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予想外に耐えるレムレースと焦るリク

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「エコ……それ、完全にこの世界の言葉じゃないわよ!?」
「なんでもいいの。計算通り……なの!」
「だからそれは、戦い慣れている者の言葉よ……はぁ、破壊を司る私ならまだしも、創造するあなたが戦い慣れているって……どうなのかしら!?」
「でも、こうしないと長く引き付けていられないの!」

 断片的に聞こえてきたユノとロジーナの会話……両方叫ぶような大声で話しているから、少しだけ聞こえたけど。
 どうやらユノは計算づくでヒュドラーに囲まれてたようだ。
 つまり、ただ闇雲にヒュドラーの吐き出す魔法を避けているのではなく、自分達に反撃の手段がないように思わせながら打ち捨てた剣が大量に落ちている、これまで戦っていた場所に誘い込む。
 そうして、油断したヒュドラーが首で囲み込んだのを待っていたと……。

「それに私達は、リクみたいに変態なジャンプはできないの。だから、こうしないとヒュドラーの首を攻撃できないの!」
「まぁ、それは認めるわ。本当にリクは変態的ね……ヒュドラーより高い位置にいたレムレースの所まで、簡単に飛ぶんだから。私はアマリーラに飛ばしてもらってようやくだったっていうのに……」

 ……誰が変態か。
 何故だろう、多少距離が離れているために大声でようやく断片的に声が聞こえるくらいのはずなのに、俺が変態と言っている部分だけは妙にはっきり聞こえた。
 どうせ俺が注意しても聞き入れないだろうから、心の中で突っ込む事にしよう……頑張っているだけなのに、変態扱いはちょっとへこむなぁ、ぐすん。
 俺の心の傷はともかくとして、成る程……ユノは首で囲まれる事で高く飛び上がらなくても、攻撃できるようにとも考えていたのか。

 この方法、俺が黒い剣身の割れる前に思いついていたら、もっと簡単に北側のヒュドラー、その九つの首を斬り取れていたかもしれない。
 まぁ、そう思ってもヒュドラーに油断させる手段が思いつかないんだけど……。
 というかユノ、破壊神で戦いを好みそうなロジーナ以上に、こういった駆け引きができるのか。
 恐ろしい女の子だ……中身は神様だけど。

「はぁ……でもそうね、ちょっと痛いけどそれくらいは我慢する事にするわよ。でも、絶対に痛みを受け入れなくてもいいわよ……ねっ!」
「ギギャ!?」

 溜め息を吐くように、首を左右に振って何かをユノに言ったロジーナ……その直後、というか途中かな? しゃがみ込んで近くに落ちていた半分に折れている剣を掴み、別の首へと投擲。
 何かを……風の刃を放つ首か、その喉へと吸い込まれるように放たれた剣はそのまま奥へ突き刺さったようだ。
 首の後ろから、太陽の光を反射してキラリと光る剣先、いや折れた剣の一部が覗いていた。
 さすがに、貫通までは行かないか……剣先が折れているからね。

「ギ……ギギ……」
「早く、早く……!」

 俺が剣を突き刺しているレムレースは、まだ縮小を続けてかなり小さくなっているにも関わらず、声なのかわからない音を出して苦しんでいるだけだ。
 北側でモニカさん達に襲い掛かっていたレムレースより、長く耐えている気がする……個体、と言える存在かどうかはわからないけど、とにかくそれぞれに魔力を持っている量が違うのだろうか?
 打ち捨てた剣の再利用はよく考えたと思うけど、まだヒュドラーに囲まれているユノ達が危険なのは変わっていない。

 結局、首を斬り落とす事も簡単ではないし、そもそもヒュドラーは再生するから……自らの炎で焼かれた首も再び動き出している、というか炎に巻かれてもほとんどダメージを受けていないみたいだった。
 そういえば、熱による攻撃はほぼ意味がないってロジーナが言っていたっけ、この分じゃ内部もそうダメージを受けていそうにないし、受けていても再生しているだろうね。
 そもそも、魔法とはいえ口の中から炎を吐き出すんだから、損傷する事はほぼないか。

「痛いの……」
「それは仕方ないでしょう! 剣を……というより刃の部分を持って使ったんだから!」

 ヒュドラーに囲まれているユノが、自分の両手を顔の前に持って行っている……息を吹きかけているようだけど?
 そう思って目を凝らすと、赤い血のようなものが見えた。
 って、ような物じゃなく血だ……そうか、ロジーナのように剣の柄を握って投げたならともかく、両刃の剣先を握ってヒュドラーに突き刺したんだから、手を怪我して当然だね。
 まずいな、やっぱりユノ達が危険な事にはあまり変わりはないようだ。

「ギギ……!」
「まだか……! 早くしないと!」

 順調に突き刺した剣が魔力を吸収して、レムレースは縮小を続けている。
 けどまだ消えてなくならない……もしかして、魔力吸収が遅くなっているとか? うーん……。

「あ……そうか、ここに来るまで散々吸収したから……かも」

 北のヒュドラーとレムレース、中央のヒュドラー……移動中に魔力放出モードで、溜め込んだ魔力を使っていたうえ、魔力吸収モードでは今も俺に魔力が変換され続けている。
 けどこの剣だって、無限に魔力を吸収し続けられるわけじゃない……と思う。
 例えばクォンツァイタだって、魔力の蓄積量はかなりのものだけど限界がある。
 大きさによって蓄積量が違うってのもあるけど、それにしたって無限じゃないからね。

 魔力放出モードで剣身は伸びるけど、実際の体積は変わっていないだろうし……あれはあくまでも、魔力によって作られていると思うから。
 俺にだってそうだけど、剣にだって限界があるわけで、おの限界が近いという事なのかもしれない。
 ここに来るまでの道中、もっと魔力を放出していればと思ったけど、後悔している暇はない。
 早く、ヒュドラーも倒してユノ達を助けないと……。

 ユノとロジーナは、口では言い合う事が多いのにさすが表裏の存在といったところか。
 ヒュドラーの魔法が吐き出されるのを避け、または口を縫うように剣を突き刺し、喉にも突き立て、戦っている。
 完全に全方位を囲まれているから、場所が狭いため広範囲に及びそうな魔法を妨害しているんだろう。
 それでも、ジワジワと囲みが狭まっている中、時折二人で左右から一つの首を攻撃して斬り取ったりもしている……ヒュドラーがあまり消耗していないためか、数秒で再生するけど。

 それでも、常時三つくらいの首を斬り取った状態を保っているのは、さすがとしか言えない。
 けど……遠目から見ていてもわかる。
 ユノもロジーナも、肩で息をし始めている……戦闘開始からずっと足止め、レムレースとヒュドラーの魔法攻撃を避け、さらに今の戦いだ。
 疲労するのも当然だし、そうなると動きは鈍ってしまう。

「小さくはなっているのに……まだか……ん? 待てよ?」

 俺の体より少し大きいくらいにまで縮小したレムレース、ユノ達の戦いと見比べて焦りが浮かぶ。
 だけどその時、ふと思う事があった。
 そういえばモニカさん達にレムレースの事を聞いた時、確か一度にその黒い霧を焼き払うなどができればいい……と。

「そうか……必ずしも魔力を完全に吸収して倒す必要はないのか……」

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