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しぶといガルグイユ

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「ソフィー、横に飛んで! ウィンドエクスプロード!」
「っ!」

 石の体に食い込んでいるせいか、すぐに剣を引き抜けないソフィーを見て、横に飛ぶよう指示。
 剣から手を離して、誰もいない方へと飛ぶソフィー。
 すぐに準備していた魔法をガルグイユに向かって炸裂させた!
 風の爆破魔法……これはフィリーナに教えてもらった魔法だけど、小爆発ながら命中した箇所を穿つ効果に優れている……これなら!

「フィネ、油断しちゃだめよ! むぅん!」
「え!?」

 フィネさんの方は頭を潰して気を抜いたのか、動きを止めたのを狙ってガルグイユの両腕がゆっくりと持ち上がる。
 それを見ていた母さんが、声と共に割り込んで小柄とは言えない全身の体重を乗せて、ガルグイユを蹴り飛ばした。
 掛け声もそうだけど、動きも女性っぽくないのはどうかと思うよ母さん……命を懸けた魔物との戦闘だから、そんな事は言っていられないのはわかるけど。
 どちらかというと、父さんなら合っていただろうなぁ……でもそんな母さんの蹴りは、フィネさんの振り下ろした斧よりも威力がありそうだった。

「助かった、モニカ。こいつら、剣が食い込んでも、頭を破壊されても動く事ができるのか……」
「そうみたいね……っ! フレアランス!」
「GUGA!?」

 私の魔法で、ガルグイユから弾き飛ばされた剣を回収するソフィー。
 けど、私が放った風の爆発で弾かれ、仰向けに倒れているガルグイユの顔が動き、目の色が変わったのを見た。
 その瞬間、改めて備えていた魔法をガルグイユに向かって放ち、頭部を破壊。
 ウィンドエクスプロードは、風を使った小爆発で相手を弾き飛ばす効果の強い魔法、変わって今使ったフレアランスは内部に魔法の槍を突き刺して爆発させ、破壊する効果の魔法。

 石で作られた体だから硬いのは覚悟していたけど、思ったよりフレアランスの槍は深く刺さらなかったわね。
 まぁ、なんとか破壊できたようだから良かったわ。

「本当にしぶといな……」
「そうね、はぁ……」
「油断するんじゃないわよ! すぐにまた動き始めるわ! ガルグイユは完全に破壊してから倒した気になりなさい!」

 念のため、次の魔法を準備しながらソフィーに対して頷き、小さく息を吐く。
 けどすぐに母さんから怒号が飛び、気を引き締めさせられた。
 その声に示されるように見てみると、私の魔法が直撃したガルグイユは頭部を破壊され、ソフィーの剣で斬り込まれたうえの衝撃で左腕を失っているにもかかわらず、背中から生えている石の翼を動かしてなんとか立とうとしている様子。
 見れば、フィネさんの方は母さんが蹴り飛ばしたガルグイユに向かって何度も斧を振り下ろし、確実に破壊していた。

「ふぅ……これはこれで、少々骨が折れるな」
「単体で相手にするなら、なんとかなるでしょうけど……これが、石の魔物でBランクたる所以かもしれないわね」

 ソフィーと協力して、ガルグイユを完全に破壊。
 腕や足など、無事な部分があればそれだけで動き出そうとする……斬るのではなく叩き割らないといけないのが、少し厄介ね。

「すぐにここから離れるわ。後ろに下がりなさい!」
「わかったわ!」

 母さんの指示で、ガルグイユが動かなくなった事を確認して、その場を離れる。
 元居た場所に戻る間際、周囲に注意を向けると……ガルグイユとやり合った影響なのか、他の魔物の注意が私達に向いていたわ。
 ……母さんが指示してくれなかったら、囲まれてひとたまりもなくやられていたかもしれないわね……改めて、魔物が大量に迫る戦場なんだと理解した。

 一体一体、備えて戦えばキマイラも含めてなんとか戦えているけれど……リクさんじゃないんだから、私達が囲まれたらすぐにやられてしまうわね。
 気を付けないと……。

「フリージングエリア! ソフィー、今!」
「はい! せいっ!」
「フレイムブラスト! フィネさん、お願い!」
「承知! はぁっ!」

 地面を伝い、触れた者の足を凍らせる魔法を母さんが放ち、完全な足止めはできなくても足の一部が凍って動きの鈍ったマンティコラースに対し、ソフィーが剣を振るって倒す。
 炎をまき散らし、広範囲を燃やす魔法を私が使ってガルグイユ三体の魔法を止め、フィネさんが駆け込んで斧をぶん回して次々と破壊していく。

 ――その後も、私達に注意を向けた魔物を撃退していく。

「母さん!」
「えぇ、わかっているわ! ファイアウォール!」
「アースウォール!」

 それぞれの魔物に、ソフィーやフィネさんが止めを刺している間に、私と母さんが協力して他の魔物の牽制をする。
 攻撃的な炎の壁で魔物の足を止めさせ、放たれる魔法は土の壁で防ぐ……さすがに全てを防ぐ事はできないけれど、こちらに届く攻撃を減らせるだけでも十分。
 ソフィーやフィネさんも、マンティコラースやガルグイユに止めを刺す事に集中していても、周囲に注意を払うのは忘れていないため、ちょっとした魔法程度なら避けてくれるわ。
 でも……。

「はぁ……ふぅ……」
「ガルグイユ、破壊完了しました……はぁ、はぁ……」
「ありがとう、ソフィー、フィネさん……ふぅ」

 止めを刺して、近くに戻って私や母さんの前で武器を構え直す、ソフィーとフィネさん。
 けど、二人共続く戦闘でさすがに息が荒い。
 高ランクの強力な魔物ばかりで、しぶというえに油断できないから常に全力で動く必要があるのだから、息を切らせるのも当然よね。

 私も多少息が乱れてきたけれど、後ろで魔法を使っている事が多いから二人程じゃない。
 ……それでも、槍を振るう事だってあるし、魔法を使うのも集中力がいるから息も乱れて来ているんだけど。
 魔力も、少し不安になってきたわ。

「はぁ……ちょっとしくじったわね……」

 息を吐き、母さんが呟く。
 最初は離れた場所から魔物の注意を引いて、こちらに向かってきた魔物を倒す、という流れだったんだけど……戦闘を続けているうちに、こちらに注意を向ける魔物が増えてきた。
 最初にガルグイユとの戦闘でちょっと手間取った事や、魔物達に近付いた事の影響が大きいかしら。

 でも、それでもヒュドラーと戦うリクさんの周辺はともかくとして、それ以外からの魔物が進攻を続けてきているのだから、いずれ距離が離せなるのはわかっていた。
 だからこそ、少しずつ下がりながら戦っていたのだけど……。

「思ったより、魔物の進行速度が速いわ。もっと、リクさんとヒュドラーの方に注意を向けると思っていたのに……」
「ヒュドラーの攻撃範囲が広くて、リクさんの邪魔になる魔物がほぼいないのはいい事だと思うけど……その代わりなのか、あちらに意識を向けない魔物が多いのよね」

 当初は、リクさんに意識を向ける魔物がもっと多いと思っていたんだけど……考えていたよりも少なく、それでいて魔物達が侯爵軍の放つ矢をものともしない勢いで進行しているのよね。
 もう少し動きを追染めたりする物だと思っていたけど、魔物だから、近くの味方が矢に当たっても気にしないのかしら?
 いえ、そもそも魔物達にとって自分以外……少なくとも、同種族の魔物以外を気にする事なんてないのかもしれないわね――。


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