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作戦会議終了
しおりを挟む南側での片付けが遅れている要因の一つとして、俺というかスピリット達から漏れた魔物達がいるというのもある。
空からワイバーンに乗って見ているとはいっても、突然襲われたら危険なので、警戒しながらになってしまうからね。
その警戒が、少しでも薄れさせる事ができればとか、危険を少なくできないかと考えたんだ。
「大々的には侯爵軍を活躍させ、しかし被害を減らし戦いやすくする策だな。その後の事も考えるといい案だと思う。王軍の兵士達の考え次第ではあるが……」
「王軍の兵士達……特に今回連れてきた者達には、確実に勝利するより優先される考えを持つ者はいません。それに、リク様の提案となればむしろ喜びそうなくらいで。あ、これはリク様に頼るとかではなく、王城でリク様方との訓練を行っていたからなのです」
シュットラウルさんもマルクスさんも、俺の提案には賛成の様子。
本来格上と見なされるらしい、王軍が囮のような役目をこなす事に、シュットラウルさんは心配な様子だったけど、それもマルクスさんに否定される。
なんでも、俺やモニカさん達が、エアラハールさんと訓練しつつもヴェンツェルさんや兵士さん達とも、訓練をしていた事で、何かしら成果を見せたいと考えている人が多いのだとか。
これは次善の一手をユノが教えた事も影響しているらしい……曰く、ちょっと実戦で試すには、こちらが優位なのはちょうどいいとの事だ。
「それじゃあ、俺の案は採用……ですかね?」
「そうだな」
「はい、全軍がセンテに到着した後、配置させます」
思いつきだったんだけど、すんなり採用されたようで、シュットラウルさんもマルクスさんも、頷いてくれる。
その後は、具体的にセンテ周辺の魔物と戦う兵士だけでなく、街中で他の手伝いをする兵士をどれくらいの比率で別けるかを話し合う……大体半々くらいなった。
兵士とは別に、荷駄隊……ヴェンツェルさんがツヴァイのいた地下施設に乗り込む時は、移動を重視するためほとんどいなかったんだけど、行軍とあれば食料などの物資を運ぶ荷駄隊が今回は帯同しているらしい。
まぁ、大量の兵士さん達が動くのだから、それ専用の部隊というのも必要だよね。
今回はセンテに来る事が目標で、ある程度の不足している物資も運ぶ必要があったので、荷駄隊もかなりの数らしいけど。
ともあれ、それらの人達は正規の兵士さん達だけでなく、訓練されていない人達もいるので、こちらは到着後に人での補充に当てられる。
もちろん、魔物との戦闘には参加させられないからだ。
人員にかなり余裕ができるので、シュットラウルさんはすごく喜んでいた……もう少し、センテの外周で戦う兵士さんを増やしても良かったのかもしれない。
でも、そちらが増え過ぎても侯爵軍の人達より目立ってしまうので、それはそれで都合が悪いか。
とにもかくにも、挨拶だけのつもりだったのが作戦会議にまで混じって、色々と話し合う事になっていた。
そんな中、マルクスさんから俺とシュットラウルさんへの疑問が投げられる。
「そういえば、先程からワイバーンに関しての話がよく出ていますが……ワイバーンからも攻撃を受けているのでしょうか?」
「あぁ、それはだな……」
「ワイバーンがいる事は確かなんですけど……」
マルクスさんに、引き入れたワイバーンの事を伝え忘れていたので、それも説明しておく。
俺が引きつれてセンテに入り、おとなしくしていると聞いて、最初は驚いていたマルクスさんだけど「リク様がなさる事ですから、納得です」と、ちょっとだけ頬を引きつらせて言っていた。
なんで俺がやる事だからと、すぐ納得するのかは疑問だけど……ともかく、無理矢理にでも納得してくれているんだと思っておく事にする。
のちに到着する部隊には、先に伝令を差し向けてワイバーンに関する事を伝え、攻撃をしないよう通達すると約束してくれた。
あと、東南のワイバーンの素材の話もしていたので、さらに強固な部隊を作れる……とも言っていたね。
職人が足りないから、質の良い物を行き渡らせるのは難しいかもしれないとも。
多少質が悪くても、そこらの鎧とは比べ物にならない鎧らしい。
ワイバーンの皮を扱える職人かぁ……一人くらいでどれだけ改善するかわからないけど、ゲオルグさん……もとい、ララさんに頼んでみるのもいいかもしれない。
あの人、今の本業の鞄屋にはあまりお客さんがいないようだし、頼まれて時折鍛冶の方もやっているみたいだから。
ララさんからすれば余計なお世話かもしれないけど……王都に戻ったら頼むだけ頼んでみよう。
そんな事を考えているうちに、作戦会議は終了。
まだ話し合うつもりのシュットラウルさん達を残し、俺は庁舎を出て昼食へ。
エルサの腹時計が騒ぎ出したからね……お昼になるまで話していたって、結構長い事話し合っていたようだ。
「よし、お腹がいっぱいになった後は……怪我人の治療だ!」
「リクも良くやるのだわー。まぁ、私はリクの頭にくっ付いて寝ているだけだから、いいのだわ。ちょっと臭いけどだわ……」
「まぁ、臭いはね……仕方ないよ」
昼食後は、昨日行かなかった方の怪我人収容所……今日は西側に行こうと決めて、移動を開始する。
エルサの言うように、収容所は臭い。
薬品の臭いや戦闘をした人達の臭い、さらに魔物の血や人の血などなど、様々なものが混じったような臭いが充満していたからね。
中央の収容所が、一番怪我の酷い人が多くて過酷な環境だったのもあるのかもしれないけど……臭いなんて気にして構っていられるような状況じゃなかったからね。
西の収容所は怪我人も多くないみたいだし、少しくらいはマシだといいなぁ。
「ふぅ! こっちは軽傷の人が多かったから、気分的にも楽だったよ」
暗くなった空を見上げて、大きく息を吐く。
西側の収容所、昨日の中央と同じくテントが広い場所に複数集まっている所へ行き、治癒魔法での治療を終えて出てきたばかりだ。
こちらは、冒険者が大半である程度自分達で怪我の対処ができる人が多かったのか、放っておいて危険な怪我人はいなかった。
手の施しようがないような怪我人や、誰が見ても重傷な人は中央に運ばれるからってのもあるんだろうけど。
あと、冒険者さん達は魔物との戦いが日常なのもあってか、毒に対する薬を自分で持っている事が多かったらしい。
そのため、西側の収容所では毒に侵されているような人がいなくて、治療も捗った。
兵士さん達にも、ある程度毒に対する心得とかはあるんだろうけど、薬を常備したり自分で持ち歩く週間まではないからね。
「……」
「エルサ?」
夕食のため宿へ向かっている途中、エルサが妙に静かなのが気になった。
寝ているわけではないようだし……。
「やっぱり、妙なのだわ」
「妙? 一体何が?」
俺の声が聞こえたからか、ぽつりと呟くエルサ。
夕食間近だから、そろそろ腹時計に従って食べ物を求めて騒ぎ出すと思っていたのに。
呟く声音からは、真剣な雰囲気が紛れていたように思う。
どうしたんだろうか?
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