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強化土壁の耐久テスト
しおりを挟む土壁の強化は、侯爵軍の兵士さんのほとんどと冒険者さんに協力してもらい、大量の砂と土を用意。
壊れている東門よりもさらに北まで……センテの東の外壁の外側を覆うようにだ。
センテの外壁と土壁の間が、戦闘する際のこちら側の陣地になるってわけだ。
分厚くしているし、所々人が二人通れるくらいの隙間を空けて、こちらから出られるようにもしてある。
さすがに一度に多くの人を外側に向かわせられるようにはできないけど、まずは防御力強化が先決だからね。
強固な土壁で守りつつ、エルサ主導で飛び道具攻撃をするのが、強化をする一番の目的だ。
ついでに、さらに土を凝縮させるようにイメージして硬くしてみる。
「よし……っと。これでいいかな?」
コンコン、とノックをするとように軽く叩く。
かなり硬く質感はコンクリートっぽくなったけど、それとはまた違う感じだ。
見た目もブロック塀に近いけど、これは完全に俺のイメージのせいか……ブロックを重ねたわけじゃないから、石壁の方が近いか。
ともかく強度も申し分なしだと思うけど……一応。
「ちょっといいですか?」
「はっ、いかようなご命令でも! リク様のご命令が最優先ですので、なんでも!」
近くで土壁が作られて行く様を見ていた兵士さん、そのうちの一人に声かける。
兵士さんは俺の声にすぐ、ハッとなって直立不動で胸に手を当てる敬礼。
そんな最優先とか重大な任務をってわけじゃないし、そこまで意気込まなくてもいいんだけど……。
あと、なんでもって言われたら、ん? って返したくなるから、あまり言わないで欲しいかも……こちらの世界じゃ絶対通じない返し方だし。
「えっと……あなたは次善の一手は、訓練されていますか?」
「もちろんです。私以外にも、リク様、ユノ様から手ほどき頂き、現在センテにいる侯爵軍の兵士の半数以上が実戦での使用が可能となっております!」
「俺は教えていないんですけど……まぁいいか」
演習や模擬戦などもやったから、直接教えたのはユノでそこから兵士さんの間で広めたにしても、混同して俺も教えた事になっているのかもしれない。
今話している兵士さんは、後から合流した組で模擬戦や演習の時に見た人じゃないし。
ともかく、次善の一手が使えるのであれば問題ない。
俺は兵士さんに頼んで、土壁に向かって次善の一手で武器を振るってもらえないかと頼む。
これまでの土壁は、次善の一手を使う兵士さんの武器が当たったら壊れないまでも、傷くらいは付いていたみたい。
だから、さらに凝固させるようにイメージした今の土壁がどの程度の強度なのか、確かめるためだね。
「では……僭越ながら」
最初は、俺が作った土壁に攻撃を……なんて気後れしていた兵士さん。
けど、耐久力を試すだけですから、という俺の説得で了承してくれた。
傷を付けても問題ないし、むしろその場合は凄腕の兵士さんがいるって考える、と言ったのが一番やる気を引き出したらしい。
土壁に近付いて槍を構える兵士さん、後ろからは他の見物人……というか、その兵士さんの部下と思われる人達がはやし立てていた。
「隊長、頑張って下さい!」
「隊長は見た目にそぐわず膂力は凄いですから、きっと!」
「ここでリク様に認められたら、大出世ですよ! 隊長が出世したら、副官の私は自然と今の隊長の立場に……!」
「お前ら、集中できないから黙っていろ!」
「ははは……」
応援と、一部自分の出世のための声援を送る兵士さん達に苦笑。
俺に認められたからって出世するとは限らないんだけど……でもまぁ、上を目指すのは悪い事じゃないよね。
仲が良さそうというか、こういうことを明け透けに言うのはむしろ、隊長さんが慕われているからなんだろうと思う。
「……では……せいっ!!」
「「「おぉ!?」」」
「ふむふむ、成る程……」
両手で槍を構え、少しの集中の後踏み込んで渾身の突きを放つ隊長さん。
目には見えないけど、ちゃんとした次善の一手になっていたんだろう、土壁に跳ね返されるなんて事はなく、穂先がほんの少しだけ……数ミリほど刺さっていた。
槍は剣よりも突きに向いた武器だから、ってとこか……。
以前の土壁には剣の斬り傷のような跡があったり、鋭い何か……多分槍などが深めに突き刺さった後があったりもした。
でも今は数ミリくらいで、ほぼ刺さっていると言えるのかも怪しいくらいだ。
凝固させての強化は成功しているみたいだね。
隊長さんにはお礼を言って、仕事に戻ってもらった。
部下の人達からは、何故かすごいすごいと言われていたようだけど……俺が土壁に少しだけ刺さった槍を見て褒めたからなのかもしれない。
数ミリ刺さったまま、手を離してもそのままだったから思わず呟いただけだったんだけど、喜んでいるようだからいいか。
刺さった状態の槍がそのままになっているって事は、刺さっている部分付近は割れたり削れたりしていないのか……強い衝撃でも欠ける事はないとわかったのも、試した甲斐があった。
まぁ、隊長さんが両手を使って全力で引っ張っても抜けなくなってしまっていた槍を、俺が片手で軽々と抜いた事には驚かれてしまったけど。
「皆を守る壁はこれでいいみたいだから……後は、少し暇がありそうだし、ちょっと工作してみようかな」
強化した土壁の人が出入りできるようにした隙間から、王軍と魔物達が衝突している方を眺めながら、まだもう少しかかりそうだったので、別の事を始める。
兵士さん達が思ったよりも早く土や砂を集めてくれたし、魔法もすんなり成功したから、時間が余ったようだし丁度いいだろう。
「ふんふふ~ん……っと。よし、こんなもんかな?」
適当に余った土やその辺にある石などを集めて、端から魔法をかけて行く。
なんとなく地道な作業になったけど、こういう一人で没頭する乗って意外と嫌いじゃない。
思わず出てしまっていた鼻歌を終わらせ、作った物を見て満足して頷いた。
「ふわぁ……だわ。何をしていたのだわ?」
俺の頭にくっ付いて、土壁を強化していたくらいから寝息を立てていたエルサが、欠伸をしながら周囲を見て聞いてきた。
昨日俺がすぐに寝られないからと、モフモフを堪能させてもらっていたから、少し寝不足なのかもしれない。
いや、頭で寝ているのはいつもの事か。
「あぁ、エルサ。おはようって言うには遅いけど。少しでも皆の役に立てばと思ってね、これを作っていたんだよ」
「……石の矢、なのだわ? 小さいけどだわ」
「うん。小さくしたのは簡単に作れるようにだけど、投げやすくってのも考えてだね」
起きたエルサに、地面に置いてある俺が作成した物を手に取って見せる。
それは、土や砂を固めて作った簡易的な矢の形をした物……土壁と同じように、コンクリートみたいになっているから、土じゃなくて石の矢だね。
……土壁も、もう石壁でいいか。
「それを……こんなに、だわ?」
エルサが見ているのは、俺が作った石の矢………それがうず高く積まれている所。
最初はイメージするのが難しかったから、時間がかかっちゃったけど、イメージが固まってからはむしろ素材になる土や砂、石を探す方が時間かかるようになっていた。
イメージは頭に固定した状態で、素材を拾っては発動を繰り返し、でき上がった物は一つの場所へ……没頭していたからいつの間にか、結構な数になっていたんだよね――。
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