上 下
1,206 / 1,903

忘れている何かと急かされる気持ち

しおりを挟む


「それにしても、何か忘れているような気がするんだよね……」
「忘れている……忘れる事なら、大事じゃないと言うところなんだけど、リクさんだから不安ね」

 この場所に来てから、何かにせっつかれるような……急かされる気持ちが沸いて来て、忘れている事があるような気分になっている。
 呟くと、本当に不安そうな表情になるモニカさん。
 いくら俺でも、本当に大事な事をわすれたりなんて……しないと言いたけど、自信を持って言えないのはこれまでの自分の行いのせいかもしれない。

「うーんなんだったか……」
「ここに来てから、そう思ったのだわ?」

 首をひねる俺に、頭にくっついているエルサがバランスを取りながら聞いて来る。

「うん、なんとなくなんだけどね。思い出した方がいいかもとか、思わされるんだ。早くしてー、みたいな事を言われているような気分、かな? 実際には誰にも言われていないけど」
「ここは、リクが呼び出したスピリットがこうしたのだわ。だったら、そのスピリットに聞くのもいいかもしれないのだわ」
「スピリットかぁ……また召喚するって約束はしているけど、何も用がないのに呼び出すのは、どうなのかな?」

 エルサに感覚的な事も含めて話すと、スピリット達を呼び出してはと提案される。
 ゆっくり休めているから、魔力に余裕があるどころか完全回復状態なので、呼び出すのは構わない。
 けど、用もなく無関係の可能性の高いスピリットを呼び出すのは、迷惑じゃないだろうか?
 俺が忘れている事を、スピリット達が知っているとは思えないし。

「ここはそのスピリット達が、濃い影響を残した場所なのだわ。だから、ここに来てリクが何かを感じるのなら、その影響の可能性もあるのだわ。もしそれでもと思うのならだわ、暇潰しとでも考えればいいのだわ」
「暇潰しって、それこそ迷惑じゃない?」

 確かに、エルサの言う通りスピリット達が派手に魔物を倒した場所だから、何か影響が残っているのかもしれないけど……。
 でもさすがに、暇潰しに呼び出すのはどうかなぁ。

「スピリット達は、魔力集合体なの。誰かが呼び出して存在を固めないと、意識をたゆたわせているだけで、暇をしているはずなの。だから、暇潰しで呼び出すだけでも喜ぶの!」
「魔力集合体……はまぁわからなくもないけど、あの見た目は結構不定形だし。意識をたゆたわせているとかはよくわからないけど、本当に暇なのかなぁ……ってユノ、いつの間に!?」

 フレイちゃんとか、形が色々と変わるから魔力の集合体と言われても納得できる。
 最初に召喚した時とか、人間の形すらしていなかったからね。
 それ以外の事はよくわからないけど、本当にいいのかな? と考えたところで、教えてくれた相手がエルサの声じゃない事に気付いた。
 いつの間にか、俺達の前にユノが来ていた……全然気付かなかったんだけど。

「リクさんが、エルサちゃんと話している時に走ってこちらに来ていたわよ?」
「え、そうなの?」
「遠くからリクの事が見えたの。だから来てみたんだけど……あの時のスピリット達の話をしているのが聞こえたの」
「気付かなかったのは、リクだけなのだわ」
「モニカさんだけでなく、エルサも気付いていたのか……」
「これだけ見晴らしのいい場所で、近付いて来るのに気付かないリクがどうかしているのだわ」

 そう言われたら確かにそうだ。
 見渡す限り遮る物のない場所で、いくら小さな女の子くらいの身長とはいえ、走ってこちらに近付いているはずのユノに気付かないなんて。
 それだけ、エルサとの話に集中というか、急かされている何かや忘れているかもという感覚に、集中していたのかもしれない。
 言い訳にはならないかもだけども。

「それじゃ、何もしてもらう事がなくても呼び出していいのかな?」
「多分、喜ぶの。話し相手ってだけでもいいと思うの。意識とか感覚を、少し他の何かと共有する事はあると思うけど、話すというのはそれだけで新鮮なの」
「そうなのか……」

 暇かどうかはともかく、意識をたゆたわせて誰かと会話する事がないから、用事がなくても呼び出して構わないようだ。
 話をするだけでも喜んでくれるのなら、気楽に呼び出せるね。
 もし俺の気がかりのようなものが、スピリット達とは何も関係なかったとしても気にする必要はなさそうだ。
 魔力にも余裕があり過ぎる程あるから。

「それなら……また呼び出す約束もしていたし、ゆっくり話したいフレイちゃんがいいかな?」
「なんでもいいのだわぁ。でも、あのデカブツだけは呼び出さない方がいいのだわ」
「大きいと、皆が驚くの」
「そうね……離れていた私も、外壁越しに少しだけ見えたけど……あまり大きいのは、今は避けておいた方が良さそうね」

 大きい、というなら間違いないなくアーススピリットのアーちゃんの事だろう。
 魔物を阻む数メートルの高さがある外壁より大きかったし、周辺の魔物に気を配っている今の状況で、急に呼び出さない方がいいかもね。
 皆から、お勧めされなくてアーちゃんがちょっとだけ不憫だけど……仕方ない。
 他にもウォータースピリットのウォーさん、ウィンドスピリットのウィンさんもいるけど、呼び出すならやっぱりフレイムスピリットのフレイちゃんだね。

 何度も呼び出して慣れているのもあるけど、俺に懐いてくれているようだから。
 まぁ、俺以外と言葉が通じないのが難点ではあるけども。

「そういえば、リクさんが呼び出す……スピリット? を近くで見るのは初めてかしら。キマイラ討伐の時とかに、見た事はあるけど」
「そういえば、そうだったかな?」

 前回の四種のスピリットを一気に呼び出した時は当然ながら、モニカさんは近くにいなかった。
 キマイラ討伐の時、最初にフレイちゃんを呼び出したけど……あの時はモニカさんが近くにいても、今みたいにはっきりと人型じゃなくて、意思もほとんど感じられなかったからね。
 ツヴァイと戦った時、初めて意思の疎通ができる存在だとわかったわけで、あの時は尋問している時も含めてモニカさんはその場にいなかったっけ。

「フレイちゃんは、見た目はちょっとおっかないかもしれないけど……人懐っこい感じだし、モニカさんもすぐに気に入ると思うよ」

 燃え盛る炎が人型になっているわけで、近くで見ると熱そうとか触るのに躊躇う気持ちが出る可能性もあるけど、フレイちゃん自身は人懐っこい子供みたいな感じを受ける。
 モニカさんなら、すぐに仲良くなれそうだ。

「それじゃ、呼び出してみるよ」
「えぇ」

 そう言って、少しだけ離れるモニカさんを確認した後、フレイムスピリットフレイちゃんを召喚するためのイメージと意識の集中を始める。
 とはいっても、何度も呼び出した事があるわけで、魔力も十分だから特に深く集中する程じゃない。

「……おいでませ、フレイムスピリット……フレイちゃん!」
「毎回呼び出すための言葉が変わるのだわ……」
「おいでませ……確かどこかの方言だったの」

 今回は魔物と戦うわけじゃないから、少しおどけた感じで魔法名……というより、呼び出す際の言葉を発してみた――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。 そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。 そして予告なしに転生。 ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。 そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、 赤い鳥を仲間にし、、、 冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!? スキルが何でも料理に没頭します! 超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。 合成語多いかも 話の単位は「食」 3月18日 投稿(一食目、二食目) 3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...