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偽りの母娘
しおりを挟む「確かあの時は、レッタって名乗っていたかしら」
「えぇ!? レッタさん!?」
驚いて、思わず大きな声が出てしまった。
モニカさんは俺が驚いている事に不思議そうにしているけど、会った事がないからだろう。
多分ソフィーに聞いたら、覚えていると思う……ロジーナと初めて会った時、一緒にいたレッタさん。
ロジーナの母親って言っていたっけ、だから保護者面か。
それはともかく、考えてみればロジーナは破壊神で人間の体を作っていたんだから、その母親というのはおかしい。
ユノみたいに、遊ぶために地球の人間として生まれて……みたいにしているならともかくだ。
「そうよ。まぁ、本当は私の方が保護者なんだけど、見た目はそうじゃないでしょ? だから、そうしていたの。人間って馬鹿よねぇ、母娘を装っていたら皆油断するんだもの」
「……」
この世界に来て、マリーさんやモニカさん達、姉さんなどを見て女性も活躍しているのを間近に見ているけど……。
確かに言われてみれば、か弱い女性とその娘という構図になるから、怪しむ人は少ないのかもしれない。
少なくとも、男数人とかよりは話すのにも警戒心は薄いだろう。
あれは俺と接触するためとロジーナは言っていたけど、さらに油断させるために母娘関係すら偽造していたのか……手が込んでいるというかなんというかだ。
「とにかく、あれがいるのだから私がここにいるのは、間違いなく伝わっているはずなのよ。それなのに、遠慮も何もなくヒュドラーを複数、さらに他にも大量の魔物を差し向けるなんて……これは反抗と捉えていいわよね」
「えっと……そうなのかな? でも、ロジーナの事をわかっているなら、なんとでもなるみたいに考えているとかは?」
「それはないわ。私が今人間の体を使っている事も、伝わっているはずだもの。向こうも人間の体だし。あれと一緒にいるリクなら知っていると思うけど、人間の体の時の死は、神としての消滅を意味するのよ。当然知っているはずなのに……」
「あれって……」
ちらりとロジーナが視線を向けた先には、まだ口を尖らせて拗ねているユノ。
そういえば以前、人間の体でいる時は神ではなくなっている、みたいな事を聞いた覚えがある……あれは確か、この世界にユノが来た時だと思う
ロジーナがいるとわかっていて、しかも人間になっているからユノと同じように、神としての力を振るえるわけじゃない。
しかももしその状態で、魔物に襲われて死んでしまえば神としての存在も消滅する……とかそんな感じなんだろう多分。
それを知っていてヒュドラーを止めないって事は、ロジーナが言う通り全てわかっていてやっている、と思えなくもない。
レッタさんがなにを考えているのか、俺にはわからないけど。
乗り合い馬車で話した時は、おっとりしていて優しそうな母親って感じだったのになぁ。
「だから、私は全力で抵抗するわ。人形に反抗されて、黙ってやられるわけにはいかないもの。私は破壊を司る者、生き残るために逃げるなんて選択肢もないわ」
再び、凄絶な笑みを浮かべて魔物の向こう見るロジーナ。
生きる残るためなら、ロジーナの実力があればここから逃げ出す事も容易だろうに、破壊神だから逃げないらしい。
まぁ、魔物を創ったはずの破壊神が、その魔物にやられそうだから逃げるっていうのも、おかしな話になるのかな?
「結局、人形で落ち着いたんだ。でも、それならちょうど良かった。ロジーナに頼みたい事があったんだ」
そんなロジーナに、本題を切り出す。
ここで話しているのは、ロジーナから事情を聞き出すためじゃなくて、ユノとの共闘を頼むためだからね。
……気になる事を言われたから、ついつい話し込んじゃったけどね。
でも、ロジーナの事以外に待っている事があったから、ちょうど良かったかな。
「何よ。リクからの頼みごとなんて、ろくでもない事にしか思えないんだけど……」
露骨に嫌そうな表情になるロジーナ。
破壊神の時とは違って、見た目は変わっているのに嫌そうな表情がなんとなくユノに似ている気がした。
「ヒュドラーの足止めをお願いしたいんだ。三体いるんだけど、一体は俺が倒すよう考えているんだけど、残り二体は俺が戦っている間、好き勝手に暴れさせるわけにもいかないからね」
「成る程ね……ヒュドラーはどうにかしたいと思っていたから、好都合よ。不自由な人間の体だけど、一体なら足止め程度なんとでもなるわ。でも、別に倒してしまっても構わないんでしょ?」
「まぁ、できるならその方が助かるけど……」
そんな死亡フラグ立てなくても……というか、そのセリフって。
もしかすると、ユノと一緒でロジーナも地球に来ていたのかもしれない。
……破壊を司る破壊神が、そんなセリフを言って死地に赴くなんて、なんの冗談だよと思わなくもないけど。
でもまぁ、ロジーナにはロジーナの怒り……もとい戦う理由があったおかげで、意外とすんなり承諾してくれてホッとした。
すげなく断られる事も、想像していたからね。
おかげで昨日は、いつもよりエルサのモフモフを撫でまくって心を落ち着かせて、ようやく寝られたくらいだ。
エルサからは、前足……というか手でペシペシ叩かれたけど。
「でもどうするの、足止めするヒュドラーは二体いるんでしょ? さすがに、私一人じゃ二体ともの足止めはできないわよ?」
「そこは大丈夫、他にも考えている事があるから」
ロジーナに、簡単ながら魔法鎧の事を話す。
昨日あれから、元ギルドマスターも呼んでマックスさん達が試着をしてみたらしいんだけど。
ヤンさんはともかく、マックスさんと元ギルドマスターはさすがに体が大きすぎて、窮屈過ぎたらしい。
さすがにこれではヒュドラーの足止めができるくらいの、ポテンシャルは出せないと頭を抱えたとか。
ただそこでクォンツァイタの事もあって、魔法具に詳しいフィリーナやカイツさんに話が行き、ほんの少しだけだけど調整を加える事で、窮屈さを微妙に解消しつつ、問題なく動けるようにできるとかなんとか。
具体的には何をどうしているのか、話を聞いた俺もよくわからなかったけど、体に影響を及ぼす魔法を鎧に仕込む事で、サイズ問題は解決しないまでも問題なく動けるようになるって言っていた。
まぁ要は、無理矢理体を押し込んで窮屈だったとしても、体と鎧を連動させるとか。
魔法具でもある鎧の仕様変更にもなるわけだけど、短時間でそれができるのはエルフで特に魔法具の研究をしているカイツさんがいるからできた事らしい。
「ふーん、人間もエルフもそれなりに対処法を編み出しているわけね。なら、私はヒュドラー一体を受け持てばいいのね。リクの頼みを聞くのは気分がいい事じゃないけど、わかったわ」
ちなみに後方支援には、フィリーナとカイツさんも参加する事になった。
フィリーナは最初から乗り気だったんだけど、カイツさんは魔法鎧が実際に戦うところを近くで見たいからと自分から申し出たらしい……研究熱心だね。
魔法鎧を着た三人と、後方支援も交えてヒュドラーのうち一体の足止めをする事にロジーナは納得してくれた――。
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