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東の収容所の雰囲気は明るい

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「とにかく、行ってみるのだわ」
「そうだね。えーっと……あ、すみませーん!」
「はい、怪我人の受け入れでしょ……リク様!?」

 エルサの言葉に従って、密集するテント群に近付きながら受付みたいになっている場所で、座っていた男性に声を掛ける。
 俺を見て驚いた声を出す男性に苦笑しながら、同じ場所で他の作業をしていた人達からも、驚きの視線を向けられている事を意識しながら、怪我人の治療をしに来た事を告げる。
 この受付は中央は緊急性が高いからなかったけど、西側にはあった怪我人を受け入れてもらうための場所だ。

 酷い怪我で緊急のものはスルーできるけど、一応この受付を通してどこのテントに収容されるかなどが決めら、全体の管理も担っていたりもする。
 各テントの空き状況や、怪我の程度を見て割り振ったりもしているみたいなので、まずはここに話を通さないとね。

「こちらです……」
「……本当に、数は多くても怪我の程度は低いんですね」

 受付で案内してくれる人が折れについてくれて、通された場所。
 一番怪我の度合いが酷く、数も多いテントらしいけど……中に入って全体を見通した限りでは、目を覆いたくなるような怪我をしている人はいなかった。
 ほとんどの人が、手当てをしてい暮れている人と話したり、体を起こしている状態だ。
 数は中央や西よりも多くて、結構密集しているようだったけど。

「はい。手の施しようがない方は中央に運ばれます。命にかかわらない、ですが重傷という方も運ばれるのですが……この数日程度、あまり酷い怪我をするような方は出ていないようです」

 案内の男性が言うには、最近は重傷者自体が少ないらしい。
 時期的考えると、俺が戻ってきた事や、クォンツァイタで魔法がほぼ使い放題になってからかな?
 そう思って聞いてみると……。

「そうですね、そのくらいかと存じます。あと……ここに運び込まれた方にお聞きしたのですが、侯爵様が先陣を切って魔物の大群に突撃したのだとか。おかげで、魔物達の攻勢が緩まったとも聞いております」
「あはは……」

 シュットラウルさんが魔法鎧を着て、魔物に突撃したおかげで、重傷者が減るといういい影響もあったのか。
 まぁ、ワイバーンを連れて俺も乱入したし、それ以前にちょっとやり過ぎたけど、俺が魔法を使って食い止めたのも何かしらの影響があったのかもね。
 それだけ、苦しむ人が減って良かったと思うし、今は優位に戦闘を進められているという事だろう。


「ここは、あまり臭くないのだわ。……臭いのには変わりないけどだわ」
「確かにね。まぁ、酷い怪我をしている人が少ないからじゃないかな?」

 案内の男性との話を終え、軽傷者の治療に当たりつつちょっとした間でエルサが呟いた。
 他の場所と比べて、様々な薬品の混じった臭いがあまり感じられないからだろう。
 とはいっても、消毒薬のような……日本でも病院で感じられる臭いはそれなりに感じるし、何より汗臭い。
 まぁ、戦闘して怪我をした人達が運ばれ、密集している状況だからそれくらいは仕方ないんだけど。

 ちなみに軽傷と言っても、ちょっと擦りむいた程度の傷ではなく、魔物の牙が深く刺さっている人や、脱臼や打撲でそれなりに痛みを感じる怪我をしている人が多い。 
 すぐさま命に影響があるわけじゃないけど、戦闘に支障が出るような怪我だね。

「ありがとうございます、リク様……!」
「いえいえ」

 足を強打されて骨にひびが入っているのか、詳しくはわからないけど、腫れている部分の治療を終えてお礼を言われる。
 これくらいなら、俺が治癒魔法を使わなくても治るんだろうけど……早く元気に動けるようになってくれればという思いと共に、お礼を言う男性に手を振って気にしないでと伝えた。

「……あの、リク様。ものすごく見られているんですけど……」
「あはは……気にしないで下さい。それじゃ、行きますよ?」
「あ、はい! よろしくお願いします!」

 治療を始めて数人目、腕や足などに多数の傷を負った女性に治癒魔法を使う準備をする。
 その際、俺の頭にくっ付いているエルサが、ジーッとその女性を見つめていたようで、見られている女性が戸惑っていた。
 とりあえず、気にしないように伝えて治癒魔法を発動させ、怪我の治療。
 多分エルサは、気持ち悪い気配を探るため、少しでも情報を得ようとして怪我人をじっくり観察しているんだろう。

 周辺の気配を探りつつも怪我人を観察しているのは、これまで収容所での気配が濃かったために、怪我人に何か原因がないかを探っているからだろうと思われる。
 ただ、怪我人が多くても軽症の人が多いので、他の収容所よりここの雰囲気が少し明るめだから、気配の方が濃いのか調べて結果が出るのかはわからないけど。

「怪我が治ったら、また戦いに行かなくちゃなぁ」
「何を言っているのよ、それが仕事でしょ!」
「ま、せっかくリク様にこうして治してもらったんだから、きっちり働かなとな!」

 なんて、俺が治療した人もまだの人も、こうして軽口を叩くくらいはできているから。

「あまり無理はしないで下さいねー」 

 なんて言いつつ、苦笑して他の怪我人を治療したり、俺も他の収容所よりは気が楽だ。
 西側や、中央は暗い雰囲気だったからなぁ……特に中央。
 まぁ、怪我の程度を見る限りでは仕方ないし、苦しんでいる人が多くて必死に手当てしている人もいるんだから、明るい雰囲気だとかは関係ないんだろうけど。

「ま、魔物達ももうすぐいなくなるだろうからな」
「そうだな。リク様の協力もあるが、皆で協力した結果だ」
「被害がないわけじゃないけど、街の人達の犠牲が少ないのは、今回一番誇るべきよね!」
「俺の活躍があってこそだな!」
「何を言っているんだ、お前なんて、魔物の前で緊張して転んだ挙句に、魔物に群がられていただけだろうに」
「そ、それがあったから、魔物の注意が引けて他の奴らが存分に戦えたんだろうが!」
「あはははは! その程度で全体に影響が出るようなら、もっと簡単に戦いは終わっていたわよ! ってて……」
「ほら、あまり無理するな。怪我人なのは変わりないんだから、もう少しおとなしくしていろ」
「そうだそうだ、傷跡が残っても知らないぞー!」
「いいもん、私この戦いが終わったら結婚するって決まっているんだもん。傷跡くらいされないもん!」
「もんもん言いながら、魔物に剣を振り回しながら突っ込む女を好む、奇特な男もいるのだな」
「うるさいうるさい! っ~!」
「はいはい、傷跡が残っても大丈夫なのはわかったから、痛いなら無理しない!」

 なんて、同じテント内で怪我をしているはずの兵士さん達が、それぞれ話している。
 手当てしている人達も、痛みに顔をしかめつつも軽口を言い合っている人達の様子を見て、苦笑していた。
 ただ、何かのフラグが立ってしまいそうなので、女性兵士さんはもう少しおとなしくしておいた方がいい気がするけどね。
 それにしても、この東側の雰囲気の良さはいくら軽傷の人が多いからといっても、冗談めいた事を言えるくらい明るいのは驚きだ――。


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