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全てを凍てつかせる魔法
しおりを挟む「リク……?」
「っと。ごめんごめん、ちょっと飲み込まれそうになっていたよ」
「……さっき衝動とか言っていたものにって事? そんなの、簡単そうに言うんじゃないわよ。本当に飲み込まれたら危険じゃない」
「そうかもしれないね。でも、今のところ大丈夫だから」
うん、大丈夫。
冷静に周囲の状況は把握しているし、判断もできている。
本当に?
ふと浮かぶ疑問。
本当に、今俺は衝動に支配されていないと断言できる?
声が聞こえているような感覚。
でも大丈夫、それらを認識したうえでちゃんと考える事ができている。
制御できているという程ではないかもしれないけど、抑える事はできているし、心は荒れ狂っていない。
「……さて、それじゃさっさと魔物を片付けないと。いつまでも街の人達を閉じ込めたままじゃいけないからね。西の方も、悠長にしているとヘルサルの方に向かいかねないし」
レムレースは結界の外にいるのを確認していた。
というか、ずっと隔離結界に対して無駄に魔法を放って弾かれ続けている。
とはいえこのまま放っておくと、どこかの段階で諦めてか何かで、向かう先をヘルサルに変える可能性がある。
あちらは防御態勢が整っていないし、レムレースが行ってしまうとさらに多くの被害が出てしまうからね。
俺がなんとかできるんだから、なんとでもしないと今こうしている意味がない。
大丈夫、枷が外れたおかげでやるべき事ができる。
壊せ、破壊しろ、といった声を俺の中で響かせている衝動は、抑え込めてい……ルハズダ。
ダイジョウブ……。
「で、今度はどうするの? もう私が手を出す事はできなさそうだし、ただ見るだけみたいだけど……一応聞いておくわ。私だけがここにいて、隔離結界とやらに守られていないのだもの、巻き込まれないようにしなくちゃね」
諦めたのか、それとも他の何かか……俺がやる事に納得したのかもしれない。
ともあれロジーナは、俺を試すような視線を俺に向けながら、周囲の魔物達を示した。
私だけって言っているけど、レッタさんも一応いるんだけどね……気を失ったままだけども。
「うーん、そうだね。とりあえず動き回られるのは面倒だから……ロジーナ、さっきセンテの様子を見る時みたいにジャンプできる? レッタさんを抱えて」
「レッタを? あんな事をした相手なのに、助けるの?」
「まぁ、今一番衝動に任せた場合、標的になるのはレッタさんなんだろうけどね。でも、色々と聞きたい事もあるから」
大丈夫、破壊の衝動には負けていない。
その証拠に、一番憎しみの感情が反応するレッタさんを助けようとする、その判断ができている。
まぁ、生きていてもその後どうなるかは俺の知ったこっちゃないけど……レッタさん一人だけの事じゃないにしても、これだけの事をしたんだから。
もちろん、ロリコンと言われ続けた憎しみとかじゃないよ。
というかロジーナが庇うのかなとも思ったけど、意外とそうでもなかったみたいだ。
あくまで協力者とかそれだけの相手であって、仲間とかって意識はないのかもしれない。
あと、いくらロジーナが制止しても聞かなかったからってのもあるかもね。
「そうね……レッタは重いから、さっきの半分くらいってとこかしら」
「……まぁ、大丈夫かな。つま先くらいは何かいけない事になるかもしれないけど、それは我慢してね」
「ちょっと! いけない事って何よ! 全然安心できないじゃない!」
「ははは、まぁまぁ……気を付けるから。それとも、このまま全身で受けてみる?」
「……今のリクには、別の方法を考えるよりもやり通す方が重要なのね。わかったわ……わかりたくないけど。もしもの時はレッタを盾に使うわ」
それじゃ、レッタさんを抱えてもらった意味がなくなるんだけど……まぁいいか。
いけない事とは言っても、ちょっと寒くなるだけだろうし、生命活動には支障はない……はず。
直撃する予定の魔物達はどうなのかまでは保証できないけどね。
「それじゃ、合図と一緒に飛んでね。今張ってある結界もそろそろなくなるし、解くから」
魔物達は、結界内部にいる俺を見て戸惑い以上に、怯えを感じている様子。
だから、レッタさんと話していた頃はガンガンと多重結界に向けて、攻撃を繰り返していたんだけど今は止んでいる。
それはともかくとして、結界には維持のための魔力を止めているから、そろそろなくなる頃合いだし、これからする事のために邪魔だから当然解く。
ないだろうけど、もしその後の俺の行動後にも動く魔物がいたらと、ロジーナに注意だけはしておく。
「わかったわ。ん……レッタ、本当に重いわね……」
ロジーナがレッタさんを担ぎながら、もし意識があれば起こりそうな発言をする。
確かにロジーナは俺のお腹くらいまでの身長しかないし、俺と同じくらいの身長があるレッタさんを担ぐのは結構大事だし重く感じるんだろうけどね。
いや、レッタさんの事だから、ロジーナから言われた事なら甘んじて受け入れるのかな? 制止の声は受け入れていなかったけど、冷静な時なら違うのかもしれない。
「それじゃ……今!」
「っ!」
ロジーナに声と身振りで合図を出し、空に向かって大きくジャンプしたのを確認。
半分くらいって言っていたのに、さっきジャンプした時とそう変わらないくらい飛んでいる気がする……それだけ、俺のやる事に巻き込まれたくないって事かも。
まぁ、レッタさんが盾に使われる事はなさそうだし、それならそれで安心だ。
「……凍れ!」
結界を解いた瞬間、鋭く声を発する。
魔法名なんて、まどろっこしい事は考えず、ただイメージのままに魔力を変換させて放つ。
周囲一帯……俺を中心に円形に広がる魔法が、命令する言葉の通り地面だけでなく、空気すら凍てつかせる力が広がった。
数舜後――。
「……っと。とっとっと……っ! たぁ……滑るじゃない!」
「凍っているから仕方ないよね」
俺以外動く物がなくなった地上、凍てついた地面にロジーナが着地。
足を踏ん張ろうとしたんだろうけど、多少の凹凸を残してスケートリンクのようになっている地面は、踏ん張りがきかない。
なんとかバランスを取ろうとするも、結果的に足が滑って転んでしまうロジーナは、レッタさんを投げだした。
意識がないせいで力なく投げ出されたレッタさんが地面に激突するが、凍てついた地面はヒビすら入らない……冷たそうだなぁ。
「あんたがやった事でしょ! ったく……それにしても、これだけの氷像ができているのは壮観ではあるわね」
「まぁね。あ、地面は魔法の影響で凍っているだけだけど、魔物にはまだ触らない方がいいよ。ロジーナも凍っちゃうから」
「ちょ……危ないわね……」
俺に叫びながら、周囲一帯にいた魔物が全て動きを止めて凍っているのに感心しつつ、放り出されたレッタさんをそのままに、触ろうと手を近付けるロジーナ。
ただ、まだ魔法の影響が残っているから注意すると、ビクッとさせて手を引いた。
表面を凍らせてじっくり内部まで凍てつかせる魔法……そうして生命活動を停止させる。
という魔法なんだけど、まだ内部まで凍り切っていない魔物がいるからね……多分触ったら、そちらに魔法の影響が出てしまうと思う――。
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