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対ヒュドラ―苦戦中

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 ヒュドラー、九つの首それぞれの特徴はまだある。
 七首は風、かまいたちなどかなりの斬れ味を誇る風を吐き出す……酸程の強い影響はないけど、結界の表面少しくらいは斬られている感覚だ。
 八首は収束された熱線……おそらく炎を体内で凝縮して吐き出す、といった感じに近いかな? 威力としては溶岩よりも上だけど、細い熱線で進行速度は遅くて避けやすい……ただ、熱線を出したまま首を動かして追尾までして来る。
 ロジーナの光を収束させたのとは違って、結界は貫通しないのは助かった。

 九首は、先程も受け止めた火炎……燃え盛る炎はキマイラも簡単に燃やす程で、広範囲なため結界で受け止めるのはともかく、完全に避けるのは苦労しそうだ。
 最後に五首……こいつはヒュドラーの中央にある首で、全ての首を統率しているようだ。
 こいつだけ特別で、状況を見て他の首全ての攻撃を扱う事ができるみたいだ……多分、他の首は中央の五首の派生みたいなものなのかもしれない。

 司令塔ならと考えて、こいつを狙った魔力弾を放って見たけど他の首が庇って、反らされたり避けられたりしたので重要な首なのは間違いないんだろう。
 さらに、威力弱めの連発用魔力弾を使ってなんとか数発当てたけど、少し傷を付けたくらいで他の首と比べても格段と硬いみたいだ、ちなみにその傷もすぐ再生した。

「それぞれの特徴は、なんとなくわかったけど……これは結構骨が折れそうだね。っ! せい! はぁ!」
「フシャ……!」
「ギャギャ!」
「ギャギー!」
「グゲゲ……!」

 呟いて、ヒュドラーからの攻撃が止んだほんの一瞬を狙い、横から回り込んで再び飛び上がる。
 今度は真っ直ぐ飛ぶんじゃなくて、縦に首を伸ばすヒュドラーに対して高さをキープしながら横に飛んで、二つの首を一気に斬り払う。
 右端の一首と横の二首。
 ついでに、結界で攻撃を防いでいた間に貯めておいた魔力弾を放った。

 魔力弾は三首を狙ったものだけど、貫通して丁度直線状にあった七首もまとめて貫く。
 一度に四つか……九つを一気にと行きたいところだけど、五首は強度が高いから力を込める必要があるし、そうしていると他の首も一緒に刈り取れない。
 だからといって五首を残すと他の首を刈り取っても再生するだろうし、そもそも中央にある五首が邪魔で上手くいかない。
 というか、巨大なヒュドラーの首を一人で九つも刈り取る手段って、あるのだろうか?

「ぬぁ!? た、多重結界! っとと……危ない危ない」

 四つの首を刈取って着地した俺に、四首の溶岩と六首の腐食毒が混ざった水ブレスが襲い掛かる。
 慌てて振り返って多重結界を張り、なんとか触れないように自分を守った。
 さすがに、溶岩は熱くて火傷必至だし、腐食毒を浴びて服だけならまだしも皮膚が腐るなんて事になりたくない。
 背中を伝う冷や汗を感じながら、結界で自分を守りつつ剣を構え直す。

「ギャギャー!」
「……やっぱり、再生が早い。でも、最初よりは少し……本当に少しだけ遅くなった、かな?」

 何度か首を刈り取った影響なのか、ヒュドラーの再生速度がほんの少し遅くなった気がする。
 体感的に数秒程度なので、本当に遅いのかどうかははっきりしないけど。
 もし遅く感じたのがヒュドラーを消耗させている影響なのだとしたら、聞いていた通り時間をかけて攻撃を加えて消耗させる、という方法は有効ではあるようだ。
 けど……。

「そんな事をしていると、他の皆の負担が増える……んだっ! よっ! せやぁ!」
「ギャギー!」
「フシュシュ!」
「ゲアー!」
「グギャギャ!」
「……!」

 今度は逆からと、九首を狙って横から飛び上がり剣で斬り取り、八首もすれ違うようにして剣を振るう……そのまま山なりになって地面に、という所でヒュドラーの体に乗って再びジャンプ。
 七首と六首を斬り取って、地面に落ちる際に魔力弾を放った勢いを利用して距離を離す……そうしないと、落下途中や着地する瞬間を狙って、他の首の顎が迫るかブレスで狙われるから。
 結界で防げるにしても、もし間に合わなかったら危険なので、ヒュドラーの攻撃タイミングをずらす狙いだ。
 ちなみに魔力弾は、一首に当てて顔が弾け飛んだ。

 短時間でどう倒せばいいのか、方法はまだ見出せないけど……でも何もせず結界に閉じこもっているわけにも行かないからね。
 闇雲に攻撃を繰り出し、でもヒュドラーの行動を観察して倒す方法を考えるのは止めない。
 剣で斬り裂き、魔力弾で貫き……何度も何度も、首を刈り取る。
 ヒュドラーの体内というか、ヒュドラーそのものが酸でできているとでも言うのか、刈り取った首は全て地面に落ちると同時に土を融かす酸になって消えて行く――。

「っ!? こなくそ!」
「フシュー!」

 何度目だろうか、おそらく十分以上は経過しているヒュドラーとの戦いで、一首に剣を振るった際に今まで以上の抵抗を感じた。
 抵抗は最初の時以上で、何度も首を斬り取った時と同じようにちゃんと力を込めて振るったにもかかわらず、首の中ほどで剣が止まる。
 このまま途中でぶら下がれば、ヒュドラーの餌食になるし剣を手放すわけにはいかないと、渾身の力を込めて体を回転させつつなんとか振りぬく。
 地目に落ちて

 かろうじて一首は斬り取れたけど、これまでのように他の首に攻撃する余裕はなかった。
 どうしてだろう? ヒュドラーが再生するたびに、強固になっているとか?
 いや、さすがに何十と首を再生させて速度が目に見えて遅くなっている、ヒュドラーそのものが消耗している証拠だし、再生で強化するような余裕はないと思う。
 だとしたら、俺が何か……?

「多重結界!……うん、魔力はまだまだ残っている。というか、使った先から回復しているような感じだね。まぁ、消費の方が多くて多少減ってはいるけど」

 降り注ぐ岩石や溶岩、腐食毒の水やかまいたち、さらに氷や炎を結界で防ぎながら自分の体内へ意識を向けて確認。
 魔力消費の激しい魔力弾を連発しているにもかかわらず、魔力自体はあまり減っていない。
 ロジーナに隔離された時なら、もうほぼ魔力を使い切る寸前というくらいのはずなのに……それだけ、負の感情とやらが俺に流れ込んで魔力の回復を促しているって事だろう。
 結界、魔力弾、さらに抜き身の剣で常に魔力を消費しているにも関わらず、大きく魔力が減っていないのは総量が多くなった事以上に、回復が早いのが原因だろうね。

 でも魔力が減って、俺の力が下がったとか剣に十分な魔力が行っていない……というわけではない。
 ならどうして……?
 ん、剣?

「あぁ、これは……」

 ふと気になって、持っている剣を見る。
 どうして斬れなくなったのか、その原因がわかった。
 剣身が、所々欠けたり融けたりしていて、ボロボロになっていた……そりゃ、魔力を使って魔法を発動していると言っても、刃が欠けたら切れ味が悪くなって当然だ。
 何度も固いヒュドラーの首を斬っている事もそうだけど、結界の発動が間に合わない時は溶岩や火炎を剣で受けて、少しだけの間を稼いだ時もあったし……。


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