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リクに頼りきりにならない意識
しおりを挟む「うむ。リク殿一人に頼り切ってしまう考えは、必ず心の隙を生む。帝国との戦争に限った話ではないが、国と国との争いで隙を見せるのはそのまま弱点となり得る。今回、しばらくリク殿が行方不明になった事で、私も実感したよ……」
「シュットラウルさんもですか?」
俺がいない間に、シュットラウルさんが何を実感したんだろうか?
戦争で、相手に隙を見せるのが危険というのはわかる。
向こうだって、遊びで仕掛けてきているわけじゃない……その隙は、必ず大きな被害を被る事に繋がってしまう可能性が高いからね。
心の緩みというか、想像だけでも過酷な戦争に対して、いい考えとは言えない。
「知らず知らずのうちに、私もリク殿がいればどんな事も対処できる……と考えてしまっていたのだ。農場のハウス化、兵士達との訓練や演習。魔物の討伐などでな。しかしどうだ? リク殿はセンテが魔物によって封鎖された際に行方不明になっていた。それぞれの頑張りなどによって、なんとか危機は脱して長く耐えられはしたが……」
「……」
シュットラウルさんの話を黙って聞く。
俺がセンテに戻れなかったのは、破壊神のせいだ。
多少なりとも、早く戻って来る事はできたにしても、これから先も同じようになんらかの形で妨害しようとして来るかはわからない。
かなり干渉力使っていたから、すぐにまた来るわけじゃないと思うけど……。
「喪失感……とは少し違うのだがな。リク殿がいない、ただそれだけで途方に暮れかけていたのだよ。そうして気付いた、リク殿一人に頼りきりになる事の危うさをな。リク殿も人間だ、とてつもない力を持っていたとしても、できる事には限りがある。そもそも、戦争ともなれば単一の場所だけで武力衝突が起きるわけではない。その時、リク殿がいない場所ではどうなるか……全ての兵士を守る事はできない」
「それは、確かに」
俺だってなんでもできる存在というわけではないしから、俺がいない所の戦況がどうなるかというのはわからない。
心の隙などに付け込まれれば、被害は甚大になってしまう可能性はある。
一つの場所のみで戦争が進行すればいいけど、そんな事はあり得ないからな……特に、帝国から見れば。
そもそも、俺がいるから被害がないというわけではないし、必ず帝国に勝てるというわけでもない。
「センテが戦火に巻き込まれる見込みは薄いが、戦争状態になった時に影響は必ずある。国と国の戦争だ、我らが望んだ事ではないが……アテトリア王国全体に影響は及ぶだろう。国民全体の意識と言えば壮大だが、この街からでも多少の意識を変える必要はあると思うのだ」
「そう、ですね……」
「リク殿に全てを任せ、自分達は何もしない考えに至る程までになるとは思わないが、自分達もやれるべき事をやるように考えて欲しいとな」
「まぁ、俺に全部任されても困るだけですからね……」
できる事に限りがある以上、全てを任されてもね。
多分シュットラウルさんの考えは、英雄と大袈裟に呼ばれる俺に頼る人達の考えを変え、もし俺がいない場合でも奮起できる考えを浸透させたいという事なんだろうと思う。
俺がいなきゃ何もできない人達、国民というのはさすがにどうかと思うし、俺も困るばかりだ。
「かく言う私も、こうした考えに気付けたのはモニカ殿達のおかげなのだがな」
「モニカさんの?」
真剣な話だけど、ちょっと深刻になり過ぎたからか、肩を竦ませて空気を和らげるように言うシュットラウルさん。
「私もそうだが、リク殿がいないと知って手立てが全く思いつかなかった私達にこう言ったのだ『リクさん一人を頼りにするのではなく、自分達でできる事をして、リクさんの戻って来る場所を守らなければ』とな。まぁ多少私の印象が入っているが、概ねそのような事を言われたのだ。それで私もようやく自分の考え違いに気付いたのだ」
「そ、そうなんですね……」
声を高くして、勇ましい女性っぽい口真似をするシュットラウルさんに、一瞬気圧されたというか引きかけたけど……そういう事か。
多分、語り口からモニカさんの言葉だろう。
他にも……。
「リクがなんでもできるわけではない、ただの人間だ。多少他と比べて尋常ではない力を持っていても、私達と変わらない人間だ」
「リクがいないなら私がいるの!」
「リク様がどれだけの国民を救ってきたか。であれば、私達も多くの国民を救うために奮起するべきです!」
「エルフはリクになら命を賭す覚悟をしているわ。少なくとも、この国のエルフの村にいる多くのエルフは。だから、リクがいなくとも必ず戻って来ると信じて、戦うわ!」
という事を言われたらしい……ソフィー、ユノ、フィネさんにフィリーナってところか。
さらに、アマリーラさん達も似たような事を言っていたと、シュットラウルさんは苦笑していた。
「リク殿の近くにいて、同じ冒険者の仲間たちだから……私達以上に依存しているのではないか、と考えていた部分もあったのだが……違ったのだなと、自身の考えを恥じたよ。むしろ、近くにいるからこそリク殿の事を見て、頼り過ぎないようそれぞれが考えているのだと思わされた」
「あはは……」
なんというか、皆の事を褒めているシュットラウルさんの言葉を聞いて、照れくさくなってしまった。
一緒にいてくれる皆の事を褒められるのは嬉しい。
自分の事を褒められたり、英雄と呼ばれるよりも嬉しく、そして照れてしまうのはなんでだろう……?
皆の事が、大事だからかな。
「リク殿は仲間に恵まれているな。いや、嫁か?」
「何を言っているんですか、そんなんじゃないですよ……!」
からかうように言うシュットラウルさん。
確かに、アマリーラさん達も含めて全員女性だけど……そんなわけないじゃないか。
「はっはっは、まぁモニカ殿くらいか、リク殿がそう思っているのは」
「うっ……」
皆は仲間だけど、事あるごとに頭に浮かぶのがモニカさんなのは間違いない。
少しずつ、エルサや他の人達から鈍いと言われてきた理由にも、自覚が芽生えては来ている所だけど……はっきり言われるとつい視線を逸らしてしまう。
「まぁ、そんなわけでな。自分の考え違いに気付かされたというわけだ。西側の魔物を蹴散らした時には、モニカ殿達やアマリーラ達た獅子奮迅の活躍だったからな。私に言った言葉を実際に体現して見せたとも言えるだろう」
皆がどれだけ頑張ったのか、実際に見ていない俺にはわからないけど……他の場所での魔物の数などを見るに、大変だったのは察する事ができる。
西側が一番魔物の数が少なかったとしても、他の場所も守らなければいけないし、決して楽な戦いじゃなかったはずだからね。
「南門付近や、サマナースケルトン、ワイバーンなど、リク殿に協力……どころか頼ってしまった部分は確かにある。だがだからこそ、この先の魔物討伐は我々に任せて欲しいのだ。優勢になってから話を持ち掛けると言うのは、どうかとも思うのだがな」
「いえ……シュットラウルさんが、並々ならぬ決意で話しているのはわかりますから」
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