上 下
1,125 / 1,903

アマリーラさん達の保護

しおりを挟む


「私に怯えるくらいなら、最初から向かって来るんじゃない! そ……っ!?」
「ぶべ……!」

 強制的に、アマリーラさん達と魔物達の間に壁を作って隔離する。
 勢いがあまってというか、動き回っているリネルトさんのタイミングを掴むのが難しかったけど……とりあえず成功。
 アマリーラさんは、剣を何もないはずの空間で結界に阻まれて動きを止め、リネルトさんは顔面を結界にぶつけていた……ごめんなさいリネルトさん、もう少しタイミングをしっかり見ていた方が良かったですね。

「な、なんだこれは!? くっ、閉じ込められた? 魔物め、珍妙な事を……だが、この程度破ってみせる!」
「……もっとやる気が漲っちゃった。おーい、アマリーラさん、リネルトさーん!」

 結界が魔物の仕業と考えたのか、アマリーラさんは剣を何度も打ち付けている。
 魔物達も驚いて、外から結界に対して攻撃しているんだけど、それすら目に入っていないようだ。
 一応、気付いてくれる事を願って声をかける。
 結界は、二人を包む形ではなく囲む形……つまり円柱状に作っていて、上部は空けてあるし俺達もいるんだけど……上を見てくれないなぁ。
 こんな事なら、シュットラウルさんの所でさっきやったように、色を付けた方が良かったかも? 透明よりも外側が見えない方が、落ち着いてくれたかも。

「うぅ、鼻が痛い……あ、リク様だぁ!」
「どうもー」

 あ、リネルトさんが気付いてくれた。
 上を見たリネルトさんが俺達に大きく手を振ったので、こちらも振り返す。
 ただリネルトさんの鼻の頭が赤くなっているから、それなりの勢いで結界にぶつかったんだろう……ちょっと罪悪感が沸く。

「そう、リク様のため……あん、なんだってリネルト?」
「リク様ですよぉ、アマリーラ様。ほらほらぁ」
「何を言って……リク様はまだお休みになているはず。こんな所にいるわけが……はぇぇぇぇぇ!?」
「えーっと……やぁ! でいいかな?」
「何か違うと思うのだわ。でもやっと気づいたのだわ」

 ようやく、リネルトさんの様子に気付いたアマリーラさん。
 剣を止めたアマリーラさんは、リネルトさんが上を示すのに従って、ようやく俺達のいる空を見てくれた。
 大きな声を上げて凄く驚いているアマリーラさん……どう言葉を掛けたものかと、少しだけ考えて無難なものにした。
 エルサは溜め息交じりだけど、他に思いつかなかったんだから仕方ないじゃないか。

「り、り、り、り、り……」
「……?」

 目を見開いているアマリーラさん、何故か「り」という言葉を繰り返す。

「リク様ぁぁぁぁぁ!!」
「ぶわっ!? ちょ、ちょっとアマリーラさん!?」
「と、突然飛び乗るななのだわ! 重いのだわ!!」
「あららぁ、アマリーラさん熱烈ー!」

 首を傾げる俺に向かい、飛び上がったアマリーラさんがそのまま抱き着いて来る。
 驚いたせいもあって、エルサから落ちそうになったけど……なんとか耐えた。
 急に抱き着いた……いや、飛び乗った状態になってアマリーラさんの体重がエルサにかかってしまったので、エルサも一瞬体勢を崩しかけたけど、怒りながわなんども羽ばたいてバランスを保ってくれた。
 地上では、こちらを見上げているリネルトさんの暢気な声……。

「リク様、リク様、リク様ぁぁぁぁぁ!!」
「ちょっと、苦し……っ! アマリーラさん、落ち着い……てっ!」
「ふごっ!?」
「はぁ……ようやくおとなしくなった……」

 アマリーラさんは、俺の首に腕を回して全身で抱き着いたまま、俺を呼び続ける。
 尻尾が激しく振られているから、再会を喜んでくれているのはなんとなくわかるけど……さすがに色々と柔らかかったり、状況が柔らかかったり、魔物が周囲にいて柔らかかったり……じゃない!
 変な思考に支配されそうになるのを振り払うように、息が詰まる中でアマリーラさんを引き剥がしつつ、頭頂部に拳骨を振り下ろす。
 そこまで力を入れていないはずだど、ようやく沈黙してくれた……。

「……モニカに言いつけてやるのだわ」
「待ってエルサさん? それはなんだか嫌な予感しかしないので、止めてもらえますか?」
「知らないのだわー」

 エルサがボソッと呟く言葉……非常に、そして破壊神との対峙よりも不味い事態になりそうな予感、いや悪寒。
 丁寧にお願いしたんだけど、エルサは聞く耳を持ってくれない……くっ、なんとか回避する方法を考えなければ!

「ほぇー……はっ! リ、リク様、痛いです!」
「痛みを訴えるのが遅いですよ。とにかく、一度離れて……っしょっと。これで少しは落ち着いて話せますね。はぁ……」

 俺の拳骨で、少し呆けてしまっていたアマリーラさんが気付き、頭を抑えながら文句を言う。
 衝撃の聖だろうけど、反応が遅かったね……というか、手を離して頭を抑えたら危ないから、落ちるから。
 仕方なく、アマリーラさんの体を支えつつエルサに乗っている俺の後ろに乗せた。
 少しエルサの高度が下がったのは、アマリーラさんを乗せた衝撃と重さのせいだろう。

「重いのだわ……もう面倒なのだわ!」
「っとと!?」
「え、え、え?」

 エルサがボソッと呟き、さらに叫んだ瞬間に発光。
 二人分の体重を支えるのに耐えられなくなって巨大化した。
 後ろでは戸惑うばかりのアマリーラさん……乗っている状態で大きくなるのは初めてだけど、できたんだ。
 まぁ、エルサの魔力は心配だけど乗る場所が広くなるのでありがたい。

「これでいいのだわ。楽になったのだわー」
「ありがとうエルサ。――そろそろ、落ち着きましたかアマリーラさん? でも、よくあの高さを飛んできましたね……」

 エルサにお礼を言いつつ、後ろにいるアマリーラさんに声を掛ける。
 地上から数メートル……大体五メートル以上はある高さを、ジャンプで飛びつくのは相当だ。
 ……やろうとすれば、俺もできるだろうけど。

「……はっ! リ、リク様。エルサ様。も、申し訳ございません!」
「え? あぁ、飛びついた事ですか? 確かにちょっと危険だったから……落ちるかもしれないし」
「いえ、そうですはなく……リク様と洞窟での捜索。リク様を見失ってしまいました……そして、リク様が戻って来るまでに魔物達を殲滅したかったのですが、それも敵わず」
「……まぁ、洞窟での事は仕方ないですよ。アマリーラさん達が悪いわけじゃありません」

 破壊神がやった事だからなぁ……アマリーラさんがどうこうできる問題じゃないのは間違いないし、原因の一つですらない。

「それと、魔物達の殲滅なんてアマリーラさん一人でどうにかできるわけでもありませんから。謝る事じゃないですよ」
「力不足を痛感しております……」

 これだけの数の魔物……しかも、倒しても追加が来ているらしい状況を一人でなんて、どうにかできるわけがない。
 魔物が増える原因から叩かないと各方面広範囲に広がっているから、魔力が完全に回復した俺とエルサでも難しいだろう。
 一時的には殲滅した風にできるだろうけども。
 多分、どこかに大量にいるサマナースケルトンが追加の魔物を召喚し、それをワイバーンが運んでいるんだろうから――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...