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それぞれにやるべき事を

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「アマリーラさん、色々頼んで申し訳ないですけど……」
「いえ、問題ありません。リク様のご命令とあらば、確実にこなしてご覧に入れましょう」
「ちょっと大袈裟ですけど、よろしくお願いします」

 多くを頼んでしまったけど、むしろアマリーラさんはやる気に満ち溢れている様子。
 さっきまで恐怖に震えていたり、どうしたらいいのかと戸惑っていたりした様子は、今はない。
 根っからの軍人気質なのか、それとも獣人の特性なのか……はっきりとやる事を示すと、やりがいを感じるのかもしれないね。

「あと、ワイバーンも戦力になるから、ボスワイバーンとも……カイツさんにも協力してもらって……」

 ワイバーンは、魔法が使えなくとも再生能力という強い武器がある。
 それだけで戦局をひっくり返す程じゃなくても、一助にはなるだろうから、ボスワイバーンにも頼まないといけない。
 他にも、カイツさんとフィリーナも大事な戦力になるし……シュットラウルさんが身に付けていた魔法鎧も、多分使えると思う。
 小さく呟きながら、考えを巡らせて順番にやる事を決めていく。

「アマリーラさん、リネルトさんはシュットラウルさんの所にいるんですよね?」
「はい。シュットラウル様への報告はリネルトに任せました。おそらく、そのままこれからの動きの相談をしているかと」
「わかりました……それじゃ、細々とした事はリネルトさんに任せればいいかな。って、俺がアマリーラさんやリネルトさんにお願いしてばかりじゃいけないか。シュットラウルさんに聞かないと……」

 リネルトさんの所在を確認して、全体的な事をアマリーラさん、細々とした事はリネルトさんにお願いするよう決めた。
 けど……よくよく考えたら、アマリーラさん達はシュットラウルさんの部下であって、俺があれこれ指示していい人じゃなかった。
 まずはシュットラウルさんに話を通して……。

「確かに、指揮権と言う意味ではリク様ではなく、シュットラウル様にありますが……我々獣人は、強い者に従う事を喜びとしています。ですので、リク様からのご命令であれば何よりも優先されます。おそらくそれは、リネルトも同じかと」
「そ、そうですか……わかりました。とりあえずシュットラウルさんには事後承諾でも、ちゃんと話はしますけど、今はそれでお願いします」
「はっ! 必ずやリク様の意思に沿う働きをしてご覧に入れましょう!」

 指揮系統を乱すのはまずいと思ったけど、とりあえずアマリーラさんがお願いを聞いてくれるのなら、今はそれでいいか。
 シュットラウルさんとはこれから会うし、その時改めて今お願いした事への許可を取ろう。
 俺に対し、敬礼をしてワイバーンに乗り込むアマリーラさん。
 見送っている暇はないので、すぐにスピリット達に顔を向けた。

「スピリット達は、センテを覆う負の感情への対処だよね?」
「そうねぇ。かかりきりになると思うわぁ」
「こうして呼び出して頂いたにも拘わらず、召喚主様へのご助力ができず申し訳ございません」
「その代わり、できるだけご主人に流れ込む力をせき止めてみせるぜ!」
「チチ!」
「うん、お願い。魔力が回復すると言っても、危険な事には変わりないからね」

 負の感情が一気に流れ込んできたら、魔物にぶつけるどころじゃないからね。
 近づく魔物に対して、スピリット達も一緒に戦って欲しいとは思ったけど、状況が状況だから仕方ない。
 ウォーさんやフレイちゃんもやる気だし、そちらはそちらで頑張ってもらおう。

「よし、それじゃ確認は終わったね。よろしく頼むよ!」
「応!」
「頑張るわぁ」
「お任せ下さい」
「チー!」

 スピリット達は、俺の言葉にそれぞれが応じてセンテの空へと向かった……アーちゃんだけは、地面に足を付けているし巨大だから、外壁に向かうだけだけども。
 それらを見てから、ユノ達の方へ振り返る。

「それじゃ……ユノは東門でマックスさん達と合流を。エルサは俺を乗せてシュットラウルさんの所へ……」
「途中まで一緒の方が早いの」

 確かにここで別れるより、センテの庁舎に向かってからユノだけ東門に向かう方が早いか。
 歩いたら一時間くらいはかかる距離だし。

「あぁ、それもそうだね。わかった。それじゃエルサ、ひとっ飛び頼むよ」
「了解したのだわ。超特急で行くの……ユノ、離してなのだわ」

 ユノに頷き、エルサにお願いする。
 了承したエルサが、特急なんてこの世界になさそうな言葉を発するけど、ユノにしっかりと抱き締められているので、大きくなれなかったようだ。

「……気を取り直してだわ。超高速で飛ぶのだわー」
「言い直した……」
「言い直したの。緊張感がないの」
「一番緊張感がないのは、ユノなのだわ! 細かい事は気にしないのだわ!」

 改めて、ユノから解放されたエルサが特急を言い換えつつ大きくなった。
 俺やユノに突っ込むエルサに、少しだけいつもの調子を取り戻しながら、背中へと乗り込んだ。
 アマリーラさんからの緊急報告から、俺もかなり緊張していたようだ……やる事や考える事はいっぱいあるけど、肩に力が入り過ぎていたらいい事はなさそうだし、気を付けよう。


「到着したのだわ。……はぁ~だわ。やっぱり、ユノよりこっちの方がいいのだわ~」
「む、後でいっぱい抱き締めるの!」
「はいはい、いいからユノはあっちだろ?」
「はーい」

 シュットラウルさんがいる庁舎のすぐ近く、少し開けた場所にエルサが降り立ち、背中から降りる俺とユノ。
 すぐに小さくなったエルサが、俺の頭にくっ付いて温泉にでも浸かっているかのような声を出した。
 エルサの言葉に頬を膨らませたユノを宥め、東門への方向を示してそちらへと走らせる。

 降りた場所にはワイバーンがいて、エルサを見て驚いているようだ……リネルトさんの乗っていたワイバーンだろう。
 他にも兵士さん達が驚いている様子なのは、急にエルサが降りてきたからだろう。
 急いでいるので、ごめんなさい。

「はぁ~、話している間私はこうして寝ておくのだわ」
「まぁ、エルサはあまり話に参加しない事が多いからいいんだけど……ふっふっふ、後でたっぷり頑張ってもらうから、今しっかり休んでおくといいよ」

 体力、魔力共に充実しているだろうけど、これからに備えて休んでおくのもいいと思う。
 基本的に、エルサは俺がシュットラウルさん達と話している時は、話しに入って来ないからね。
 それに、魔物と戦う時になったら存分に力を振るってもらおうと考えているし……と、不敵な笑いをして冗談交じりに脅しておく。

「……リク不適な笑い……似合わなくて怖いのだわ」
「そっち!?」

 俺としては、悪役が何かとんでもない悪事を企んでいるような、そんな雰囲気が出たと思ったんだけど……エルサからは不評だった。
 そりゃ、悪役になりたいとかの憧れはないし、俺自身似合わないのもわかっているんだけどね……くすん。

「失礼します! シュットラウルさん!」

 エルサとのやり取りの後すぐ、庁舎に入る。
 シュットラウルさんがいる部屋の扉をノックして、許可が出たのを確認して中に入った――。


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