1,186 / 1,903
準備は進んでいる模様
しおりを挟む「それにしても……」
「リク様は、やはりこの鎧が気になるようですね」
マルクスさんの昇進をひとしきり喜んだ後、俺がジロジロと見ていたせいか、苦笑したマルクスさんが自分の身に着けている鎧を見下ろす。
綺麗な青色の鎧は、マルクスさんに似合っていて勇壮さを醸し出している。
けどワイバーンの鎧って、俺が姉さんに言った事のもあって新兵さんを優先して支給されるんじゃなかったっけ?
ツヴァイの地下施設に行った時も、ヴェンツェルさんやマルクスさんだけでなく、新兵さん以外は身に着けていなかったはずだ。
「王都では、リク殿の持ち帰った素材によってこの鎧が、広くもたらされていると聞いているが……マルクス大隊長が身に付けていておかしなことでもあるのか?」
「あ、いえ……確かにマルクスさんの鎧、ワイバーン素材を使った鎧はそれなりに作られているようですけど、本来は新兵さん優先だったはずなんです」
「はい。その事なのですが……」
首を傾げるシュットラウルさんに、説明する俺をフォローするようにマルクスさんから、ワイバーンの鎧についての話が入った。
なんでも、戦争に対する備えとして市場に出回っているワイバーンの素材を、国が買い取りさらに鎧の数を増やしたのだそうだ。
多分、俺が持ち帰って冒険者ギルドに納入した物だろうとの事。
姉さんや軍事費用関連の担当者は、連日「予算が……」と顔色悪く呟く癖がついてしまったらしいけど。
ともあれ、そうして増やしたワイバーンの鎧……新兵さんにはほぼ行き渡っているのもあって、今度は逆に隊長格を優先に支給されたのだそうだ。
隊長格は部隊を持って指揮する立場にあるため、優先的に守られるべきだという考えだね。
指揮する隊長が行動不能……最悪死んでしまったら、部隊全てが危険に晒されてしまうためだろう。
優先される支給先はヴェンツェルさんを始め、戦闘部隊の大隊長から中隊長と小隊長。
基本的には前線に出ない役割でありながらも、ハーロルトさんを始めとした情報部隊の隊長格にも。
まぁ、まだ生産が追い付いていなくて、全てに行き渡っているわけではないらしいけど……ハーロルトさんと一部の情報部隊員は、王都を離れているみたいだし。
多分帝国への諜報活動だろう。
「そういう事だったんですか……」
王都を離れている間に、色々と動いているようだね。
まぁ、隔離されてこちら側で流れていた日数も考えると、約一カ月以上だからそれも当然か。
「リク様、陛下とヴェンツェル様が大層ご心配されておりました。リク様がおられるのに、センテが魔物に囲まれ、王都に援軍の要請をするのは、間違いなく何かがあったのだと……」
ワイバーンの鎧に関する話を終え、続いて姉さんやヴェンツェルさん達の話。
これまで、俺が大規模な戦闘に参加すると一日や二日で終わって、援軍を出すようにはならなかったから、余計に心配をかけてしまっていたんだろう。
俺がセンテに来ているのは当然知っているし、俺なら魔物に囲まれた状態で、何もしないなんて事ないとも考えていた、とマルクスさんから言われた。
「本当なら、最初から戦闘に参加してさっさと魔物を倒したかったんですけど……」
シュットラウルさんにも、まだはっきりと俺がしばらくいなくなっていた理由を話していなかったので、ついでと思って大まかに説明。
破壊神云々はとりあえず話さず、帝国に関係する存在によってセンテには戻るに戻れない状況になっていたってくらいだ。
我ながら、これで納得してくれるかは疑問だけど……。
「成る程、そういう事情でしたか」
「リク殿を長くとどめておくとは……こちらの要である事を熟知しているようだな」
二人共深々と頷き、あっさり納得してくれた。
嘘は言っていないし、信頼してくれているからなんだろうけど……さすがにびっくりだ。
その後、マルクスさんを交えて残っているセンテ東門付近の魔物達掃討作戦の話になる。
「王都ではリク様で解決できない、魔物達。かなりの警戒をしておりました。状況を聞くに問題はないようですが、もし何かあればと、王城ではヴェンツェル様が後続部隊を派遣する用意を整えていました」
「うぅむ……やはり王都が出せる兵士数は、いち貴族領の兵士とは違うな……」
マルクスさんが援軍として連れてきた部隊は、約千人……それが二日後くらいに到着するみたいだ。
隊長格に支給されたワイバーンの鎧を持っている部隊を優先し選抜しての人数らしい。
それでも、さらに倍以上の数をもしものためにヴェンツェルさんが送れるよう、整えているのだとか。
まぁ、大きな問題はなさそうなので出撃は控えるよう、マルクスさんから連絡が行く手筈になったけど。
腕を組んで唸るシュットラウルさんによると、侯爵領の兵士をかき集めれば総勢で二千以上は軽く超えるらしいけど、援軍としてそれ以上の兵士を出せる準備ができる王都は、やはり格上だとの事だ。
国の中心だから兵士の数やら何やらが多いのは、当然の事なのかもしれないけど。
「つまり、リク殿には直接支援を求めないという事で?」
「うむ。民の事を慮る立場の私としては、愚策とも言えるかもしれぬがな……」
周辺の魔物残党も含めて、殲滅作戦をとなった時に俺の動きに関しての話になった。
シュットラウルさんとは話していたように、俺は前線で魔物と戦うような役割はなく、あくまで兵士や冒険者、センテと王都からの援軍で協力して、魔物を退けるようにしたいらしい。
……昨日、中央の怪我人収容所に向かう時、声を掛けられた街の人達の様子から、今ではシュットラウルさんの考えている事がよくわかる。
「おそらく、シュットラウル様が仰っている事は、王城でも危惧されている事かと」
「王城でも? という事は陛下が?」
「はい。今アテトリア王国では、全体で帝国との戦争に備える動きになっていますが……一部の動きが鈍いのです。曰く、英雄のリク様がいれば何も問題はないだろうと……」
「楽観視しているわけだな……」
「えぇ。リク様に頼れば問題ない。リク様がいて下されば、負ける事はないと。そう考えている者が大勢を占めています。王城では陛下を始めとした方々が、檄を飛ばしておられるため影響は少ないのですが……城下町の者達、つまり民の間でも楽観視している様子が見られる模様です」
「それは……あまり良いとは言えない状況だな」
つまり、戦争に備えて頑張って準備しているけど、一部の人は俺さえいれば入念な備えは必要ない……と考えているってところかな?
これが要は、シュットラウルさんが言っていた俺に頼り切りになる、という事なのか。
「王都はそれでもやはり陛下の直下なので、ある程度は制御できるのですが……他の地域、それこそ帝国との国境に近い貴族領でも備えが遅々として進んでいないところもあるようです。シュタウヴィンヴァー子爵領とハーゼンクレーヴァ子爵領、そしてその周辺では着実に準備が進んでいるようなのですが……」
「シュタウヴィンヴァー卿と、ハーゼンクレーヴァ卿か。確か、以前リク殿に助けられたのだったか?」
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる