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開戦の先制攻撃
しおりを挟む「ちょっと、変な事を言わないでよ二人共!」
言わないでって事は、本当に狙っていたのかな? いやいや、そんなわけないよな。
モニカさんは、ただ親切心で俺に水をくれただけだ……決して、変な狙いがあったわけじゃない。
「はいはい、皆そこまでにしておきなさい。魔物、近付いてきているわよ? モニカも、こういう所で狙うんじゃなくて、落ち着いた時に正面から攻めなさい!」
「うぅ……本当にそんなつもりじゃなかったのに。考えなくはなかったけど……」
パンパンとマリーさんが手を叩き、あたふたしている俺やモニカさんを落ち着かせ、浮足立っている雰囲気を引き締めてくれる。
モニカさんは、何やら俯いてボソボソと呟いているようだけど……よく聞こえなかった。
でも、確かに魔物達は先程よりも近付いているのは確かで、本当に遊んでいる暇はなさそうだ……。
「……ありがとう、モニカさん。ソフィーやフィネさん。マリーさんも」
「え? 何、リクさん?」
「ううん、なんでもない」
「んー?」
引き締まった雰囲気の中、魔物達の方へと視線を向けながら口の中で聞こえないよう、小さく呟いて皆に感謝する。
モニカさんは、俺が声を出した事自体は聞こえたようで、不思議そうに首を傾げていたけど……恥ずかしいから、ちゃんとしたお礼は落ち着いてからにしようと思う。
皆が来てくれてから、さっきまでの寂しさや心細さは一切なくなっていた。
俺は一人じゃない……後ろにはモニカさんを始めとした皆、それ以外にも一緒に戦う兵士さんや冒険者さん達、宿で俺達が無事に戻って来るのを待ってくれている人達、多くの人達が付いてくれているんだ。
気が付くと、魔物達へ向けていた怒りや恨みとも言える感情も、薄れているような気がした。
皆は俺が凄いとか言ってくれるけど、俺にとっては皆がいてくれるおかげと思う部分が多いから、やっぱり俺一人じゃなくて皆が凄いんだと思うよ――。
「リク様! ヒュドラー、その他の魔物の接近を確認。こちらの有効射程範囲内の侵入しました!!」
「ありがとうございます! 他の人達にも報告を! それと、引き続き上空からの監視をお願いします!」
「はっ!!」
しばらく、マリーさんやモニカさん達に支給された武器を見て話していると、空からワイバーンに乗った兵士さんが近付いて報告を受けた。
有効射程範囲内って事は、兵士さん達の弓矢や魔法などが届く距離って事だ……こちらにはエルサの魔法は使われないので、射程は短いから大分近付いているってわけだ。
複数の首を持つ巨大なヒュドラー以外にも、キマイラや見た事のない魔物も含めて、遠目でもはっきりとその姿が確認できるようになっている。
魔物が見えるのに、こちらに近付いてきているのがわかるのに、ジッと待っているのは少し焦れてしまうね……。
「そろそろね。わかっているかい、あんたたち?」
マリーさんがレイピアを抜き、睨むように魔物達を見ながら皆に確認するように声を掛ける。
「えぇ、もちろんよ母さん。中央でエルサちゃんが強化した飛び道具が放たれて、魔物達を削ったのを確認後、各場所でヒュドラーに向かう」
「まぁ、向かうのはリク達で、私達ではないが……それと同時に全体が動き出す」
「私達も、後ろの侯爵軍もまず魔物に打ち込みます。その後、リク様がヒュドラーに……ですね」
「うん、最初の流れはそうだね。事前に報告があったように、ヒュドラーの前には他の魔物もいるけど……無理に倒そうとは思わなくていいから」
「えぇ、そこはリクさんに任せるわ」
流れとしては、まず中央から魔物達に向かってエルサが強化した飛び道具を叩き込み、それを合図に全てが動き出す。
魔物達は突出しているようなのは特にいないため、中央より射程が短い北と南も一斉に動けるくらいまで引き付けていた。
その後は、全体で魔物に対して遠距離攻撃を仕掛けつつ、対ヒュドラー組が動き出す。
ただ、俺の場合はキマイラ達が多少いたところで、突き進むだけなのでモニカさん達には無理に露払いはしなくていいと伝えてある。
俺とヒュドラーが戦っている時に、横から割り込もうとする魔物の相手に集中して欲しいからね。
これからの動きを簡単に確認して、顔を見合わせ頷き合い、武器を持ってその時に備える……。
「……っ! リクさん!」
「うん、多分エルサがやっているね」
モニカさんが鋭く反応して指示した先には、中空に浮かび上がるいくつもの白い輪。
離れているけどはっきり見える輪は、一つ一つが直径数メートルといったところだろうか。
それが数十……いや、数百くらいに見えるけどはっきりとは数えきれない。
目を凝らしてみると、単なる輪ではなくて内側に無数の輪を内包して、それらが直線のない魔法陣のようにも見える。
……浮かんでいる輪そのものも、一つの円を描いているのかもしれない。
俺がミスリルの矢を試した時より凝っているのは、ちゃんとした威力、狙い、勢いを魔力として纏わせるためだろうか。
「狙いは中央ヒュドラ―周辺! 輪を通せばエルサ様がやってくれる……! てぇっっ!!」
辺り一帯に響くフィリーナの声……多分、風の魔法で声を増幅させて指示を出したんだろう。
「ヒュドラー奥、狙い撃てっっ!!」
フィリーナの声に続いて、俺達の後ろにあるい石壁の向こうから大隊長さんの声。
こちらは増幅されていない肉声が響く。
次の瞬間……中央から撃ち出される矢、石などの飛び道具……それらが輪を通りすさまじい勢いで、魔物達へと殺到する。
さらに、俺達の頭上を通るように侯爵軍が放った矢も、山なりになってこちらへと向かうヒュドラーの奥へと向かった。
「ルジナウムで見た時より、数が多いから圧倒されるわね……」
「俺は撃ち込まれた方だからわからなかったけど、撃つ方はこんな感じだったんだね」
モニカさんは、俺やユノがルジナウムで戦っている最中に同じような方法で、矢が放たれるのを見ていたけど、俺はこうして見るのは初めてだ。
こんな感じだったんだね。
北、中央……俺達のいるところからは見えないけど、おそらく南。
一斉に放たれた攻撃が魔物の大群へと突き刺さる。
特に中央は、目で追えない程の勢いを持ち、おそらく魔物へ突き刺さり、貫通し、地鳴りのような音を全体へ響かせた。
密集しているから、あまり正確な狙いは付けていないしそこまではできないんだろうけど、魔物達が密集しているおかげで、数十くらいは削れたんじゃないかと思う。
こちら側から放たれた矢も、次々と巨大なヒュドラーを通り越して後ろの魔物に突き刺さり、中にはヒュドラーの前にいる魔物へと突き刺さっているのが、なんとなく見えた。
強化されていないただの矢なので、中央程はっきりと魔物が削れるようには見えなかったけど……それでも、こちらからの強襲にヒュドラーを始めとした魔物達は驚いて進行を遅めているのがわかる。
この後侯爵軍は、前に出る俺達に当てないようヒュドラーから離れている魔物へ、続けて攻撃をしてくれる事になっている。
あとは、俺がヒュドラーに突撃して戦う……これからが本番だ!
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