上 下
1,290 / 1,903

戦線離脱のアマリーラ

しおりを挟む


 咳き込んだアマリーラさんに声をかけ、無理しないよう説得する。
 治癒魔法で怪我や毒は治ったとはいえ、失われた体力まで戻ったわけじゃないからね。
 今は気を張っているから立ってられるだろうけど、気を抜いたら一気に動けなくなりそうだ。
 とにかく休んで失った体力を取り戻してから、また戦って欲しい……。

「アマリーラさんは、重要な戦力なんですから。無理せず今は……回復してからの活躍に期待してます」
「リク様から期待……望外の喜びです! 承知いたしました! このアマリーラ、すぐに体力を取り戻して再び戦場に舞い戻ります!!」

 舞い戻るとか、余計に体力遣いそうだし……休むのに意気込んでいたらむしろ疲れそうだけど。
 まぁ、今すぐ無理をするわけじゃないから、とりあえずはこれでいいか。

「それじゃ、俺はヒュドラーとレムレースをなんとかします。トレジウスさん、アマリーラさんを頼みました」
「はっ! 身命を賭して、アマリーラさんを連れて後退いたします!」

 こっちもこっちで、そこまで意気込まなくていいけど……と思うくらい、力を入れて敬礼までしているトレジウスさん。
 うーん……まぁ、緊張を解している余裕はないし、とりあえずこのままでいいか。
 ちゃんとお願いした事をやってくれるだろうから。

「あ、そういえばアマリーラさんが乗っていたワイバーンはどうしたんですか?」
「あのワイバーンは、陣の近くで休んでいるでしょう。戦闘開始後に、私が魔物に近付き過ぎたせいで、魔法が直撃してしまいましたので。リク様からお借りしているワイバーンを……申し訳ありません」
「ワイバーンなら、再生能力もありますから大丈夫ですよ。休んでいるなら、問題なく怪我も再生しているでしょうし」

 そういえばと、一緒にいたはずのワイバーンが見当たらないと思ったら、怪我をしたから休んでいるという訳か……致命的な怪我ではないんだろうけど、今のアマリーラさんと似たような状況だな。
 もしかすると、その魔法はリネルトさんが言っていた、魔物達の中にある怪しい場所付近での事かもしれないけど。
 詳しい話などは、そろそろ多重結界の数が少なくなってきているようなので、今は聞かないようにして……。
 こちらを何度も振り向きながらも、トレジウスさんに連れられて離れていくアマリーラさんを見送った。

「これでアマリーラさんは大丈夫っと。それじゃ手っ取り早くヒュドラーとレムレースを倒しますかね。えっと、先にレムレースの方がいいかな? 魔法の数も多いし」
「リク、ヒュドラーとレムレースが一緒にいるなら、手伝うの。リク一人じゃ大変なの」
「そうよ。いくらリクでも、あの魔物を同時に相手にするのは……というか、手っ取り早くどうにかできる魔物じゃないわ。リクがここに来るまでに、ヒュドラーは倒せているのはわかっているけど……手間取ったんでしょう?」

 ユノとロジーナが、ヒュドラーとレムレースに向かおうとする俺に対し、協力を申し出てくれる。
 ここに来るのがちょっと遅くなったから、ヒュドラーを倒す事自体に手間取ると考えての事だろうと思う。
 気持ちはわかるけど……素手じゃなぁ。
 ユノはマックスさんから譲り受けた盾があるって、あちこちが痛んでいてヒビ等こそ入っていないけど、それでも修理しないと使えなくなってしまうだろう。

 周辺には、ユノとロジーナが捨てたであろう使い物にならなくなった剣が散乱しているから、激しい攻撃を耐えていたのはわかる。
 一部は酸が降りかかったのだろうか、剣身が解けている物もあるから、剣を変えつつ足止めをしてくれていたんだろうね。

「ユノもロジーナも、武器持っていないから……ここは俺に任せて。俺にはこれがあるから」

 そう言って、抜き身の白く輝く剣を見せた。

「さっきから気になっていたけど、なんなのよその剣は。そんな物持っていなかったでしょ。拾ったの?」
「魔法を斬って消していたの!」

 ロジーナもユノも、興味津々に目をクリクリさせながら剣を見る。
 こういう所は、裏表みたいな存在でも似ているんだなぁ。

「拾ったわけじゃないよ」

 光を放つような剣を拾うって、どんな状況なのかと問いたいけど……まぁ、それはどうでもいい事か。

「これまで使っていた剣があったでしょ? あの剣の剣身が割れて、こうなったんだ。ちょっと小さくなっちゃったんだけど……ほら」

 魔力吸収モードから、魔力放出モードに変えて剣身を伸ばす。
 これ、剣身そのものが本当に物理的に伸びているわけじゃなく、要は白い魔力の剣が出ている状態みたいな感じらしい。
 なんにせよ、黒い剣だった頃よりもむしろ切れ味が増していて、調整するのに慣れれば使いやすい剣だったりする。
 ……その代わり魔力消費は多くなったようだけど、でも魔力吸収モードにすれば多少補るし持っていても魔力が消費されないという利点もあるからね。

「長さが変わったの! すごいの!」
「どこの如意棒よ、長さが変わるなんて」

 如意棒なんて知っていたんだロジーナ……。

「棒じゃないから、如意剣? いや、呼び名はどうでもいいだけど……とにかくこの剣は、魔力を吸収するとさっきみたいに魔法を消滅させられるし、魔物にも有効。今みたいに魔力を放出するようにすると、剣の長さが変えられるみたいなんだ……ん、ユノ、ロジーナ?」

 簡単に剣の仕様を説明すると、ユノとロジーナが俺に背を向けるようにして、コソコソと話し始めた。
 仲が悪そうに見えたけど、実は仲がいいのかな? まぁ、あお互いヒュドラーを足止めするのに協力していたから、それで打ち解けたのかもしれないけど。
 というか、やっぱり魔法を消滅させるって驚くべき事なんだろうか? 剣が今のようになってからは当たり前に使っているけど……。
 マックスさんやヤンさんも驚いていたからなぁ。

「魔法を消滅? そんな……でもリクなら? よくわからない魔力の塊で、私の神力を吸収していたし……もうリクならなんでもありね」
「そうなの。なんでもリクならで説明できるの。創造神と破壊神がというよりも、リクだからなの」
「それって神をも越えるって事じゃ……え、まさかリクって……?」
「しー、なの。多分そうだってだけで、確証はないの。とにかく今はリクだからって事で納得しておくの」

 何を話しているのか、俺にはわからないけど……断片的には俺だからとかで納得しようとしているみたいだ。
 モニカさんやソフィーもそうだけど、俺だからって理由になるのはちょっと心外かなぁ……これまでの事を考えると、自分でも少し納得してしまう部分があるけども。

「えーと……?」
「リクだから、どんな事が起きても、どんな事をしてもそれでいいの!」
「そ、そうよね。うん、私もそういう事にしておくわ」

 そろそろ本当に多重結界が危険域で不味い事になりかけているから、戻って来て欲しいんだけど……張り直そうかな?
 なんて思いながらユノとロジーナに向かって声を出すと、焦ってこちらを向いた。
 ユノもそうだし、ロジーナもなんだけど……何かを焦っているような反応で、話していた内容が気になるな――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...