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ワイバーンが特殊な趣味を持っている可能性

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「それじゃ、ボスワイバーンを連れて行くから……」
「わかったわ。ついでだから、カイツにも注意しておいて」
「ははは、わかったよ」

 休んでいるフィリーナに手を振って、カイツさんとボスワイバーンの方へ向かう。
 ひらひらと手を振り返すフィリーナに苦笑しつつ、ご近所に迷惑を掛けそうな騒音をもう少し和らげるよう言っておこうと思った。

「んで、どうしてワイバーンはちょっと楽しそうなんだろう?」
「私に聞かれても……」

 庭を移動して、ボスワイバーンの所に来る事で見えた、お腹を見せてひっくり返っているワイバーン。
 フィリーナと話していた所からは、ボスワイバーンの体で見えなかったんだけど……野生というか、魔物だと当然ながら警戒心が強いはず。
 基本的にお腹は弱点になり得るし、ワイバーンでも他の皮膚よりも比較的柔らかい部分だったはずなのに、無警戒にお腹を晒して地面に転がっている。
 そして、ちょっと楽しそうというか気持ち良さそうな声を出していたりもする。

「ガァゥ、ガァガァゥ」
「おぉ、リク様。ワイバーンは中々興味深いですな!」

 俺に対し頭を垂れるボスワイバーンと、こちらもまた楽しそうなカイツさん。
 カイツさんはまぁ、研究……騒音を出すのが研究? よくわからないけど、存分にやりたい事ができているからだろう。

「一体どうしてこうなったんですか?」
「それはですな……」

 意気揚々と話すカイツさん。
 なんでも、ワイバーンがどれだけの魔法に耐えられるかという実験をしたらしく、そうしたらワイバーンが喜んだと言う事みたいだ。
 昨日から続く騒音はそれが原因か……でも俺、ワイバーンに危害を加えるような事は禁止、と言っていたはずなんだけど。
 そう思っていたら、何故かボスワイバーンが「ガァゥガァゥ」と誇らし気に胸を反らしていた。
 許可を出したのはボスワイバーンらしい……まぁ、ワイバーンも楽しそうだし、それでいいならいいんだけど。

 カイツさんの魔法は、使えるものの中で結構強力……というかほぼ全力で使ったのもあったみたいなんだけど、ワイバーンには大きな傷を与える事はできなかったとか。
 ……大きなって事は、小さな傷は与えられたんだ。
 まぁ、再生能力が高いからもう傷自体は回復しているし、見えなくなっているんだけど。

「ワイバーンの硬さは、想像以上です。正直ここまでとは……おそらく、ワイバーンを敵にした際に倒そうとするなら、エルフ数人、人間なら十人以上は必要でしょう」

 実験で試したかったのって、ワイバーンの耐久力の事なのか。
 ワイバーンって空を飛ぶ事も加味すると、Bランクに分類されているはずだったから……倒すには確かにそれくらいの人数が必要そうだ。
 武器や魔法、戦う人の技術にもよるだろうけどね。
 まぁ、それくらい硬くなかったら、ボウリングの球のようになって転がるなんて事思いつかないか。

「こちらのボスワイバーン以外は、魔法が使えないようですので……攻撃面では他のワイバーンには劣るのでしょう。ですが、その硬さに加えて再生能力です! 多少の傷どころか、リク様の話しによれば即死する程でなければ、すぐさまに再生する。部位を切り落としてもというのが素晴らしい。私の見立てですが、防御面ではAランクの魔物にも劣らないかと。生存率がかなり高い魔物です」
「生存率ですか……」

 まぁ、今回のワイバーンを敵側が運用した方法が、魔物の輸送なので攻撃力よりも防御力、そして生存率が重要視されたって事だろう。
 俺がワイバーンを味方にした時に考えた事も、生存率が高ければやりやすい。
 再生能力が高いせいで、少しずつ傷を負わせて動きを鈍らせてという戦い方が、不可能に近くなっているからね。

「まぁ、このワイバーン達が凄いのはわかりましたけど……どうして気持ち良さそうにしているんでしょうか?」
「さぁ、それは私にはなんとも……。ですが、私が魔法を使い始めてしばらくすると、今と同じ状況になりました。むしろ、私が魔法を使おうとすると、期待しているようにも見えます」
「それってまさか……いや、あまり考えないようにしておこう」

 カイツさんからの話と、ワイバーンの様子から一つだけ特殊な趣味が頭に思いうかんだ。
 ドが付くMな趣味……痛みとかを与えられると喜ぶような……そんな趣味を、まさかワイバーンが持っているというのはあまり考えたくない。
 なので、思考はここで打ち切る事にした。
 ワイバーンの方は、確かに期待するような目をしていて、ハートマークが飛び交っているように見えるけど……それも見なかった事にしよう。

「何はともあれ、あまり大きな音を立てると周囲に迷惑ですから。一部はともかく、これから多くのワイバーンを連れてきますし……場所は兵士さん達が集まっている街の北。そこで昨日からのような音や振動は控えて下さいね?」
「うぅむ、まだまだ試したい魔法や実験があったのですが……リク様がそう仰るなら、承知しました。ではこれから先は本題の研究に移る事にしましょう」

 これまでのは研究じゃなかったんかい! というツッコミを頭の中で叫ぶ。
 カイツさん本人に突っ込むと、話しが長くなりそうだからね……こうこうこういう研究が、という講義に入りそうな雰囲気だ。

「これは、フィリーナだけじゃ手に負えないのも、無理ないわね。印象だけだとアルネ以上な気がするわ」
「まぁ、エルフの村でひたすら引きこもって、研究に没頭していた人らしいからね」

 アルネは、注意すれば聞いてくれるし考慮もしてくれる。
 それでも時折寝食を忘れて没頭するようだけど……カイツさんは、それ以上に興味のある事に一直線の印象だ。
 モニカさんの言う通り、フィリーナだけじゃ止められそうにない。

「とにかく……行こうかボスワイバーン」
「ガァゥ?」
「首を傾げているけど……他のワイバーン達の所だよ。ずっと放っておくわけにもいかないからね、迎えにいかないと」
「ガァ! ガァゥ」

 ボスワイバーンに言って出発しようとすると、首を傾げられた……昨日のうちに、予定は伝えておいたはずなのに。
 とにかく、ワイバーン達の所に行くと言ってようやく思い出したようで、あぁ! と言うように短い前足をポンと合わせていた。
 随分と人間臭い仕草を……まぁいいや。

「エルサ、大丈夫?」
「問題ないのだわ。完全じゃないけど、魔力はかなり回復したのだわ。リクからどんどん流れて来るのだわー」
「そ、そう。それじゃお願いするよ」
「了解したのだわー!」

 一応、エルサの魔力は大丈夫かの確認。
 どうやら、俺の魔力が回復するにつれてエルサに流れる魔力もかなり増えたみたいだ。
 問題ないようなので、エルサにお願いして巨大化してもらう。
 人を一人や二人乗せられる程度ではなく、ワイバーンすら余裕で乗られるくらいの大きさだ……いつも空を飛ぶ時の大きさとも言う。

 ちなみに、一日休んで回復した魔力は大体全体の六割ちょっとといったところ……昨日起きた時より回復しているような気がするけど、早いに越した事はない。
 でも、全体の魔力量がさらに増えているような気がするんだよね……多分、昨日また限界近くまで魔力を使ったからのような気がする。
 俺の魔力、どこまで増えるのか……。
 今は確認する暇がないけど、今度時間がある時にじっくり調べてみようと思う――。

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