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剣のおかげでこちらのヒュドラーもあっさり撃破
しおりを挟む剣を突き刺し、暴れ回るヒュドラーは周囲の魔物を巻き込む……というより踏み潰す。
結果的に、最初に少しだけガルグイユなどからの魔法攻撃を受けただけで、途中からは俺に対してだけでなく、マックスさん達の方にも一切攻撃が行く事はなくなった。
……このまま、ヒュドラーを暴れさせて同士討ちみたいな事をさせれば……なんて一瞬だけ頭に浮かんだけど、魔力吸収している今だからそうなっているだけだし、無理かと考えを振り払った。
突き刺した剣が抜けたら、またセンテ側に向かって進行し始めるし、守ろうとする人達を攻撃するだろうからね。
「……ふぅ。よし……多重結界! これで、しばらく大丈夫だね」
ヒュドラーが力尽き、地面に体を横たえて剣を抜く。
ピクリとも動かなくなったヒュドラーと、巻き込まれなかった魔物達とを隔絶するよう多重結界を張る。
これでしばらくは、中央に魔物達が進行するのも押し留めていられるだろう。
そう思いながらヒュドラーの首を一つ斬り取り、再生されるような事がないのを確認して、剣を収めた……全部の首を斬り取るよりも、先に元ギルドマスターの治療をしないと。
「マックスさん、終わりました」
「あ、あぁ……そのようだな」
「本当に、私達だけでなく、ミスリルの矢の攻撃……いや、砲撃を受けても倒す事が敵わないヒュドラーを、一瞬で……」
「北側のヒュドラーを倒して来ているのだから、リク様にならできるとは思っていたが……これ程たやすくというのは想像していなかったな」
マックスさん達のいる所へ戻り、簡潔に報告。
魔法鎧は顔も全て覆われているから、三人の表情はわからないけど……驚いているような声、かな。
それと、俺がヒュドラーに向かった時とまったく同じ格好だったので、ずっと固まっていたのかもしれない。
まぁ、全部輝く剣の魔力吸収能力のおかげなんだけどね。
「俺というよりも、この剣が活躍してくれているおかげですよ」
「……ヒュドラーすら、魔力を吸い取りきる剣というところか。恐ろしいな」
簡単にヒュドラーやレムレースを倒せたのは、剣に寄る所が大きい。
そりゃ、ここのヒュドラーは首が六つだったから……最初から全力でエアソードを使えば、一気に全ての首を狩れたのかもしれないけど。
あと、エアソードだけじゃだめでも、魔力弾と剣を組み合わせれば九つあった最初のヒュドラーより、時間がかからず倒せただろうけどね。
「だがまぁ、その剣が凄い事は認めるが……よくわからん効果を発揮しているからな。それでも、リク様でなければあぁもあっさりはいかなかっただろう」
「私達でしたら、ヒュドラーが暴れ回っただけで振りほどかれそうですね」
「それに、途中からはともかく最初の頃にガルグイユなどからの魔法攻撃もだな」
元ギルドマスター、ヤンさん、マックスさんと、剣だけでなく俺だから……というような事を言っている。
確かに、途中足場用の結界があったから剣から手を離さないようにできたし、ずっと振り回され続けていたら振りほどかれるかもしれないからね。
ガルグイユとかの魔法もそうだし……なんて、以前なら謙遜していただろうけど、今はそこまで過剰に自分の力なんてと卑下はしない。
素直に、マックスさん達が称賛する声を受け止める。
ただ、偉そうにしたり自分以外を下に見るような傲慢な考えにはならないよう、気を付けないとね……。
「あ、そういえばミスリルの矢の砲撃ってのは? あ、元ギルドマスター、ちょっと失礼します」
「え、あ、あぁ……」
とはいえ、まだ悠長に話している時間が多いわけではないので、元ギルドマスターの治療をするために近付きながら、ヤンさんの言葉でちょっと気になった部分を聞いてみる。
称賛が嬉しくないとは言わないけど、ずっとそればっかりってのもね。
それはともかく……ミスリルの矢ってのは、俺が土を固めて作った石の矢だ……石の矢というには、硬すぎてちょっとおかしな事になっちゃったけど……ロジーナがミスリルの矢と命名するくらいには。
その砲撃っていうのは見ていないので、どういう物なのか気になる。
「ミスリルの矢は、リクさんが作った物ですが……あ、ほら丁度あんな風に」
「ヒーリング……よし、元ギルドマスターの治療できました。えっと……あぁ、成る程」
元ギルドマスターを魔法で治癒している俺に、頭上を指し示すヤンさん……小手に付いて魔力を纏っている剣が、ちょうど示すのに役に立っているね、本来の使い方とは違うけど。
空には、エルサの魔法でだろう、とんでもない速度で射出されたミスリルの矢と思われる物が、魔物の方へ向かって飛んで行った。
成る程、砲撃ね……一つの威力が弾丸どころか、大砲みたいなものになっているから砲撃と言って差支えなさそうだ。
「あ、ありがとう……ございます? ふ、不思議なものだ、話しには聞いていたが本当に一瞬で全身の傷が治っている」
「致命傷すら、場合によっては治療できるみたいだからなぁ……」
魔法で治癒を終え、一番深い怪我だった左腕を動かしながら体の調子を確かめる元ギルドマスター。
マックスさんから何やら話しかけられているけど……元ギルドマスター、治癒する時にわかったけどわりと致命傷に近い負傷をしていたんだよね。
本人は隠していたのかもしれないし、気付いていなかったのかもしれないけど……あれで立って動けていたのは、元ギルドマスターの気力がすごいのかそれとも、魔法鎧の効果か……。
「……あ」
そんな事を考えているうちに、ミスリルの矢の砲撃が魔物達へと降り注……がなかった。
俺が張っていた多重結界に阻まれて、全て弾けて消えた。
というか、元の土に戻っていった、が正しいかな?
ちなみに多重結界は、半分以上割れているから……少なくとも数十のミスリルの矢で、ヒュドラーの一斉攻撃よりは威力があるようだ。
「なんだ? 途中で弾けたように見えたが?」
「私にもそう見えました。あれは……リクさんの結界に、何かがぶつかった時に似ていますね」
魔法鎧があるので表情はわからないけど、訝し気な声を出すマックスさんとヤンさん。
ヤンさんの指摘がそのものずばり、俺の結界にぶつかったからなんだけどね。
「いやー、あははは……魔物を寄せ付けないように、俺が結界を張っていたんですよ。どうやらそれに当たったみたいで……」
「そういう事か。だから、先程から魔物達がこちらに来ないうえ、魔法攻撃すらなかったのだな」
左手で後頭部をポリポリとかきながら、苦笑しつつ種明かし……もなにも、ヤンさんが言い当てているんだけど。
腕を組み、呆れ混じりに呟くマックスさん。
多重結界は、撃ち上げてこちらに降り注がせる魔法の使い方をされても大丈夫なように、かなりの高さまで張ってある。
さっき、ヒュドラーの体を越えるように使われていたからね。
だから、俺達からすると結構な高度で放たれたミスリルの矢だけど、結界にぶつかってしまったと。
ミスリルの矢と、エルサの魔法、兵士さん達が投げる労力全てを無駄にしてしまった……申し訳ない――。
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