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リク対ヒュドラーの決着

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「ある一定以下の魔力量になると、活動をほぼ停止するのかな? 多分、周辺の魔力を吸い取って回復しようってところなんだろうけど」

 この状態なら、石像のように体を固めて動かないため、簡単に首を斬り取れるだろうし再生もしない可能性が高い。
 でもそれなら、剣のほうはまだまだ大丈夫そうだし、完全に魔力を吸い取り切ってからでいいかと思い、おとなしくなったヒュドラーに突き刺さっている剣を握りしめた。
 周囲では、やっと近付けた複数の魔物が俺に向かって突撃したり、魔法を繰り出したりしている。
 まぁ、あちらは結界で防いでおけば問題ないね……ヒュドラーのように、結界を突破する攻撃を仕掛けて来るような魔物もいないみたいだし。

「……こうなるんだ」

 さらにしばらく……体感では剣を突き刺して数分程度くらいか。
 剣の輝き弱まり、流れてくる魔力がなくなったから、ヒュドラーの魔力吸収完了したんだと思う。
 ヒュドラーはピクリとも動く事はなく、体も首も全て力なく地面に横たえている。

「一応念のため、首は斬っておこう。……結界!」

 広めの結界で俺とヒュドラーを包み、魔物を近付けないようにしながら剣を抜き、地面に横たえている首に近付く。
 こうして近くで落ち着いて見ると、ヒュドラーの首が堅かった理由がわかるね……ワイバーンやリザードマンのように、硬いうろこがびっしりと表面にある。
 というか、ワイバーンのより硬いね……と、剣の先をコツコツと当てて確かめた。

「うん……再生はしないみたいだ。もう完全に倒したって考えていいかな」

 まずは一首を、剣を振るって斬り取る……その際、地面もちょっと切れちゃったけど……まぁ、仕方ない。
 ヒュドラーの首内部は、黒い石のような肉が詰まっていて、これも斬り取る時にかなりの抵抗になっていたんだとわかる。
 多分その肉だけでも、ワイバーンの皮よりかなり硬いと思う。

「ヒュドラーが抵抗しないからなのか、それとも剣の切れ味が上がっているのか……動いていた時よりも斬りやすい」

 次々と、ヒュドラーの首を斬り取って行く。
 再生をする様子は一切なく、絶命している証拠でもあるけど……念のためだね。
 首を斬る際、剣が短くなったために首の左右から二度振り下ろして斬る必要があったけど、戦っていた時のような……剣身が黒かった時のような抵抗は感じられない。
 多分、呟いた理由の両方が原因なんだと思う。

「ん? あぁ、成る程……こう、かな? ふぉ!? ちょ、ちょっと行き過ぎかなぁ。ほんの少し、ほんの少し……よし!」

 五首まで斬り取って、残り四つとなったくらいで剣の輝きが失われ、今度は柄から俺の魔力を吸収し始めた。
 剣身に触れた時とは違い、緩やかな吸収……というか、以前よりも少しだけ多くの魔力を吸う程度だね。
 ただ俺の魔力を柄から吸収して、剣身が少し伸びたような気がしたので手に魔力を集中させてみると……輝く白い刃が数メートルの長さになった。
 さすがに大きすぎて驚き、魔力を抑えるとすぐに元に戻る剣。

 魔力吸収モードと、魔力放出モードがあると仮定。
 吸収モードは剣身から斬ったり刺したりした相手から、ものすごい勢いで魔力を吸って変換し、使用者に提供する。
 魔力放出モードは、吸収とは逆で使用者の魔力を使って剣身を伸ばしたりするみたいだ……他にも何か効果があるかもしれないけど、今はまだわからない。

 剣身が輝いているのは、魔力が宿っている状態を示しているって事なんだろう、そうするにも魔力が使われているようでちょっと無駄かな? とも思えるけど。
 でも、輝きを放つくらいの魔力を無駄に思う程、魔力量がひっ迫しているわけじゃないから、あまり気にしなくていいか。
 今は回復量が多い状態だし、ヒュドラーにやったようにもしもの時は吸収すれば良さそうだからね。

「おぉ、ちょうどいい長さに調節できると、使いやすいね……魔力調整の練習にもなりそう」

 柄へと流れる魔力……何もしなくても以前より少しだけ増えているけど、それは微々たるもの。
 さらに魔力を調整して流してやると、その量によって輝く剣身の長さを調整できるみたいだ……使う魔力量の練習にもなって、長くも短くもできるのは便利だね。

「よし、全部の首を斬り取った。うん、大丈夫そうだ」

 剣身の長さ調節のおかげで、後半はヒュドラーの首の太さに合わせた長さにできたから、一度振り下ろすだけで簡単に斬り取れて楽できた。
 斬り取った首は、これまでのように酸のようになって消えて行ったけど、ヒュドラーの体は残っている。
 動かないからだは、首を再生させる事なく沈黙しているし、鼓動とか生きている感じはないから大丈夫だろう。

 首は融けて消えるけど、体は残るのか……首は全て、魔力的な何かで作られていたのかもしれないね。
 だとしたら、なんで首を全て斬り取ったら倒せるのか、理由がわからないけど……まぁ、そういった探求的な事は他の人に任せよう、アルネとかカイツさんとか。

「さて、次のヒュドラーに行く前に……モニカさん達の方が気になるね」

 ちょっと高めにジャンプして見ても、さすがに全体の状況は把握できないけど……中央は今のところまだ魔物とヒュドラーは石壁に到達していない様子。
 マックスさん達が頑張ってくれているからだろう、エルサもいてくれるからね。
 南側の様子は一切わからないけど……あっちにはユノとロジーナがいるから、きっと大丈夫。
 けど、俺の後ろ……北側の侯爵軍とモニカさん達の方は、少し押されているような感じだった。

 というか、いつの間にか兵士さん達と合流していたんだね。
 カイツさんが改良したと思われる、青っぽくて大きな盾がずらっと並んで魔物の進行を食い止めているのが見えた。

「けど、なんかよくわかんない霧みたいなのから、魔法で吹き飛ばされているのも見えたから、ちょっと心配だ。モニカさん達も頑張ってくれていたんだろうけど、危険な気配を感じる気がするし、まずはそっちだ……!」

 思い立ったらすぐ行動、時間に余裕のある状況じゃないのは当然なので、すぐさまヒュドラーから離れてモニカさん達のいる方へ。
 いつの間にか、周囲は完全に魔物達に囲まれていたけど……それは特に問題にならない。
 すれ違いざま、キマイラを顔からお尻に向けて一振りで斬り裂き、ガルグイユの体に剣を突き刺して魔力吸収。
 数秒もかからず、砂のように崩れたガルグイユから剣を抜く動作で、ついでに後ろから迫っていたオルトスの顔二つを斬り飛ばす。

「少し慣れてきた……この剣、やっぱり切れ味も凄い!」

 魔力吸収、魔力放出の切り替えが柄を持つ手にある魔力で切り替えられる事がわかり、多少慣れてきた。
 魔物によって使い分ける事で、多くの魔物に対応できるし、切れ味自体も以前より上がっているような感覚がある。
 まぁ、ガルグイユは斬るよりも魔力を吸い取った方が簡単に倒せるのは、なんとなくわかった事だけど、多分最近は魔力の流れや自分の魔力を意識的に感じる事ができるようになったからかもしれない――。


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