上 下
1,225 / 1,903

作戦会議ひとまず終了

しおりを挟む


「構いません。それに……こういった時にこそ、若い者達に任せるのではなく老兵も全力を尽くすべきだと、考えておりますので。まだまだ、リクやモニカ達若いやつらに任せたきりにするには、早いですからな」

 ちらりと俺を見て、シュットラウルさんに答えるマックスさん。

「老兵という程、老いてはいないだろうに。……わかった、マックス殿の心意気受け取った。すまないが、リク殿に協力してヒュドラーを倒してくれ。だが、くれぐれもむりはするな? 老兵だからとて、命を散らしていいものでもない」
「もちろん、わかっております。無駄に命を粗末にする事は致しません。獅子亭の方も、まだまだこれからですから!」

 実直に、貴族であるシュットラウルさんがマックスさんに頭を下げる。
 こういう部分があるから、センテを守る人達も死力を尽くすんだろうか……? マックスさんも同様だったみたいで、深く頷いて請け負ってくれた。
 あと、ギリギリフラグ的な発言も回避しているのはさすがだ、意識しているわけじゃないだろうけど。
 これで「この戦いが終わった後も、腹をすかせた奴らに料理を食べさせなければ」とか、マックスさんが言いそうな事をそのまま発言していたら、危険だったかもしれない。

「……それでマックスさん。何故私を魔法鎧の候補に? いえ、実力という意味では、私自身も適任だと思いますが」 
「ヤンは、俺とパーティを組んでいただろう? お前は状況を見て動くのが上手いからな、やりやすいと思っただけだ。それに、俺を盾部隊に推薦したのはお前だからな。ちょうどいいから巻き込んでみた」
「はぁ……わかりました。若い者たちに負けないよう、衰えた体に鞭を打つ事にしますよ」

 お互い気心が知れた仲だからか、ヤンさんにしては珍しくジト目でマックスさんを問い詰める。
 マックスさんの方はあっけらかんとした反応で、溜め息を吐いたヤンさんが折れ、魔法鎧を身に付ける候補になる事を頷いた。
 でも確かに、マックスさんとヤンさんは元冒険者で同じパーティだから、チームワークという点では申し分ないだろう。
 ヤンさんの体型的にも、マルクスさんに近い細身ではあるけど、まだ鍛えているのかそれなりにがっしりしているし、マックスさんよりは魔法鎧が合いそうだ。

「冒険者達への指揮は、ベリエスさんに任せますよ」
「あぁ、任せろ。なに、なりたてのヘルサルギルドマスターよりは、上手くやって見せるさ。少々数が多いがな」

 ヤンさんはヘルサル支部のギルドマスターだから、一応冒険者さん達の指揮権のようなものを持っている。
 とは言っても、ほとんど自由に動いて兵士さん達みたいに、全員で固まるって事はないんだけど。
 ともあれ、もう一人のギルドマスターがいるから、ベリエスさんに任せればなんとかなるだろう。
 ヘルサルとセンテ両方を拠点にしている冒険者が混在しているため、数も含めて大変そうだけど。

「あとは、元ギルドマスターにも話しておかなければいけませんね。あの人の気性から、断る事はないと思いますが」
「だろうな。むしろまた魔物が迫っていると聞いたら、単独で行きそうな気配だ。リクが戻って来てから、戦いの激しさがなくなって残念そうだったくらいだからな」
「元ギルドマスターさん、そんな人だったんだ」

 いや確かに、鍛錬のためにヘルサル農園を耕す農夫として働き始めるとか、ルギネさん達に訓練を付けるとかもやっていたけど……。
 とにかく、自分が動いて何かしていないと落ち着かない人なのかもしれない。
 ……マックスさんと同じく筋肉に傾倒しているのも含めて、イメージ通りか。

「ここにヴェンツェルがいればな……ヤンではなくヴェンツェルの名を出したんだが」
「ヴェンツェル殿ですか、冒険者時代に何度もマックスさんを通して会った事がありますが、あの方ならむしろ先にマックスさんの名を出していたと思いますね。まぁ、向こうは軍を指揮する立場なので、止めざるを得ませんが」

 ヴェンツェルさんだったら、マックスさんとは違って最初からこの場にいただろうし、シュットラウルさんと同じく自分がと考えそうだ。
 その時一緒に、同好の士というか昔地味なのもあってマックスさんを指名していたのは、簡単に想像できるね。

「ふむ、ヴェンツェル殿を知っているのか?」
「知っているも何も、若い頃から切磋琢磨して筋肉を鍛え合った仲ですよ、侯爵様」
「ほぉ!」

 ヴェンツェルさんの名に反応したシュットラウルさん。
 何故切磋琢磨して、筋肉を鍛え合う事になるのかは謎だけど、興味を惹かれた様子。
 とりあえず長くなりそうだったので、マックスさんとシュットラウルさんは置いておく事に。
 マルクスさんや大隊長さん、ベリエスさんとヤンさんリネルトさんを交えて、ユノへのロジーナと協力する頼みや、細々とした軍の展開などを話し合った。

 総大将が筋肉談義をしていて大丈夫なのか? とは思ったけど、大隊長さんと残っていた執事さんが後でなんとでもすると請け負ってくれたから、多分大丈夫なんだろう、きっと。
 ここ最近、魔物との戦闘に関する事ばかりだから、シュットラウルさんも心置きなく話せる機会が必要だろう、とは執事さん。
 まぁ、魔物に囲まれて絶望的にも思える状況をなんとか打破しそうな時、さらに大きな絶望が迫っているとなったら、興味のある楽しい話をして気分を変えるのもいいかもね。
 もちろん、その後はちゃんと全員の上に立って、立派に務めを果たしてもらいます……と、これも執事さんが言っていたから、束の間の筋肉談義を楽しんでもらった――。


「ぶぅ……なんで私があれと仲良く戦わないといけないの?」
「ま、まぁまぁユノ。確実にヒュドラーと戦うためだから」
「よっぽど不満なのね、ユノちゃん。ロジーナちゃんは、確かにとっつきにくい子だったけど」
「ユノみたいだと言ったら、むきにはなっていたがな。だが確かに、ユノと同等のように私にも見えた」
「見た目通りじゃないとわかっていても、あんなに小さい女の子が、軽々と魔物を蹴散らすのを見るのは、驚きしかありません」
「リクー、お腹減ったのだわー」

 会議後、ある程度大まかな事を決めてまずは、今いる魔物の掃討を急ぎ明日中に準備を整えて迎え撃つ、となり解散。
 庁舎に後から来たモニカさん達も合流し、今は宿に戻って食堂でむくれるユノのご機嫌を取っている。
 他の皆はそれぞれ、ロジーナの事を話していたり、エルサはただ空腹を訴えていたりと……ちょっとだけわちゃわちゃしているけど。

「お待たせしました……」
「ほらほらユノ、料理が来たから。お腹を満たして、機嫌を直そう?」
「むぅ、むぅ、なの……」
「キューをいただくのだわー!」

 そんな中、宿のメイドさんに頼んでいた食事の準備が終わり、運び込まれる。
 お腹が膨れれば、もう少しユノの機嫌も良くなるだろうと、美味しそうな料理を勧める。
 不満そうにしながらも、美味しい物には目がないユノ……むぅむぅ言いつつ料理をかき込み始めた。
 エルサも、キューのお皿に飛びついて食べ始める、これで少し静かになってくれるだろう――。

しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...