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陽気な怪我人と気配の薄さ
しおりを挟む東側の怪我人収容所の人達が、怪我をしていても明るいのは……まだ続いている戦闘の状況をよく知っていて、なんとか凌ぐだけだった以前とは違って押し返しているからだろうか?
ここにいる人達もそうだけど、東門の状況がいち早く報せられる事も影響しているっぽいけど。
あと、王軍ももうすぐ来る事なども含めて、こちらが優勢になってもう覆らないだろうとわかっているからかもしれない。
「はいはーい、それじゃ治療しますよー」
「お、お願いしますリク様!」
「次はこっちでお願いします」
「お前はもうほとんど治りかけだろうが。次はこっちだ!」
「いやぁ~リク様の魔法は凄いですねぇ~。なんとなく気持ち良くなって癖になるくらいでした~」
「いや、俺の魔法にそんな効果はないと思うんですけど……ただ怪我を治すというか、その人が持っている治癒能力を増幅させるだけですし……」
兵士さん達の軽口に俺も混ざりながら、何やら治癒魔法を怪しい効果のある魔法と誤解されかねない事を言う女性兵士をたしなめつつ、治療に精を出す。
その中で気になったのは、怪我の治療に対してや魔物と戦った事を感謝されたりもしたんだけど、俺がいたからとか、俺がいれば大丈夫……みたいに言う人が少なかった事だ。
気になったというより、街の人達と少し違う考えをしているんだな、と思った。
もしかすると、これがシュットラウルさんの言っていた、俺に頼りきりにならず自分達でなんとかしようとする心構え、みたいなものの結果なのだろうか?
だとしたら、最後まで俺が魔物を倒し切るようにしなくて、本当に良かったのかもしれないね。
頼られるのは嫌いじゃないけど、俺だってなんでもできるわけじゃないし、なんでもかんでもお願いされるようになるのは困るから……。
そんなこんなで、おおよそ怪我人の治療をしているとは思えない程、和やかな雰囲気で収容所にいる人達の治療が終わった。
エルサが騒ぎそうだったので昼食を頂きつつ、治療を終えた頃には、すっかり日が落ちて暗くなっている。
怪我そのものは大した事がなくても、数が多いから結構時間がかかってしまった……魔法は個別にかける必要があるからね。
もう少し、治癒魔法を使う人を減らそうかとも思ったけど……戦線復帰する事で、今も戦っている人達の援護になると考えたら、つい治療の手を緩められなかった。
不公平にもなるから、大勢の人がいる中で魔法をかける人とかけない人で差を付けるのが、いやだったのもあるかな。
まぁ、一部の陽気な兵士さん達の様子を見るに、不満を漏らすような人はいなさそうだけども。
……怪我が治った事で、遅くとも明日にはまた戦闘に参加しなきゃいけない……と、暗い表情をしていた人もいるにはいたけど、頑張って欲しい。
「おかしい、おかしいのだわ……」
治療を終えたテントから出て、全ての治療が終わった事を確認してから収容所を離れてすぐ、エルサがしきりに首を傾げているような動きをしつつ、ブツブツと呟いている。
見えないけど、なんとなくくっ付かれている頭から感じる動きで、首を傾げているってわかるんだけど。
「何がおかしいんだ、エルサ?」
「……さっきの場所、他の所よりもむしろ気配が薄く感じたのだわ。おかしいのだわ」
「それって、他の収容所とかと比べてって事だよね?」
「そうなのだわ。いやむしろだわ、街全体を覆っているような気配のどこよりも、薄く感じたのだわ」
「怪我人収容所どころか、街全体でかぁ……」
宿への道を歩きつつ、ブツブツと言っているエルサに聞いてみると、東側の収容所では気持ち悪い気配というのが薄く感じられていたらしい。
しかも、街全体と比べてって事は、かなり希薄な気配になっていたんだと思われる。
「もしかして、だから俺が治療する時、怪我人をジッと見ていたりしたの?」
「そうなのだわ。何か、あそこにいた人間に理由があるんじゃないかと、探っていたのだわ」
結構、エルサにじっくり観察されて、居心地悪そうにしていた人がいたからなぁ……俺が考えていた理由とは別の理由があったのには驚きだけど。
「それで、何かわかったの?」
「まったくわからなかったのだわ。他の怪我人がいた場所より、笑っている人間が多かったくらいなのだわ」
「……んー、もしかしてだけど……気配が薄い理由ってそれなんじゃないかな?」
「だわ? 笑っている、のが理由なのだわ?」
「ふと思っただけなんだけどね……」
不思議そうに俺へと聞いて来るエルサに、思った事を伝える。
これまで、気持ち悪い気配が濃い場所は酷い怪我人が多く、苦しんでいる人が多かった。
さっき東側で治療した人達のように、軽口を言ったり笑ったりするなんて絶対なかったくらいに。
エルサの感じている気配が、魔力ではないのでなく街全体を覆っていると考えて、もしかしたら 人の感情が関係しているのかな? と思ったわけだ。
ユノもよくない気配や雰囲気と言っていたし、収容所では確かにそういった暗くて重い雰囲気が漂っていたから。
そして東側だけは、戦闘状況や怪我が軽傷なのもあって、笑っている人や冗談を言う人など、総じて明るい雰囲気だった。
それこそ、魔物に囲まれる前のセンテですらあまり感じられなかったくらい、朗らかというか和やかというか……。
思い悩んで重い空気や雰囲気と言ったり、明るく笑って雰囲気や空気が軽くなる……という事だってあるわけで。
だったら、気持ちの悪い気配が薄まったり濃くなったり、という事があってもおかしくないんじゃないかな?
なんて、人の感情が街を覆ってユノやエルサに良くないと思わせるようなものになるか、なんてわからないんだけど。
「つまり、リクは人間の感情が街を覆っている、と考えているだわ?」
「一つの案というか、考え方ってだけだよ。魔力じゃなくて、目に見えない何か……と考えたらもしかして? ってね。ほら、寂れていたり問題を抱えていたりする村や街を、重苦しい雰囲気や空気が覆っている、なんて言ったりするでしょ?」
「それは……比喩的表現? なのだわ。けど、あながち外れてもいない気もするのだわ……」
人の感情が本当に街を覆う程になるのかはわからないけど、そういう事だってあると思う。
空気の悪い場所や、反対に凄く明るくて人々が生き生きしている場所に行くと、なんとなく気配というか雰囲気を感じられたりするからね。
それが多くの人には感じられず、エルサやユノくらいしかわからない程度に薄く、街を覆っているのかもしれないし。
まぁ、想像というかちょっと思いついただけの理屈なんだけども。
「まぁ、本当に人の感情が影響を与えているのかはわからないけど……今日行った東側の怪我人収容所では、気配が薄かったというのは間違いないみたいだね」
俺はエルサやユノ程はっきり感じられないけど、それでもなんとなく他の場所とは違う感覚があったような気がする。
気がするってだけで、すっごく曖昧だけども。
もう少し、俺にもわかるような感覚があればいいんだけどなぁ――。
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