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準備は進んでいる模様

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「それにしても……」
「リク様は、やはりこの鎧が気になるようですね」

 マルクスさんの昇進をひとしきり喜んだ後、俺がジロジロと見ていたせいか、苦笑したマルクスさんが自分の身に着けている鎧を見下ろす。
 綺麗な青色の鎧は、マルクスさんに似合っていて勇壮さを醸し出している。
 けどワイバーンの鎧って、俺が姉さんに言った事のもあって新兵さんを優先して支給されるんじゃなかったっけ?
 ツヴァイの地下施設に行った時も、ヴェンツェルさんやマルクスさんだけでなく、新兵さん以外は身に着けていなかったはずだ。

「王都では、リク殿の持ち帰った素材によってこの鎧が、広くもたらされていると聞いているが……マルクス大隊長が身に付けていておかしなことでもあるのか?」
「あ、いえ……確かにマルクスさんの鎧、ワイバーン素材を使った鎧はそれなりに作られているようですけど、本来は新兵さん優先だったはずなんです」
「はい。その事なのですが……」

 首を傾げるシュットラウルさんに、説明する俺をフォローするようにマルクスさんから、ワイバーンの鎧についての話が入った。
 なんでも、戦争に対する備えとして市場に出回っているワイバーンの素材を、国が買い取りさらに鎧の数を増やしたのだそうだ。
 多分、俺が持ち帰って冒険者ギルドに納入した物だろうとの事。
 姉さんや軍事費用関連の担当者は、連日「予算が……」と顔色悪く呟く癖がついてしまったらしいけど。

 ともあれ、そうして増やしたワイバーンの鎧……新兵さんにはほぼ行き渡っているのもあって、今度は逆に隊長格を優先に支給されたのだそうだ。
 隊長格は部隊を持って指揮する立場にあるため、優先的に守られるべきだという考えだね。
 指揮する隊長が行動不能……最悪死んでしまったら、部隊全てが危険に晒されてしまうためだろう。
 優先される支給先はヴェンツェルさんを始め、戦闘部隊の大隊長から中隊長と小隊長。

 基本的には前線に出ない役割でありながらも、ハーロルトさんを始めとした情報部隊の隊長格にも。
 まぁ、まだ生産が追い付いていなくて、全てに行き渡っているわけではないらしいけど……ハーロルトさんと一部の情報部隊員は、王都を離れているみたいだし。
 多分帝国への諜報活動だろう。

「そういう事だったんですか……」

 王都を離れている間に、色々と動いているようだね。
 まぁ、隔離されてこちら側で流れていた日数も考えると、約一カ月以上だからそれも当然か。

「リク様、陛下とヴェンツェル様が大層ご心配されておりました。リク様がおられるのに、センテが魔物に囲まれ、王都に援軍の要請をするのは、間違いなく何かがあったのだと……」

 ワイバーンの鎧に関する話を終え、続いて姉さんやヴェンツェルさん達の話。
 これまで、俺が大規模な戦闘に参加すると一日や二日で終わって、援軍を出すようにはならなかったから、余計に心配をかけてしまっていたんだろう。
 俺がセンテに来ているのは当然知っているし、俺なら魔物に囲まれた状態で、何もしないなんて事ないとも考えていた、とマルクスさんから言われた。

「本当なら、最初から戦闘に参加してさっさと魔物を倒したかったんですけど……」

 シュットラウルさんにも、まだはっきりと俺がしばらくいなくなっていた理由を話していなかったので、ついでと思って大まかに説明。
 破壊神云々はとりあえず話さず、帝国に関係する存在によってセンテには戻るに戻れない状況になっていたってくらいだ。
 我ながら、これで納得してくれるかは疑問だけど……。

「成る程、そういう事情でしたか」
「リク殿を長くとどめておくとは……こちらの要である事を熟知しているようだな」

 二人共深々と頷き、あっさり納得してくれた。
 嘘は言っていないし、信頼してくれているからなんだろうけど……さすがにびっくりだ。
 その後、マルクスさんを交えて残っているセンテ東門付近の魔物達掃討作戦の話になる。

「王都ではリク様で解決できない、魔物達。かなりの警戒をしておりました。状況を聞くに問題はないようですが、もし何かあればと、王城ではヴェンツェル様が後続部隊を派遣する用意を整えていました」
「うぅむ……やはり王都が出せる兵士数は、いち貴族領の兵士とは違うな……」

 マルクスさんが援軍として連れてきた部隊は、約千人……それが二日後くらいに到着するみたいだ。
 隊長格に支給されたワイバーンの鎧を持っている部隊を優先し選抜しての人数らしい。
 それでも、さらに倍以上の数をもしものためにヴェンツェルさんが送れるよう、整えているのだとか。
 まぁ、大きな問題はなさそうなので出撃は控えるよう、マルクスさんから連絡が行く手筈になったけど。

 腕を組んで唸るシュットラウルさんによると、侯爵領の兵士をかき集めれば総勢で二千以上は軽く超えるらしいけど、援軍としてそれ以上の兵士を出せる準備ができる王都は、やはり格上だとの事だ。
 国の中心だから兵士の数やら何やらが多いのは、当然の事なのかもしれないけど。

「つまり、リク殿には直接支援を求めないという事で?」
「うむ。民の事を慮る立場の私としては、愚策とも言えるかもしれぬがな……」

 周辺の魔物残党も含めて、殲滅作戦をとなった時に俺の動きに関しての話になった。
 シュットラウルさんとは話していたように、俺は前線で魔物と戦うような役割はなく、あくまで兵士や冒険者、センテと王都からの援軍で協力して、魔物を退けるようにしたいらしい。
 ……昨日、中央の怪我人収容所に向かう時、声を掛けられた街の人達の様子から、今ではシュットラウルさんの考えている事がよくわかる。

「おそらく、シュットラウル様が仰っている事は、王城でも危惧されている事かと」
「王城でも? という事は陛下が?」
「はい。今アテトリア王国では、全体で帝国との戦争に備える動きになっていますが……一部の動きが鈍いのです。曰く、英雄のリク様がいれば何も問題はないだろうと……」
「楽観視しているわけだな……」
「えぇ。リク様に頼れば問題ない。リク様がいて下されば、負ける事はないと。そう考えている者が大勢を占めています。王城では陛下を始めとした方々が、檄を飛ばしておられるため影響は少ないのですが……城下町の者達、つまり民の間でも楽観視している様子が見られる模様です」
「それは……あまり良いとは言えない状況だな」

 つまり、戦争に備えて頑張って準備しているけど、一部の人は俺さえいれば入念な備えは必要ない……と考えているってところかな?
 これが要は、シュットラウルさんが言っていた俺に頼り切りになる、という事なのか。

「王都はそれでもやはり陛下の直下なので、ある程度は制御できるのですが……他の地域、それこそ帝国との国境に近い貴族領でも備えが遅々として進んでいないところもあるようです。シュタウヴィンヴァー子爵領とハーゼンクレーヴァ子爵領、そしてその周辺では着実に準備が進んでいるようなのですが……」
「シュタウヴィンヴァー卿と、ハーゼンクレーヴァ卿か。確か、以前リク殿に助けられたのだったか?」


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