上 下
1,208 / 1,903

悪い力と気持ちの悪い気配

しおりを挟む


 フレイちゃんが思い出したのは、俺に何か伝えなきゃいけない事があるんだとか。
 内容は気になるけど、ウィンさんの言葉がフレイちゃんにだけで、俺達には何も聞こえなかったのはスピリット同士だからどこか繋がりがあるからかもしれない。

 呼び出して実体化していないから、俺達にははっきりと声として届かなかったんだろう。
 って事は、フレイちゃんだけでなくウィンさんが俺達に……というか、俺に伝えたい事があるって事か。
 さっきここから離れてって言っていたのと、関係あるんだろう。

「チチチ、チチーチチチチ」
「んっと……ここは危険だから、すぐに遠い所に離れて?」
「チチ!」

 声を出すフレイちゃんの言葉の意味が、頭の中に入り込んで来る。
 モニカさんにもわかるように、それと確認のために口に出すと、フレイちゃんは頷いた。

「どうして、ここから離れた方がいいの? というか、離れるっていうのは、この場所……えっと、アーちゃんが魔物を倒すための舞台を作った場所って事かな?」
「チチー。チチチ、チーチチ、チチチチ!」

 首を振るフレイちゃん、どうやらこのスピリット達が魔物を倒した場所って意味じゃないみたいだ。
 えっと……ここじゃなくて、ここら一帯……つまり、センテ周辺から離れろって事らしい。
 確認とモニカさんにも伝えるため、また口に出して聞く俺にフレイちゃんが頷く。

「センテから……そういえば、ロジーナも似たような事を言っていたっけ……」
「あいつは、ただリクが邪魔なだけなの」

 ロジーナ……つまり破壊神も、話した時にどこか別の場所へ行けと言うような事を言っていた気がする。
 それを思い出して呟くと、ユノが口を尖らせた。
 確かに、ロジーナにとっては俺が邪魔のような雰囲気だったけど……でも、ただそれだけで言っている感じじゃなかったんだよなぁ。
 まぁ、向こうは何を考えているのかわからないし、何かを隠している様子もあったから、今は考え過ぎないようにしておこう。

「チチー、チチチチチ……」
「悪い力……? それって……」
「もしかして、だわ……」

 その後もフレイちゃんに詳しく話を聞いてみると、何やらセンテを中心にして、妙な気配が渦巻いているのだそうだ。
 その妙な気配が、悪い力となって少しずつ俺に向かっているとか……。
 悪い力、妙な気配……ここ最近、エルサと気にしていた気持ちの悪い気配の事だろうか?
 暢気に話を聞いていたエルサも、これには深刻な様子で呟いた。

「俺も、ちょっと気になっていた事があるんだけど、フレイちゃん……」
「チチ―……」

 確認のため、フレイちゃんにこちらから質問をする……エルサが感じている気持ちの悪い気配についてだ。
 すると、それがおそらく同じであるだろう事が判明。
 スピリット……つまり精霊であるフレイちゃんは、魔力や意識などの集合体であるらしく、その気配がエルサやユノよりもはっきり感じられるんだとの事。
 感じられるどころか、より直接的に影響を及ぼす事も考えられ、しかもその気持ちの悪い気配の中にも、スピリット達の断片が混ざっているからとも言われた。

 詳細についてはよくわからない部分があったけど……とにかく今センテ周辺には、悪い力が集中しており、それが俺を目標に向かって来ているんだとか。
 いやむしろ、俺の中に入り込んできているようだとか。
 そのため、寝ている俺の無意識に呼びかけて、ようやく今日呼び出して伝える事ができたと……。
 その際、もしかしたら忘れているかもしれないので、気付いてくれるまでずっと呼び掛けてくれていたようだ。

「もしかして、ここで妙な感覚というか……急かされる感じになったのって」
「やっぱり、ここでスピリット達が暴れたからだわ。まだ少し繋がりが残っていたからだわ」
「チチ!」

 暴れたと言ったエルサの言葉に、フレイちゃんが抗議するように鳴く。
 それはともかくとして、ここでスピリット達がそれぞれ俺が呼び出して、力を行使したのは間違いない。
 そのため、魔力も含めて力の残滓のようなものが、細く薄い繋がりになっていたんだろう。
 寝ている俺の無意識に呼びかけて……というのは、夢とかそういった部分だろうか? その辺りは、詳しく聞いてもよくわからなかった。
 睡眠中の無意識は、溶け出して混ざり合い、集合して繋がり合う……無意識の中の意識の壁を破れば、その人の無意識に訴えかける事ができる。

 また、睡眠が浅くなったり起きる直前が一番、意識の壁が薄くなる。
 なんて事を言われても、ほんの少しくらいしか理解ができない。
 他にも、集合的無意識とか意識と無意識の境界線……なんかを、フレイちゃんではなくユノが喜々として語ってくれたけど、モニカさんも俺も首を傾げるばかりだ。
 とりあえず、寝ている俺に呼び出すようずっと語り掛けてきていて、目を覚ます直前にほんの少しだけ繋がったという事だと思う、多分。

「チチ、チチチ!」
「他のスピリット達も呼び出して欲しい? それはまぁ、なんとかできるけど……さっき言っていた、ここから離れろってのは?」
「チチー、チチチチ……」

 とにかく、フレイちゃんだけじゃなく他のスピリット達も呼び出して欲しい、と訴えるフレイちゃん。
 最初に言っていた、俺がここを離れると言話しはどうしたんだろう? と思って聞いてみると……。
 やっぱり、俺とエルサやユノが妙に感じていた気持ちの悪い気配は、フレイちゃんが言っている悪い力と同じで、それから逃れるためにセンテの周辺から離れた方がいいって事。
 そして、俺が離れている間に、スピリット達が協力してその悪い力を分散させたり、解消させたりして、影響を及ぼさないようにする、という事らしい。

「悪い力か……」
「これで、私の感じていた気持ちの悪い気配の正体が、少しだけ判明したのだわ。リクに影響があるようなら、言われた通りにした方がいいのだわ」
「意識や、魔力に限らず目に見えない事象に関しては、スピリット達はスペシャリストって言えるの。そのスピリット達が悪い力と言っていて、それがリクに影響するなら、言う通りにした方がいいの」
「エルサちゃんもユノちゃんも、同意見みたいね。私は……正直、話しのほとんどが理解できなかったんだけど、どうするのリクさん?」

 悪い力、というのがなんなのかわからないけど……エルサやユノはフレイちゃんと同じ意見で、俺がここから離れた方がいいと考えているようだ。
 モニカさんは、俺と同様に話の内容が全部理解出来なかったようで、俺がどう判断するの窺っている。

「そうだね……俺も、理解できる事は多くなかったけど、フレイちゃん達がそういうならと思うよ。フレイちゃんもそうだけどスピリット達が、嘘を言うようには思えないし……エルサやユノもこう言っているから」

 エルサやユノは信頼しているし、フレイちゃんもそうだ。
 スピリット達が、こういった事で嘘を言って俺達をはめようとするとは考えられないし、ここは素直に従っておいた方がいいだろうと思った――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

処理中です...