上 下
1,314 / 1,903

結界を破る方法の模索

しおりを挟む


「このリクさんが作った結界を、抜ける方法を考えたいの」
「抜けるのだわ? この中にいれば安全なのだわ。この結界、前にリクがゴブリン達を消滅させた時の魔法でも、耐えられそうなのだわ」
「……そんなに強固なのね」

 ヘルサル防衛戦、あの時リクさんが使った魔法はあれ以後見ていない。
 リクさんはなんとなく使える気がしない……みたいな事を言っていたけれど、もし使ったとしてもあんなとんでもない、ゴブリンの大群を全て消滅させた魔法すら防ぐだなんて。
 エルサちゃんが言っているのなら間違いないし、そこまでなのは予想外だけど、でもやる事、やりたい事は変わらないわね。

「とにかく、リクさんがなんでこの結界を作ったのかはわからないわ。けど、皆がここにいるなら、リクさん一人が外にいるって事なのよね」
「ロジーナもいるはずなのだわ」
「そ、そうだけどね」

 決して、リクさんの事で頭がいっぱいになっていて、ロジーナちゃんの事を忘れたわけじゃないわよ?

「とにかく、リクさんにとってはこのままよりも、結界をどうにかして外に……せめてエルサちゃんとの繋がりを取り戻した方がいいと思うの」
「それは、私のためにも必要なのだわ」

 そう私に答えるエルサちゃんは、けどやっぱり自分のためというより、リクさんのために繋がりを戻したいと思っている雰囲気だ。
 言葉に出さなくても、人間よりも表情が読みにくくても、なんとなくわかる。
 それくらい、私もリクさんとエルサちゃんの事をこれまでずっと見てきたんだから。

「先に聞いておくけど、結界がなくなれば、リクさんとの繋がりが取り戻せるのよね?」

 勢いで話しているけど、そこは重要ね。
 これで、結界がなくなったのに一度切れた繋がりは簡単には取り戻せない、とかだったら私の考えは無駄になる部分が大きいわ。

「もちろんなのだわ。結界で全てを遮断しているから切れてしまっているだけなのだわ。だから、ほんの少しでも……魔力が多少通るくらいの穴でもあけられれば、すぐに繋がりは元に戻るのだわ」
「それを聞いて安心したわ。それじゃ、なんとかして穴をこじ開けでもして、繋がりを取り戻しましょう」
「どうして、モニカがそこまでするのだわ?」
「だって、リクさんを信じている……信じたいと思うけど、やっぱり魔法が使えた方がリクさんにとって、有利になるわけじゃない? 当然、そうなると危険も減ると思うの」

 リクさんの持っていた剣が、どれだけリクさんの事を守ってくれるかはわからない、それは一緒にいるはずのロジーナちゃんも同じ。
 私が傍にいられたら……とは思うけど、私よりもロジーナちゃんの方が戦闘に関しては間違いなく、リクさんの役に立てるでしょうね。
 悔しいけれど……。
 ともあれ、リクさんがいくら強くても、どれだけ魔力があっても、魔法が使えないよりは使える方が戦いやすいのは間違いない。

 今のリクさんはそれこそ、自分を守るための結界を作る事もできないのだから。
 いわば、リクさんの生存率を上げるため……ってわけね。
 それが必要かどうかはわからないし、実は結界の外にいても大した事はないなんてリクさんは言うかもしれないけど、さっきから一切晴れない悪い予感は、私にこうしろと言っているように思えたから。

「魔法が使えると使えないじゃ大違いなのだわ。例えそれで、周囲を失敗に巻き込んでもだわ」
「あー……ははは、まぁそういう事はあるかもしれないわね」

 威力が強くなりすぎる……魔力量が多過ぎる弊害らしいけど、それで多少大変になる事はあっても、誰かが大きな怪我をしたとかはこれまでなかったわ。
 だからって、どんどん失敗してなんて言うつもりはないんだけどね、近くで見ていて何度も肝を冷やされる思いをしたから。

「でもだわ、あの結界を破る……穴を開けるだけにしても一苦労なのだわ。あ、モニカの考えには賛成するのだわ」
「ありがとう、エルサちゃんならそう言ってくれると思っていたわ。でも、結界に穴を開けるのはエルサちゃんが全力でも、難しいの?」

 エルサちゃん、やろうと思えばリクさん程と言わなくても、かなり強力な魔法が使えると思う。
 同じドラゴンの魔法を使っているというのもあるんだろうけど、エルサちゃんの場合は失敗する事なく狙った効果をちゃんと発揮できるようだからね。
 ドラゴンの魔法だからこそ、急に使えるようになったリクさんより、最初から使えるエルサちゃんの方が精通していて当然なのでしょうけど。

「難しいのだわ。今ある魔力を全部使ったって、針の穴すら開かないのだわ。話している間に少し探ったのだけどだわ……あの結界は、おびただしい数の結界を重ねて歪めているのだわ。十個や百個、突き抜けても全然なのだわ」

 おびただしい数、というのがどれくらいかはわからないけれど……尋常じゃない事は伝わるわね。
 百でも全然と言うのなら、数千とか? まさか万はないと思いたい。
 とにかく、エルサちゃんだけではどうしようもないというのはよくわかったわ。

「私の次善の一手じゃ、傷一つ付かなかったし……ソフィーやフィネさんもさっき試して同じだった。私から言い出しておいてだけど、無理なのかしら?」

 ソフィーやフィネさんも、もちろん次善の一手で結界に対して攻撃していたわ。
 私もそうだけど……この戦いが始まってから、強力な魔物が多くて通常の剣や槍を通さないのも多かったから、武器を振るう時は魔力を這わせるのがほとんど癖のようになっているのよね。
 特に私の槍は突きに全力を注ぐから、穴を開けるのなら剣や斧よりも適しているはずなんだけど、それでも傷を付けることはかなわなかった。
 リクさんの結界だからと納得している反面、ちょっと悔しくもあるわね。

「次善の一手は有効なのだわ。見た目には傷なんてつかないのだけどだわ、結界はあくまで魔力で作られた物なのだわ。だから、魔力を使った攻撃は確実に結界にダメージを与えるのだわ」
「そうなの?」
「『一念岩をも通す』『一念天に通ず』という言葉があるのだわ。リクの記憶に会った言葉だけどだわ。つまり……」

 エルサちゃんが言葉の意味も含めて、話してくれる。
 一念……その言葉は私は聞いた事がなかったけれど、リクさんの記憶という事なら、この世界ではない場所の言葉って事ね。
 いい言葉じゃない……特に一念って部分が気に入ったわ。

 私のリクさんへの一念、想いは結界なんかに邪魔されないし、尽き通して見せるって気にさせてくれる。
 ……正直なところ、エルサちゃんの言っている事の半分くらいしか理解できなかったけれど、とにかく一点に集中するように力を加え続ければ、いつかは結界も破れる……かもしれないって事らしいわ。
 
「じゃあ、次善の一手で何度も突き込めば私の槍でも?」

 エルサちゃんが言うには、結界はあくまで魔力で作られているため、次善の一手のような魔力を伴った攻撃であれば少しずつ形成している魔力を削ぐ事ができる、という話みたいね。
 結界が耐えられない程の勢い、重さで攻撃すれば魔力を伴っていなくても壊せるらしいけど……以前、ユノちゃんがやったように。
 けどそれは誰にでもできる事じゃないから、次善の一手ならと――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...