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導かれる思考と感情
しおりを挟む「その計画は、リクが潰したわ。まぁ、リクだけの事じゃないけど……」
「そうみたいですね。詳細はわかりませんが、ロリコンが大量の魔物を殲滅した際に、その魔力はその場に留まらず昇華されたようですから」
ロジーナには恭しく受け答えするレッタさん。
魔力溜まりに関しては、フィリーナやカイツさんの協力とクォンツァイタ、それからスピリット達の協力があって発生には至っていない……レムレースも同様だ。
……ロジーナに隔離されている時、魔力溜まりに関しても話をしていたけど……あの時、核心には触れないように嘘を言われていたわけか。
いや、あれは時間稼ぎの要素が大きかったようだし、俺を焦らせるためでもあったんだろうけど。
「ともあれ、やろうと思えばロリコンは他の人間に協力を求めずとも……ましてやロジーナ様を捕えて強制的に協力させなくても、なんとでもできたはずよ。このロリコン」
ロジーナは強制的にというわけじゃないんだけど……そこで行き違いがあるためか、俺に対してロリコンという見方を止めないレッタさん。
むしろそこにこだわるというのは、レッタさんの方が……? とは頭の片隅で考えたけど、今はどうでもいい。
何かが……先程からレッタさんに指摘されるごとに、俺の内側か奥底か、どろどろとしたよくわからないものが、覗いている。
「そう、貴様はそうして他の人間を巻き込んだ。犠牲を出さずに済む方法があったにもかかわらず、わざと犠牲を出す方法を取った。一人で解決をするのではなく、人間を犠牲にする事が正しいとでも言うように……」
あなたと言う時は優しく誘導するように、貴様という時は厳しく批判するように……レッタさんの言葉で俺の考えは導かれて行く……。
そうだ、俺はやろうと思えば一人で全ての魔物を殲滅できた。
ヒュドラー達がセンテに近付くのを待つ事をせず、一人で向かい、ただ襲い来る魔物を倒す事だけを考えていればそれだけで良かった。
ルジナウムの時とは違い、魔力枯渇の心配もほとんどなかったはずだ。
輝く剣に関して言えば、結果論ではあるけど……これがあればさらに魔力に余裕があった。
人と協力する事。
魔物を倒した後の影響を考えなければ、ヒュドラーもレムレースも、まとめて倒せる魔法だって使えただろう。
それこそ、熱に強いヒュドラーにどれだけ通用するからはわからないけど、ヘルサル防衛戦で使った魔法、ゴブリンを全て殲滅した魔法を使えば良かったんだ。
その後の事なんて気にせず、ただただ魔物を殲滅する事だけを考えていれば……。
もしヒュドラーが残っていても、レムレースはあの魔法で広範囲に焼けば倒せるはず。
ヒュドラーだけなら、他にも倒し方はある……ヘルサル防衛戦の時と違って、魔力を使い過ぎと目の前の光景が手伝って意識を失う事もないはずだ。
そうだ、熱に強いならそれすらも越える熱を当てればいい……それでもダメなら、逆に全てを凍らせればいいかもしれないし、荒れ狂う風で斬り裂けばいい。
魔力の消耗、周囲の影響ばかりを心配して、加減をしなければいくらでも方法は思いつく。
あぁ、人への被害、巻き込む事へは心配しなくてもいいか。
ロジーナに隔離された時の戦いで、多重結界を張る事ができるようになったんだから。
それこそ、数百、数千の結界で包んでしまえばヒュドラーを含めた全ての魔物を倒す魔法を使っても、被害が出る事はなかっただろう。
後悔、自分だけは大丈夫だと過信して、やれる限りの事をしなかった自分への悔恨。
レッタさんの言葉に導かれるように、どろどろとした何かが内側から顔を覗かせる感覚。
それとは別に、冷えた思考が自分や周囲の事を分析し、これは駄目だ、これを外に出すと取り返しがつかなくなると、警告している。
「やめなさいレッタ! 私がここにいる、人間としている事と、あなたがここにいる事で、計画の遂行は危険しかない……いいえ、破綻しているのよ! これ以上リクを刺激するんじゃないわ!」
「何を言っているのですか、ロジーナ様? これは最初からロジーナ様と私が計画していた事。そうする事で、このロリコンは破壊へと傾くのです」
「だから、それはもう既に……」
「いいえ、いいえ……ロジーナ様は今は人間。人間の思考になっていますからわからないだけなのです。あのお方……ロジーナ様本来の破壊の神様が仰っておられたように、これから訪れるであろう破壊に心躍らせましょう!」
ロジーナとレッタさんが言い争っている。
いや、ロジーナが止めようとして、レッタさんは聞き入れていないだけか。
争うどころか、レッタさんはロジーナすら見ていないように感じる……それはただ、破壊を心待ちにしている狂信者。
破壊神を信奉する存在にしか見えない……ロジーナが破壊神として目の前に現れた、あの隔離された場所。
あそこでまだ人間ではなく、ユノとほぼ同じ姿で破壊神だった頃に見た雰囲気に近い。
ただただ破壊を望み、ただただ破滅を楽しむ……それはそうするように定められ、だけど強制されているわけでもなく、遊びの延長のように……。
「さぁ、来なさい! そして注ぎ込まれなさい!」
両手を振り上げ、滲み出ていた魔力をセンテへと伸ばして誘導するレッタさん。
何を誘導? 決まっている、まだ解消されていない……むしろ膨れ上がったとすら思える魔力にもなっていない力。
負の感情……どろどろとした汚泥のような、そのくせ綺麗な黒曜石のような、それらがレッタさんの魔力に誘導され、こちらへと流れる。
魔力のせいなのか、誘導されているからなのか、それとも密度が濃いゆえか……目に見えるようになったそれはだが触れる事はできない何かのようで……だがそれは、俺達のいる場所へ来る途中で不意に止まった。
「っ!? ちっ、まだ邪魔をするのがいるのね……!」
「チチチ、チチー!!」
「この声は……」
舌打ちをするレッタさんの後に、頭に響くような声は……フレイちゃんのものだ。
渦巻く負の感情を解消するため、対処に当たっていたスピリット達。
それが今、レッタさんに誘導されようとしているのを止めているんだろう。
「させないわよ! もう遅いんだから! っっ!!」
「チチ……!」
見上げる空には、赤く燃え盛る炎が人の上半身になって腕を広げて俺へと向かっていたと思われる、何かを受け止めている。
だけど、勢いは緩やかに量を減らしながらも炎を透過し、俺達のいる場所へと向かう。
苦しそうにうめくフレイちゃん……もういいんだ、全部俺が原因なんだから。
俺が、本当に皆に犠牲を出さないよう、最初から全力で動いて入れば今この状況にはならなかったんだから。
「チ……チチ……」
悲しそうなフレイちゃんの声が、頭に響く。
俺の考え、感情が伝わったのだろうか? 向こうからも感情が伝わってくる気がする。
召喚したのは俺で、フレイちゃんの人格みたいなのにも影響を与えているらしいから、どこかで魔力的な繋がりがあるんだろう。
よくよく意識してみると、アーススピリットのアーちゃんや、ウォータースピリットのウォーさん、さらにウィンドスピリットのウィンさんの気配もなんとなく感じた――。
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