1,220 / 1,903
Sランク魔物の脅威
しおりを挟むシュットラウルさんが、この場にいるヤンさんとベリエスさんに、冒険者ギルドに属する側としての意見を求める。
ヤンさんとベリエスさんが顔を見合わせ、小さく頷いた後ヒュドラーに関して話し始めた。
「はい、近年でヒュドラーと戦ったという冒険者は、現在アテトリア王国内にいません。遠く離れた他国の地で、国と冒険者ギルドが協力し、多大な犠牲を払って一体の討伐に成功した。という報告がギルド内で共有されているくらいです」
「私やヤンもそうですが、実際に見た事はありません。ただ、伝え聞く話によるとSランクの魔物というのは、Aランクまでの魔物とは強さの格が違うのだと言われております。我々の想定では、数百人で囲んでゆっくり対処するとしていますが……実際に戦った者からの伝聞えは、対処法を間違えると数百どころか数千、場合によっては数万の戦力が壊滅してもおかしくない程だと……」
「それほどまでに凄まじいのか……」
想像していたよりも、かなり強力な魔物のようだ。
体の大きさだけでなく、複数ある首や魔法、そして再生能力が問題なのだろうか?
「ヒュドラーは、複数ある首を全て斬り取る事で討伐できるのですが……一つでも首を残した状態にしていると、他の首も再生するそうです。実際に見た事はないので、本当にそうなのかやどれくらいで再生するのかはわかりかねますが」
「全てを一度に……もしくは再生される前に、斬り落とさねばならないのか。それは確かに簡単にはいかぬな」
「しかも周囲の魔力、我々が自然の魔力と呼んでいる魔力を吸収するのです。その魔力を活力に、昼夜問わず活動し再生する。さらには魔法をまき散らして多大な被害をもたらす……と」
「自然の魔力を吸収……ですか」
つまり、ゆっくり時間をかけて疲れさせる、と言われていた討伐方法が実際は有効じゃない?
いや、吸収される速度よりも攻撃を加えて疲れさせるようにすれば、ヒュドラー側がジリ貧になってくれるのか。
ただし、そのためには多くの犠牲と長時間戦い続ける戦力が必要になるんだろうけど。
「ふむ……聞けば聞く程、三体もいる事がバカバカしく思えて笑えてしまうな……他の魔物だけでも脅威なんて言葉では済まされない状況なのに、そんな魔物がそれも三体もいるとはな」
「シュットラウルさん?」
そう言って、口角を上げて笑みを浮かべるシュットラウルさん。
諦め、苦笑……絶望? いや違う。
ニヤリと不敵な笑みという程面白そうではないけど、決して諦めたりしているような笑みではなかった。
「リク殿、一人で一体……可能か?」
「……戦った事がないので、断言はできませんが……大丈夫だと思います」
笑みを浮かべたまま、俺を窺うシュットラウルさんに頷く。
まき散らされる魔法は結界でなんとかなる……まさか破壊神、もといロジーナのように結界を易々と壊せる威力はないだろう。
そうであれば、対処を間違えなくても数万の犠牲で済むような相手じゃないはずだ。
自然の魔力を吸収しての、活力回復は……それを上回る攻撃をしたらいいだけ。
幸いにも、俺は力任せに攻撃するだけで尋常じゃない威力を発揮できるから、問題ない。
後は再生能力で……まぁ、首を斬り落としてから再生までの時間が気になるところだけど、魔法を使えばなんとかなると思う。
アルネやフィリーナが使うような、ウィンドカッターだっけ? あれに近い斬り裂く魔法をヒュドラー相手にばら撒けばいいから、これも問題ないはず……やり過ぎに注意しないと、またエルサやマリーさんんに怒られそうだけど。
それにだ、魔力の事はあまり気にしなくていい状況でもあるわけで、ちょうどいいから流れて来る感情事ヒュドラーにぶつければいいだけの事。
「……少し考えましたが、やっぱり大丈夫そうです」
「ヒュドラーの凄まじさを聞いても、頷けるのはリク殿しかいないだろうな」
まぁ、ヒュドラーどころかそれより恐ろしいはずの破壊神とも、戦ったからね。
ロジーナはあの時本気じゃなかったとしても、破壊神としての干渉力を大きく使う程の力の片鱗より、ヒュドラーの方が強力なんて事はないだろう。
魔力弾以外、結界も魔法も剣も通じないなんて絶望より、全然マシだ。
「我らが英雄がこうして諦めていない。そして、倒せると言っている。絶望して諦める段階ではないな。いや、むしろ私には希望が見える程だ」
ヒュドラーの話をヤンさん達からされた時、この部屋にいる俺とシュットラウルさん、マルクスさんとリネルトさん以外の全ての人が、絶望的な表情になっていた。
いや、エルサはまた俺の頭にくっ付いて、暢気に寝ているけどそれはともかくとして。
シュットラウルさんはそれを見て、雰囲気を変えようと考えたんだろう……ちょっと大仰な仕草で、俺を示している事からも、間違いないと思われる。
絶望的な雰囲気にのまれていたままじゃ、作戦は決まっても士気は上がらないし、魔物に押されてお終いなんて事になりかねないから、かもしれないね。
「しかしシュットラウル様、実際にヒュドラーが三体。一体はリク様がなんとかするとしても……他の二体はどうなされるおつもりで?」
「まぁ、手っ取り早く一体を倒せたら、残りの二体もどうにかできるかもしれませんが……」
マルクスさんはシュットラウルさんと同じく、絶望していなかった人なので反論するわけではないだろうけど、実際問題残ったヒュドラーをどうするのかは問題で、そこを忘れてはいけない。
戦った事がないので、一体を倒すのにどれだけ時間がかかるかわからないし……最終的には俺が三体全部倒す事になるにしてだ。
一体を相手にしている間、残りの二体に自由に暴れさせているわけにもいかない。
「先程リク様やエルサ様の提案にあった、飛び道具をヒュドラーに向けるのはどうだ? キマイラすら貫いて倒せる威力ならば、倒せはしないまでも足止めはできるはずだ」
「足止めはできるでしょう。正攻法であるヒュドラーの疲れを待つ、という対処法にも繋がります。ですが、その間他の魔物達への攻撃の手が緩む事になりますので……」
「それはそれで、ヒュドラー以外の魔物が迫って来られれば、危険なのはこちらか……」
シュットラウルさんの案に、マルクスさんが反論する。
確かにヒュドラーだけなら足止めとして有効だと思うけど、他にも大量に魔物がいるからなぁ。
そちらの事も並行して考えると、足止めをするだけよりも難易度が高い……というか高すぎる。
キマイラなどの対強力な魔物相手として、魔法鎧を身に付けた誰かをと考えていたけど、それをヒュドラーの足止めに使うようにする?
……いや、それだとほぼ単独でヒュドラーの相手をしなきゃいけなくなるから、いくら魔法鎧が頑丈だとしても危険が大きすぎるか。
三つあるから、一体はそれでとも考えられるけど……結局残りの一体をどうするのかが問題になる。
兵士さんと冒険者さん達は、遠距離版次善の一手みたいな攻撃法で戦って、被害を減らす方がいいだろう。
焦ると先に力尽きてしまうのは全体の戦力が劣るうえに、これまでの戦いで消耗しているこちら側だ――。
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~
平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。
しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。
カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。
一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる