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リクに対する見解は大体皆同じ

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「ふっ! モニカ、合わせなさい! はぁ!」
「えぇ! せいやぁっ!」
「GYAAAAA!!」

 直後、レイピアを引き抜く母さん。
 その動きに合わせ、少し遅れながらも私はフィネが抑えている顔の方へ。
 ほぼ同時に、複数の小さな蛇になっているオルトスのたてがみ、抑えているソフィーとフィネさんに噛み付こうと近付いているそれらの間を縫うように、私と母さんがほぼ同時に武器を突いた。

 右の顔の眉間に母さんのレイピア、左の顔の眉間には私の槍が深く突き刺さる。
 噛み付いていたソフィーの剣とフィネさんの斧を離し、人ならざる、激しい断末魔の鳴き声を上げたオルトス。

「はぁ……ふぅ。二つの顔が止まれば、たてがみも止まるのか……」
「なかなか……手応えがありますね。マリーさん、モニカさん、ありがとうございます」
「なに、二人が抑えていたからやりやすかっただけよ」

 ズズ……ン……と、先程のキマイラ同様、地面に体を鎮めるオルトス。
 息絶えていて完全に生命活動がない事を確認し、ソフィーとフィネさんがそれぞれ息を吐く。
 二人でだったけど、自分達より体の大きいオルトスに武器を噛ませた状態で、押し留めていたんだから全身に力を込めて呼吸もままならなかったんでしょうね。

「それにしても、本当に丈夫だな。ワイバーンの武器……これまでの武器だと強度が足りなかった」
「そうですね。おかげで、オルトスに噛み砕かれはしませんし、キマイラの足も斬れました。切れ味としても一流の武器です」
「私や、モニカだってそうさね。キマイラやオルトスに軽々と突き刺す事ができたのは、武器のおかげだろうさ」
「母さんの言う通りね。今まで使っていた武器だったら、もう少し浅くなっていたかもしれないわ……そもそも、武器が耐えられなかったかも」

 一先ず迫って来ていた魔物を倒し終えて、ワイバーンの武器に感心する余裕ができた。
 まだガルグイユが遠くからこちらに向かっているけど、石像の動きは本当に遅くてもう少しかかりそうだったから。
 こちらから向かってもいいんだけど、これ以上リクさんが戦うヒュドラーに近付かない方が良さそう。
 ピョンピョン飛んでいるリクさんの姿や、斬り落とされては新しく生えて来るヒュドラーの首、さらに魔物達を巻き込んで火炎をまき散らしているのが、私達がいるところでも見えたから。

「ヒュドラーって、絶対ワイバーンの皮膚より硬いわよね?」
「……あれは、さすがにワイバーンの素材を使った武器でも、無理だろう」
「そもそも、リク様の力が私達の考えが及ぶところにはありませんから」

 遠くから、少しだけ見えるリクさんとヒュドラーの戦い、燃え盛る火炎や、ヒュドラーが吐き出している他の何かを掻い潜り、軽々と首を斬り落としているわね。
 いえ、実際はどうかはわからないけど、こちらから見る分には他の魔物をリクさんが斬る時と、そう変わらないように見えるのよね。
 でもまぁフィネさんの言う通り、リクさんに関して自分達の力や武器と比べるのはしない方が良さそう。
 そもそも私達じゃリクさんの剣を、持つだけで危険なんだし。

「景気良く、何度もワイバーンの首が飛んで行っているわねー。あれは魔法かしら? 剣も魔法も簡単にヒュドラーの首を跳ね飛ばす、それだけでもちょっとよくわからないのに……なんなのかしらあれ? 魔法を使っても、あんなに高く飛び上がれないわよ?」
「まぁ、リクさんだし」
「うむ、リクだからな」
「えぇ、リク様ですから」

 呆れたような母さんの言葉に、私だけじゃなくソフィーやフィネさんの三人が、ほぼ同じ返答。
 疑問に思っても、リクさんだから以外の説明ができないのだから仕方ないわよね。

「はぁ、理解されているというのかね……こういうのも」

 私達を見て溜め息を吐く母さん。
 大量の魔物と、多くの人達との戦闘が開始され、その間に位置する場所でこういった会話ができるのは、ここ最近似たような状況に慣れているからかもしれないわね。
 気を抜いているわけでも、決して油断したり魔物を侮っていたりするわけじゃない。
 むしろ、近くにいるヒュドラーの圧力のようなものすら感じられて、背中に冷たい汗が流れるのを止められないくらいなのよね。

 多分、それは皆同じ……だけど、緊張し過ぎてもいい事はないし、気を張り続けても長く保たないから。
 肉体的にも精神的にも、適度に緩む事が必要なのだとわかっているからこそね。
 母さんは元冒険者としての経験が多いからだし、私やソフィー達はリクさんと一緒に行って、こういった場面に何度も遭遇して慣れたおかげだわ。

 ……こういった状況ばかりで、短期間で慣れるのもどうかと思うのだけど。
 なんて考えていた次の瞬間、迫る気配を感じ、視認する。

「っ! 母さん、ソフィー、フィネさん!」
「わかっているわよ、モニカ! アイスランス!」
「ファイアピラー!」
「せあっ!」
「ぬんっ!」

 皆に声を掛けると、それぞれ確認していたようですぐに行動に移す。
 迫っていたのは、おそらくガルグイユでしょうね……飛来する魔法。
 母さんが氷の槍で人の顔の倍はある火球を打ち落とし、私が炎の針で風の刃を打ち抜く。
 さらに二つ、槍のような矢のような尖った氷の塊はソフィーとフィネさんが、それぞれ武器で打ち砕いた。

「四つ……私達それぞれに向けた魔法だろうけど、ガルグイユは二体だったわよね?」
「こちらに向かっているのは、二体なのを確認している。他からも合流したのか?」
「いえ、今もこちらに向かっているガルグイユは二体です。別に魔法が使えそうな魔物は……私達には向かっていませんね」

 火や風、氷などの多様な魔法を使えるのはガルグイユで間違いないでしょうけど、数が多かったのが気かかる。
 リクさんじゃあるまいし、本質的に魔法は同時に二つ以上を放てない……オルトスやヒュドラーのように、複数の首や顔があるのなら別だけど。
 フィリーナが最近、近い事をしているようだけどそれにしたって、あくまで二つ以上の効果を持つ魔法というだけであり、魔法を同時に二つ以上放っているわけじゃないわ。

「……私は直接戦った事がないのだけど、話しには聞いた事があるわ。本当だったのね……ガルグイユは、二つの魔法を操るって」
「二つも!?」
「つまり今のは、二体が同時に二つの魔法を放っていた……それで間違いないのか」
「それは脅威になり得ますね。何故Bランクなのでしょう? と思いましたがそうですね、あの鈍重さはAランクとはなれない……」
「えぇ。動きが遅いから対処もしやすい。同時に放てると言っても二つまで……数で押せば石の体が硬い事を除けば、どうとでもできるわ。さっきも見たように、多少威力の高い魔法を使えるとしてもね」

 魔法の同時発動……それは基本的に人間には不可能とされているのよね。
 リクさんは、魔力量だとかエルサちゃんとの契約だとかで特別として……エルフにもできないらしいわ。
 でも、魔物だからっていうのもちょっと思考停止に近いかもしれないけれど、そういう特殊な能力を持った生き物がいてもおかしくはないか。
 エクスブロジオンオーガのように、体を爆発させるなんていう特殊な性質を持つ魔物だっているわけだし。

 でもまぁ、魔法にさえ気を付ければ母さんの言っている通り、動きが遅くて対処をしやすい。
 油断していい相手じゃないのは間違いないけれど、キマイラやオルトスを複数相手にするよりは、いいかもしれないわ――。


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