父さんやフィリーナは未だ結界に頬擦りして恍惚とするアマリーラさんを観察して遊んでいるわ……暢気ね。
というか今更だけど、侯爵様であるシュットラウル様に、王軍大隊長のマルクスさんの二人相手に、私が話していていいのかしら?
リクさんと一緒にいて、女王陛下を始めとした国の重要人物とは何度も話しているから、感覚がくるって来ている気がするけど。
本来なら、私なんてただの元冒険者がやる料理屋で働く小娘だったはずなのになぁ。
一応、私でいいのか母さんに視線で窺ったけど、頷いたから構わないようだ……ちゃんと話せているって事だろうと思って、ちょっとだけ自信が戻ったわ。
「モニカ殿が考えているのは、さらなる脅威、危険が襲ってくる可能性がある……という事か?」
強固過ぎるくらいの結界で、守らなければいけない程の危険が迫っていると知ったリクさんが、私達を守るために閉じ込めた。
なんて考るのが一番自然だと思う。
リクさんの事だから、自分はなんとかなっても私達を巻き込まないように、なんて考えそうだし。
「もしかしたら、ですが。そのためにリクさんは私達を結界の中に閉じ込めて、それが及ばないようにしたんじゃないかって。でも、そうではない事も考えてもいます」
「そうではない事とは?」
考えているうちに、私の中にある悪い予感や確信。
それらと合わせてもしかしたらという程度ではあるけれど、違う考えも浮かんできたわ。
「そもそも、ヒュドラーやレムレースすら容易く……かどうかはわかりませんが、少なくとも私達から見れば容易く倒すのがリクさんです」
ヒュドラーなんて、リクさん抜きなら今センテに集まっている戦力で、どうにか一体倒せればという魔物よ。
二体倒せば、先頭に関わった全員に勲章や騎士爵が授与される程の快挙と言える相手、それがSランクの魔物。
さらに加えて、人には討伐不可とされていているレムレースすら出てきたわ。
センテが壊滅どころではなく、下手をすれば国が滅亡する危機すらあったのに、リクさんは簡単にそれらを打ち破って見せたの。
「そうだな。私は直に見ていないが、アマリーラから報告は聞いている。確認された三体のヒュドラー、そしてレムレースも二体、と言うのが正しいかはわからんが、とにかく倒しているわけだ」
「レムレースは話に聞いていましたが……軍隊であれ、その存在の片鱗を確認したら即座に引けと言われる魔物。リク様なので信じられますが、そうでなければ出現した事も信じられなかったでしょう」
シュットラウル様もマルクスさんも、二人共複数のヒュドラーとレムレースを倒している、その偉業はよく理解している様子ね。
まぁ、Sランクの魔物なんて遭遇して生きているだけでも、讃えられる程なんだけれど。
「そんな二種類の魔物を、私達にほとんど被害を出さずに倒したリクさんが、わざわざ結界で覆って守る程の脅威が、本当にあるとは思えないんです」
クラウリアさんやツヴァイなど、人間どころかエルフよりも多い異常な魔力量を持っていたけれど、それでもヒュドラーと単独で戦えるなんて思えない。
つまり、帝国側の組織と思われる人達でさえ、リクさんにとってはそこまで脅威にならない事を示しているんじゃないかという考えが浮かぶのよ。
「……では、なぜ今この結界で我々を守っているのだ?」
「ヒュドラーやレムレース以上の脅威、確かに想像できませんが……それがないのだとしたら、結界で覆う必要があるようには思えません」
「あくまで可能性。いえ、私の考えなのですけど、もしかしたらリクさん自身がその脅威になり得るんじゃないか、と……」
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