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毒の治療

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「次の人は……」
「リクさん、こっち! この人なら!」
「わかった、すぐ行くよ!」

 治療を済ませた人が運び出されて行くのを見送って、次に治療できそうな人を探すため、キョロキョロしていると、別の場所に移動していたモニカさんから呼ばれる。
 俺が魔法を使っている間に、治癒魔法で回復できそうな人を探してくれているみたいだ。
 怪我人の状態は刻一刻と悪くなって行っているから、少しでも時間が短縮できるから、凄く助かるな。
 やっぱり、モニカさんがいてくれて良かった。

「この人は……」
「どう、かしらリクさん?」
「わからない。でも、やってみるよ」

 女の子に案内されたテント内で、最後の怪我人……手遅れな人を除けば、だけど。
 モニカさんからの窺う視線を受けながら、動き回ってかいた額の汗をぬぐいながら、その人に手を触れさせる。
 その人は部位がなくなっているわけでもなく、一見すると大きな怪我はないんだけど……無数の傷が全身の至る所にあった。
 輸血技術もないから血も足りないんだろう、意識なく静かに横たわるその人の顔は蒼白。

 ほとんどの傷からの流血はもうないようだけど、体の一部が絶対に人じゃあり得ない色に変色しているから、もしかしたら毒も体内に入っているのかもしれない。
 魔物には毒を持っているのもいる……無数の傷を付けられた時か、それとも他の要因で体内に入り込んだのか。
 毒を取り除く治療はした事がないし、場合によっては自然治癒能力を増幅させる治癒魔法だと、逆効果になる可能性もある。
 ただ、解毒薬なども不足しているため、この人は俺がなんとかしない限りはもう助からないと見られているようだ。

 意識がなく静かに横たわっているだけなので、俺達が来るまで周囲に手当てを担当する人がいなかったくらいだからな。
 それは、他にかかりっきりで手立てがない人を、いつまでも見ているわけにはいかないからだろう……そういったところにも、ここの過酷さ凄絶さが表れているような気がした。

「この毒は……」
「知っているの、モニカさん?」
「えぇ。父さんから魔物に関して教えられた時、注意する毒として聞いた覚えがあるわ。えっと……」

 モニカさんによると、毒はとある魔物の爪に傷付けられた場合、傷口から入り込んでいる可能性が高い物なんだという。
 その爪に毒があるんだろう……無数の傷から、大きくない魔物の爪に何度も傷付けられ、毒が体内に入り込んでいるのだと納得した。
 毒の効果としては、傷口から入り込んだ部分を中心に肉を腐らせていくのだとか、腐らせる毒とか怖いね。
 解毒薬はあるけど、深く傷つけられて内側に毒が入り込んでいた場合や、解毒が間に合わなかった場合には、腐っていく部分を切除する事になるらしい。

 完全に腐ると解毒薬が効かず、放っておくと体中に広がってしまうため、それを食い止めるためと……。
 見る限り、俺達の前で横たわっている人はまだ傷口周辺が腐っている様子は見られない……手遅れではなく、まだ助かる可能性を示している気がした。

「毒を抜けば、なんとかなるかな?」
「まぁ……もしかすると、ね。でも解毒薬も足りていないようだし……それを待っていたら、手遅れになる可能性もあるわ」
「うーん……」

 血液毒じゃなかった事はいい情報だ。
 あまり詳しいわけじゃないけど、自然治癒力を増幅させるという事は、血液を活性化させる事にも繋がるからそもそも不可能だろうと考えていて、血液毒だったら全身に活性化した毒が回ってしまうから逆効果だと思う。
 けど、毒をも活性化させる可能性を考えたら、血液毒じゃなければ大丈夫とも言えないし……。

「でも、だからといって諦めるのは、違うよね。どちらにせよ、何もしなければ助からないんだから」

 ダメ元、と言うと治療の場にはそぐわないと思う。
 けど、どうせ助からないのならやれるだけやって、試してみる方がいいと考えた。
 実験に使うようで、かなり気は引けるけどね。

「リク、毒だけを分離させるなり、浄化させるなりのイメージをするのだわ」
「エルサ?」
「いいから、言われた通りイメージするのだわ」
「……わかった」

 俺の頭にくっ付いているエルサからの助言……あまり関係ない人間の生き死には、これまで気にする素振りを見せなかったのに。
 エルサも、俺達と一緒にいて、色んな人と会って考えが変わってきているのかもしれないね。
 えっと、毒を分離するイメージ……は、毒そのものをイメージするのが難しそうだ。
 だったら、毒そのものを浄化させる。

 肉を腐らせる……生きている人間に作用するのであれば、細菌のような毒が入り込み、それが分解や破壊をして変質させるってところかな、多分。
 にわか知識ではあるけど、なんとなく体に害を及ぼす存在を排除したり無効化したりとか……そう言ったイメージでやってみよう。

「……よし。ピュリフィケイションヒーリング!」

 魔法名は、治癒と浄化を合わせたもの……いつもならイメージ先行で魔法名を決めていたけど、今回は魔法名にイメージを助けてもらうようにしている。
 浄化のイメージって、色々あってどれが正しいかわからなかったから。
 俺が呟いた魔法名をきっかけに発動し、白い光が横たわっている人の全身を包み込む。

「結構、魔力を使っちゃうね……」

 人間の体、内部から毒素を抜き取るからなのか、これまでの自然治癒力任せとは違うからだろう、変換された俺の魔力が直接毒を浄化しているようで、大きめの結界以上の魔力を使っているように感じる。
 初めてなのもあるかもしれないけど、あまり多用はできそうにないね。

「傷口が塞がって……色も……」
「……成功、かな?」

 横たわっている人の無数の傷が塞がって行く……毒の影響か、一部の変色し始めていた部分も本来の肌の色へと戻って行く。
 傷が塞がって行くという事は、生きる力が残っているという事で、おそらく毒の影響で腐り始めていた部分も治って行っているという事でもある。

「スゥ……スゥ……」
「良かった、なんとかなったみたい」
「そうだね。はぁ……」

 苦しそうな呼吸をしていたのが、規則正しい呼吸になったのを確認し、モニカさんと一緒にホッと息を吐く。
 痛みや毒、失血などで意識を失っていたのが、今はただ寝ている状態になったってところだろう。

「ありがとうエルサ。エルサのアドバイスのおかげで、なんとかできたよ」
「わ、私はただリクが変な事を考えて、失敗しないように注意しただけなのだわ……」
「エルサちゃん、照れてるみたいね?」
「て、照れてなんていないのだわ!」

 頭の上に手を挙げて、エルサのモフモフを撫でながらお礼を言うと、気配だけでくっ付いているエルサが顔をプイッとどこぞへと背けたのがわかる。
 声の感じやモニカさんのエルサを見る表情から、照れているのは間違いなさそうだ……エルサは否定しているけど。
 相変わらず、真っ直ぐお礼を言われるのに慣れていないんだなぁ、と少し微笑ましくなった。
 出会ってすぐの頃は、契約をした俺以外の人間を見下すような素振りすらあったのに、今では助けるための助言をしてくれるようになったのは嬉しい……キューをくれる人間は、見下したりしなかったけど――。

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