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気配は魔力ではない模様
しおりを挟む「昨日の怪我人がいた場所と、今日の場所。やっぱり他の所より気持ちの悪い気配が、濃いような気がするのだわ」
「気持ちの悪い気配……昨日も言っていたけど……さっきの場所もなの?」
「臭いに紛れて、わかりづらかったのだわ。けど確かに濃いのだわ。多分、昨日の場所が一番濃いと思うのだけどだわ」
「うーん……怪我をした人達のいる場所と、気持ちの悪い気配の濃さかぁ」
どういう関係性があるんだろうか?
臭い……は、紛れてと言っているから、違うのだと思う。
怪我というか、血が流れているかどうかとか? あと毒とか……いや、それならセンテ全体でというのも、おかしな話だ。
怪我人や毒に侵された人達が、街中に散らばっているわけでもないから。
「リク、明日は残りの場所も行くのだわ?」
「うん。他にする事もないし……それに東側はまだ魔物と戦っているからね、絶えず怪我人が運び込まれているだろうし」
人数、と言う意味では多分一番東側が多いと思う。
最後にしたのは、西側に余裕を持たせて人手を東の収容所に回して欲しかったからだ。
俺が先に東側の治療をしても、戦闘が終わらなければ怪我人はまだまだ運ばれてくるわけで……それなら、先に人手に少しでも余裕が出ればってわけだね。
「それじゃあ、明日はもう少し注意深く気配を探ってみるのだわ。他の二か所は濃かったのに、最後の一か所だけ濃くない、という事はないはずなのだわ」
「……確かにそうだね。わかった。それじゃ明日、じっくり探ってみよう」
俺は微かに感じるというくらいだから、ほとんどエルサ任せになってしまうと思うけど。
それでも、注意をしておくに越した事はない。
予定もないので、明日は朝食後からすぐ東側の収容所に行く事を決めた。
「ただでさえ気持ち悪いのにだわ、正体がわからないとさらに気持ち悪いのだわ!」
俺の頭にくっ付いたまま、プンスカしているエルサ。
理由のわからない気配を、それも気持ち悪いと言っているないかを、場所によって濃さの違いがありつつずっと感じているというのは、エルサにとってすごいストレスになっているのかもしれないな。
「でも、食事だけはちゃんとするのだわ。キューを求むなのだわ!」
「はいはい、それはわかっていますよーっと」
相変わらずの食いしん坊ドラゴン……まぁ、頑張ってくれているし、エルサがキューで満足するのなら安上がりだ。
緊張感があるのかないのかわからない、のんびりした話をしながら、宿へと戻った――。
翌日、朝食後に早速東側の怪我人収容所へ向かう。
「ソフィー達は、特に気になる事はないって言っていたね?」
「だわ。でも、ユノは気配を感じているようだったのだわ」
道中、頭にくっ付いているエルサに話し掛ける。
昨日の遅くに、宿に戻ってきたソフィー達。
王軍も割り振られる事になったので、人手に余裕ができて南門付近は一応の目途がついたから、宿に戻るようにしたらしい。
……とはいっても、まだ王軍の本隊は到着していないので、あくまで目途が立ったというだけなんだけども。
そのソフィー達にも、エルサが気にしている気持ち悪い気配について聞いてみたけど、特に何も感じていない様子だった。
ただ、ユノだけは難しい顔をして考え込んでいたようだし、エルサ同様に気配を感じているようだ。
エルサのように気持ち悪いとは言わなかったけど、あまりよくない気配とか雰囲気とか、そういう何かがセンテを中心に周辺に広がって覆われている状態、と言っていた。
よくない何かが、形になろうとしているとも。
「……魔力溜まりの事、じゃないよね? 見える形じゃないけど、何かになるって意味なら……」
「断言できないけど、多分違うのだわ。魔力溜まりだと街の南側なのだわ。街を中心にって事はないのだわ」
「だよねぇ……」
はっきりしないのだから、絶対違うとは断言できないけど……ユノの言った事やエルサの感じている事、俺も微かに感じる気配はセンテ全体を覆っている。
魔力溜まりだったら、南側に集中しているはずだし街を覆う程までにはなっていないはず。
一応、魔力溜まりを発生させないような対処もしているはずだし……。
「薄まるような事はなく、むしろ濃くなっているのだわ。少しずつ……でも確実に、だわ」
「クォンツァイタを使って、魔力溜まり発生の対処をしているから、それだったらむしろ薄まらないとおかしいよね」
薄まるどころか、濃くなっていく気配。
一体どういう事なんだろう……気配をはっきり認識しているのは、俺とエルサとユノだけ。
他の人達は、俺達が聞いてもわからない様子だった。
「あ、そういえば。フィリーナも特に何も気付いていない様子だったね」
魔力溜まりが発生する可能性を指摘していたフィリーナは、魔力を見る目を持っている。
なのに何もわからないし、感じていない……見えてもいないって事は。
「魔力とは違う何か、という事なのだわ」
フィリーナが見えるのは魔力に関係するものだけ。
だから、それを感知や見る事できないのであれば、魔力ではないのは確実。
もしかしたら、もっと濃くなるにつれてとか、まだフィリーナの目ですら見えないくらい薄いから、という可能性もあるけど……。
「探知魔法を使っても、特に何もないんだよね」
自分の魔力を広げて、ソナーのようにして周辺を探る探知魔法。
街を覆っているのだから、空に向かって使っても何も引っかかる反応はない。
フィリーナの目、俺の探知魔法で調べて何もないのなら、魔力関係ではないのは確実っぽいね。
「まぁ……考えててもわからないか。とにかく、東側の怪我人収容所に行ってみよう。頼んだよ、エルサ?」
「気持ちの悪い気配が濃くて、あまり気が進まないのだわ。けど、調べてみるのだわ! これもキューのためなのだわ!」
結局、まだはっきりした事がわからないため、話を打ち切ってエルサに任せる事にする。
俺は怪我人の治療があるから、注意深く探るのはあまりできそうにないからね。
これまで、気配が濃かった中央と西側の時には漠然と感じていたけど、今回のエルサはちゃんと調べてくれるはずだ……やっぱり、なんとなく嫌な気配がするだけよりも、注意して感じていた方が得られるものはあるだろう。
そのために、使用人さんに頼んで食糧に影響が出ない程度で、多くのキューを用意してもらったし。
キューがもらえるとあって、やる気が漲るエルサ……歩いている最中どころか、話している最中にも視線が俺の鞄に向かっているような気がするのは……気のせいじゃなさそうだ。
ちゃんと、おやつにキューを出すつもりだし、成果が出たらたらふく食べさせてやらないとな。
そんな事を考えながら、足早に東の怪我人収容所へと向かった。
「うーん?」
「どうしたのだわ?」
「いや、数が多いなって……」
東の怪我人収容所に到着。
他の場所と同様に、広い場所に複数のテントを設置して怪我人の手当てをしているのは変わらない。
けど、そのテントの数が中央や西と比べても倍近くあって、かなり密集している。
そりゃ、今も戦闘している東門の近くで、今も俺の横を通り過ぎて怪我人が運び込まれているから、数が多いのはわかるけど……。
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