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お疲れの様子のフィリーナ

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「構わないわ。リクさんといると、色々と楽しめるもの。ワイバーン達を味方に引き入れるとか、他では見られないからね」
「ははは……」

 まぁ、そうだよね。
 自分でも、他ではあり得ない珍しい事をしているんだという自覚はある。
 だからこそ、ワイバーン達が街の人達に受け入れられるか、多少の不安はまだ残っているんだけど。
 シュットラウルさんが許可したからって、他の人達全ての感情まで統一されるわけじゃないからね……受け入れてもらうためにも、ワイバーン達の事だけでなく、治療も頑張って俺の印象を少しでも良くしておかないと……!


「……」
「どうしたんだ、ユノ?」

 食事を終えて、準備も済ませてボスワイバーンの所へ行く直前、何か深刻そうな表情で押し黙っているユノ。
 気になって声を掛けてみる……食事中は、エルサと競うように食べていて、深刻さは欠片もなかったのに。
 ちなみに、食事中も準備をしている時も、外からは時折大きな音が鳴り響いて宿全体が微かに揺れたりもしていたけど、すぐに慣れた。
 ボスワイバーンが無事かどうかと、フィリーナの喉がそろそろ心配だけど。

 使用人さん達は、昨日から続く騒音と振動に慣れたのか、特に気にした様子はなかった。
 順応が早い人達だなぁ。

「……リク……。ううん、なんでもないの」
「そうか? 何か気になる事があるようだったけど……」
「うーん、私にもはっきりとわからないの。だから、今は大丈夫なの」

 首を振って、大丈夫だと言うユノ。
 何かが引っかかっているのか、その表情は晴れないけど……ユノが大丈夫と言っているならそうなんだろう。

「ユノにもわからない事か……まぁ、大丈夫って言うなら信じるけど」
「そうなの。リクは気にしないで、モニカと一緒にお空のデートに行くの」
「デ、デートって…ワイバーン達のいる所に行くだけだぞ? そもそも、エルサもいるしボスワイバーンだって……」

 確かに俺とモニカさんだけで、他に人はいないけど……空を飛ぶのだってエルサに乗ってだしなぁ。
 まぁエルサは空を飛んでいる時は、戦闘でもない限り悠々自適というか、飛ぶ事そのものを楽しんでいるだけで、乗っている俺達の事はほとんど気にしないけど。
 ただ、ボスワイバーンも一緒に行くわけで……そちらからの視線とかが気になるところだ。
 魔物だから、人間のそういった方面には興味がないのかもしれないけど。

「ユ、ユノちゃん。ほら、そろそろ行かないと。ソフィー達も待っているわよ?」
「うん、わかったの。それじゃ行って来るのー!」
「行ってらっしゃい、ユノ」

 俺の隣にいたモニカさんが、ほんのり頬を染めて焦りながらユノを送り出す。
 先程までの気になる何かは振り切ったのか、屈託のない笑顔になって、俺達に手を振りながら外へと駆けて行くユノ。
 この後ソフィー達と合流して、残党討伐と後処理をする予定だ……魔物の残党は、ほとんどいないらしいけど念のためだな。
 ……とりあえず、出て行く前に微妙な空気になりかねない事を言うのは、止めて欲しかった。

「そ、それじゃあ、ボスワイバーンの所に行こうか。カイツさん達の様子も見ないと」
「そ、そうね。私は、フィリーナの方が心配だけど……」
「まだまだ、先は長そうなのだわ……」

 お互いに変な意識をしてしまったためか、お互いにぎくしゃくしながら動き出す。
 たった今ユノが出て行った宿の玄関を通って、俺達も外へ。
 頭の上で、エルサが小さく溜め息を吐いた気がした。

「あ~、リク。モニカも……」
「フィリーナ……お疲れだね」
「大丈夫?」

 宿の建物を回って庭に行くと、疲れた表情とガラガラ声になったフィリーナがいた。
 離れた場所で、カイツさんとボスワイバーンが何やら話している様子で、今はおとなしくしているみたいだ。
 ……あれ、意思疎通できているんじゃないかな?

「丸一日、ずっと怒鳴りっぱなしよ。カイツの奴、怒ったらしばらくは収まるんだけど……少ししたらまた過激な実験をしたがってね……はぁ……」
「ははは、お疲れ様……」

 宿の三階にある俺の部屋まで聞こえるくらいだからなぁ……一日も続けていたら、喉が枯れてしまっても仕方ないだろう。
 むしろ、掠れ声にまでなっていないのは凄いかもしれない。

「はい、お水を飲んで少し休んで」
「ありがとうモニカ。……はぁ、喉に染みわたるわぁ。これで、魔法を少し弱めても、話せるわね」
「え、魔法を使っていたの?」
「もちろんよ。結構早くに声が出なくなりそうだったからね、魔法で声を増幅しているわ。今もよ?」
「そうなんだ……シュットラウルさんに空から声を掛けた時も、そうしたら良かったなぁ」

 宿から持って来ていた水を渡すモニカさんと、一気に飲み干して少しだけ声が整ったフィリーナ。
 それはともかく、魔法で声を増幅していたと聞いて思い出して、小さく呟いた。
 姉さんもフィリーナも、風の魔法を使って声を大きくし、遠くまで響かせる事があったね……あれを使えば、シュットラウルさん達にももう少し楽に声が届けられたんだろうなぁ。
 多分、魔力の消費は少なそうだから、あの時でもそれくらいはできたはず。

「……リクは止めておくのだわ。細かな調整ができずに、声で破壊活動をするのが関の山なのだわ。確か、音は振動なのだわ?」
「そこまで、やり過ぎる事はない……とは言えないけど……まぁ、確かにやり過ぎるとそれはそれで危険かぁ」

 エルサの知識は俺の記憶からだろう……音は振動で伝わる。
 空気や物を震わせるから、大き過ぎる音や高すぎる音だとものが壊れたりもするらしい。
 そういえば、非致死性兵器としてフラッシュバンとか、閃光発音筒ってのがあったね……あれ、スタングレネードだっけ?
 ともかく、あれは光もだけど爆音も鳴らして難聴や耳鳴りを発生させるもので、方向感覚の喪失も発生させる事があるのだとか。

 それの音の強化版と考えれば、やり過ぎてしまうと鼓膜が破れたりする……だけでは済まない可能性もある。
 ある意味、広範囲に及ぶ無差別攻撃だ。
 そこまでの事にはならないだろうと思いたいけど、エルサが信用していないように、俺も自分の魔法出力調節には、自身がないからね。
 ……あの時思いつかなくて良かったと、エルサに言われて考えなおした。

「それでリク、私の事よりどうしてここに?」
「昨日言っていた、ワイバーン達をね。街に連れて来なきゃいけないから。エルサを目印にしないと……」

 ボスワイバーンを連れてきた時みたいに、大きくなったエルサに目印になってもらわないと、間違えて攻撃されちゃうかもしれない。
 全体に通達をしてもらってはいるはずだけど……今は戦闘中だからね。
 できるだけ戦っている人達を、警戒させたり刺激しないようにしたい。

「あぁ、そういえば言っていたわね。確かにワイバーン達が集団で空を飛んで街まで来たら、魔物の襲撃と勘違いされそうよね。なら、私も……いえ、止めておくわ」
「ん?」

 どうしたんだろう? フィリーナが何かを言いかけて止めたような……?
 目線を追ってみると、少しだけ頬を膨らませたモニカさんがいるね。
 よくわからないけどあまり刺激するのはよしておいた方が良さそうだ……けど、その膨れた頬をつつきたい衝動に駆られてしまうのは、グッと堪えておいた――。


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