1,202 / 1,903
兵士さん達に馴染んでいるワイバーン
しおりを挟むワイバーンの数が少なく、被害も出ていないとはいえ、王国のどこかでは大事にはなっていないまでも、小さな被害が出たり、冒険者への討伐依頼が出されたりもしたんだろうけどね。
全体数は少なくても、間違いなく王国の領土内にワイバーンがいるんだから。
ともあれ、そんなこんなで他の国内でよく見かける魔物とは違い、大きく悪感情を抱く人も少ないのではないかという事。
そして、俺が連れて来てシュットラウルさんが認めている事や、ワイバーン自体が穏やかで人間に敵意を向けない事から総じて、多くの人に受け入れられつつあるってわけだ。
まぁ、王都まで連れて行ったら、ここまですんなり受け入れられるかはわからない……とマルクスさんが言っていたけど。
でも想像していたよりは、受け入れられる可能性もあるようで、一安心といったところだ。
「ん? あれは……?」
「グ……GRA?」
「惜しい! ちょっと違うんだよなぁ。もう少しで、魔物らしくない鳴き声になるんだが……」
ワイバーンの報告を聞き終わった頃、ふと見てみると一体のワイバーンと一人の兵士さんが、顔を突き合わせて何やらやっていた。
兵士さんの方は、悔しがっているようだけど……?
「あれは、ワイバーンの鳴き声に怯える人もいるかかもしれない、との事で……怯えない鳴き声の練習とか。一部のワイバーンが、面白がってい参加しているみたいですね。……止めさせますか?」
「いえ……馴染んでいるようですから、止める必要はないと思います」
不思議に思っていると、報告してくれた兵士さんが教えてくれた。
ボスワイバーン以外は、泣き声って絶対に人が発声できないようなものだ。
人によっては、おぞましい鳴き声……と表現したりもする。
まぁ、魔物によってちょっとだけ違いがあったりはするけど、基本的に音を発しているというくらいしか、人には認識できない。
俺には、多少声っぽく聞こえたりするんだけど……これも、こちらの世界に来る際に言葉とか文字が読めるようにしてもらった影響なのかもしれない。
ともかく、そういった魔物っぽい鳴き声ではなく、多少なりとも動物っぽいというか……ボスワイバーンくらいには、声と認識できる鳴き声を出せるように、という事みたいだ。
見れば、他にも数体のワイバーンが近くにいて、何やら声を出そうと練習しているから、ワイバーン達も人間に馴染もうとしてくれているようだ。
仲が良さそうな場面が見られて、少し面白かった――。
ワイバーン達の様子を見た後は、宿に戻ってボスワイバーン達とカイツさんの様子見。
こちらは、ワイバーンの持つ魔力などを調べ始めたようで、見た目に派手な研究や周囲に迷惑がかかるような事はなかった。
ただ、何かに目覚めたワイバーンが、カイツさんに皮を剥ぐのをおねだりするようになったらしく、俺が注意したから最初と比べて加減はしているけど、少量ながらワイバーンの素材が増え続けたりもしている。
ボスワイバーンは、さすがにそんな趣味はないようで距離を取って見守るだけのようだけども。
カイツさん達の様子見が終われば、戻ってきたモニカさん達と夕食。
その日の活動報告みたいな事を聞きながら、食事をして、その後はお風呂に入って寝るだけだ。
ほんと、ここ数日はのんびりと過ごさせてもらっているよね……今も街の外壁の外側で、戦闘が行われているなんて考えられないくらいに。
ちなみにだけど、戦闘に関しては視界が悪くなる夜間に行われる戦闘は散発的で、とりあえず魔物が押し寄せないように食い止めるのが主体になっている。
人間は休まないといけないし、視界が悪くて夜は不注意で怪我をする事が増えるからね。
これも、こちら側に余裕ができたからできる事だけども……俺が戻って来る前は、昼夜問わず疲れ知らずの魔物が押し寄せていて、日に日に兵士さん達の疲れが溜まっていっていたらしい。
「さて、そろそろ寝ようか」
「だわ。お風呂に入って綺麗になったし、乾かしてもらったのだわ~」
「ほんと、エルサはお風呂好きだよなぁ。いい事だけど」
お風呂に入った後は、エルサの毛をドライヤーもどきで乾かしてモフモフを保ち、寝るだけ。
俺もお風呂は好きな方だけど、エルサは俺以上で食べ物要求程じゃないけど、お風呂を忘れかけると頭をペシペシ叩かれるくらいだ。
「お風呂は命の洗濯なのだわ。命の糧を得る食事や、命の休息のための睡眠と同様、最重要なのだわ」
「いやまぁ、確かにそんな言葉もあるけどね……」
人間の三大欲求のうち、二つと同等なのかお風呂……。
命の洗濯と言う言葉はまた俺の記憶からだろうけど、食事や睡眠にアレンジを加えたな。
中々エルサも考えているじゃないか……。
なんて、どうでもいい事を考えながらベッドに乗った時、ふとエルサの動きが止まった。
「……リク、だわ」
「ん、どうしたんだ?」
先程までのお風呂上がりで上機嫌な声音と違って、真剣な雰囲気で俺を呼ぶエルサ。
急にどうしたんだろう?
「気を付けるのだわ。ここ数日、のんびり過ごせて何も起こらないようだけど……なんだか、嫌な予感がするのだわ」
「嫌な予感か……エルサがそう感じるなら、気を付けておかないとね」
魔物はじきに討伐され、センテも以前の日常に戻って行くんだろう。
けど、まだ気持ち悪い気配の謎が解けていないし、ロジーナの言っていた事も気がかりだ。
ユノと同じくらい強くて、魔物を相手にしても簡単に蹴散らせる程なのに、ロジーナ自身が危ないと言っていたくらいだからね。
そもそも、これまでずっと暢気に構えていたエルサが、嫌な予感を感じるというのは相当だ……とんでもない事が待ち受けている、とかじゃなければいいけど。
「本当に気を付けるのだわ? リクは、いまいち危機感が足りないのだわ」
「それは……そんな事を言いながら、ベッドをゴロゴロしているエルサには言われたくないかなぁ?」
「ベッド気持ちいいのだわ~」
嫌な予感とか俺に注意を促しておきながら、エルサはすぐにベッドでゴロゴロと転がって遊び始めた。
ベッドが気持ちいいのは同意するけど、真面目な事を言った直後にそんな暢気な姿を見せられたら、俺の危機感が薄れてしまうのも仕方ないと思う。
あまり深刻にならないようにって、エルサの気遣いかもしれないけど……。
「だわ、だわ、弾むのだわ~。面白いのだわ~」
うん、気遣いというのは俺の勘違いだね。
ベッドを転がったり、途中で跳ねてボヨンボヨンしたり……子供みたいにはしゃいで遊んでいる。
「はぁ……あんまりはしゃいでないで、そろそろ寝るぞ? ほーら、モフモフっと!」
「だわ!? 捕まったのだわ! 仕方ないのだわ、寝るのだわ~……リクは、そろそろ私離れをしてもいいのだわ?」
「エルサ離れなんてとんでもない。俺はこうしているのが一番、よく寝られるんだよ」
溜め息を吐いて、跳ねまわっているエルサを捕まえて一緒に毛布に包まる。
もちろん、エルサのモフモフを撫でて堪能するのは忘れない――。
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~
平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。
しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。
カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。
一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる