上 下
1,120 / 1,903

緊急事態発生

しおりを挟む


 俺がお礼を言うと、凄い速さで首を俺とは逆方向に向けるモニカさん……首痛くならないか少し心配だ。
 フィリーナは溜め息を吐いているけど、心配してくれたのが嬉しかったのは本当だし、お互いの時間にズレがあるとしても俺だってモニカさんの笑顔を思い浮かべたりしていたからね。
 破壊神との戦いの時、おかげで力が沸いてきたのは間違いないと俺は思っている。

「若い、若いなぁ。いや、年を取ったからかこういうのを見るのも、悪くないな。ともかく、モニカ殿もアマリーラ達と同じで、リク殿を探したり心配していたという事だな」

 したり顔でうんうん頷くシュットラウルさん……さっきまで真面目だったのに。
 あ、そういえば。

「シュットラウルさんの部下なら、アマリーラさん達は他の兵士さん達と同様に、東に配置じゃないんですか?」

 東側はマックスさんやマリーさんといった、一部元冒険者の例外はあるけど基本的に兵士さん達で固められている。
 アマリーラさん達は獣人の傭兵で、シュットラウルさんの部下なんだからそちらに配置されるんじゃないのかな? と思った。

「あぁ、それなんだが……傭兵で、やろうと思えば集団での戦闘もできる。だがアマリーラがな……どちらかというと個人での戦いの方に真価を発揮するんだ。兵士との連携よりも、冒険者達と共に戦った方が成果を上げるだろうとな。とはいえ、冒険者も集団で連携をするのだが、兵士となると規模が変わるからな。こういう事はリネルトの方が得意なのだが、二人を分けるよりもアマリーラの補助にリネルトを付けておいた方が良いからな」
「成る程……確かに、冒険者はパーティ単位で連携もしますけど、兵士と違って多くても十人いるかどうかくらいの集団ですからね」

 アマリーラさん、集団戦闘が苦手だったのか……いや、苦手と言うより個人で動く方が得意なだけか。
 初対面の時も含め、規則というか真面目っぽい指揮官風な印象もあったから、むしろ多くを指揮するタイプかと思っていたけど、違っていたようだ。
 むしろリネルトさんの方が、連携が不得意と思っていたんだけどね……俺の人を見る目はまだまだ未熟だな。
 話を聞いて、指示を出しながら協力しつつ魔物を蹴散らすアマリーラさんと、素早く動いてフォローするリネルトさん……を思い浮かべようとしたけど、あまり思い浮かばなかった俺の想像力もまだまだみたいだ。

「うむ。西側のヘルサルとの道を切り開くのには、大きく活躍してくれたがな。どうにも防衛となると勝手が違うのもある……」

 ヘルサルとの道は、向こうからの応援や支援を受けるためにも、塞がれている状態なのはまずい。
 そのため、一番手薄だったのもあって囲まれてすぐアマリーラさん達が、頑張って突破口を開いたのだとか……モニカさん達もそこで活躍したと。
 突撃したり、突破するにも連携は必要だし足並みを揃える必要もあるけど、防衛と違って守るためではなく攻めるための戦いだから、色々違うのもわかる。
 こちらは、武器を振り回して魔物を蹴散らすアマリーラさんが、簡単に思い浮かべられた……まぁ、演習の時とほぼ変わらないからね、相手が魔物になっただけだし。

「……伝令! 伝令!」
「何事だ!」

 そんな話をしつつ、クォンツァイタを含めて準備が整うのを待っていたら、兵士さんが一人部屋に飛び込んできた。
 シュットラウルさんがすぐに対応……元々礼儀とかを細かく気にする人じゃないけど、飛び込んできた人に対しても無礼だとかそういう雰囲気はない。
 単純に、焦っている様子の伝令さんからの情報を聞くために、大きな声で応えたってとこかな。
 しかし、こちらから反撃をしようと思った矢先に……思っていた以上に、俺が戻ってきた時点でギリギリの状況だったのかも。

「侯爵様、街東からの伝令です! 魔物達により、街外の土壁による防衛線が突破されました! 門の前に盾部隊を集めて押し留めていますがこのままでは、街への侵入の恐れが! 至急、応援を求むとの事です!」
「とうとう来たか……」
「盾部隊って事は、父さんが対処しているのね」
「マックスさんなら、少しはもたせるでしょうしマリーさんが援護してくれていると思うけど……悠長に南を引かせて、東に回す余裕があるかどうか」

 伝令さんは、魔物に押されている東側の状況を報告し、応援を求めていた。
 あの土壁を突破されたって事は、単純に数で押されたんだろう……あれが壊される事はほぼないだろうからね。
 もしかすると、東門とほぼ同時に攻め立てて手薄にしたとかもあるかもしれない。
 そこまで魔物が考えていたかはともかく、数で圧倒している魔物がまとめて襲おうとした結果なのかも。

 多分、マックスさんとマリーさんが部隊を率いて、俺が戻って来た時みたいに門を守るために移動しているあいだに押されたか……。
 だからこそ、動きを変えてマックスさん達が門まで突破されないよう、盾部隊で壁になっているのだと思われる。
 移動していないと、すぐに門の所に集まるのは難しいから。

「まだクォンツァイタ、魔法具の武器も集まっていない。南側は指示を出したばかりで、おそらく引き始めた頃合いだろう……どうするか……」

 どう対処するべきか、腕を組んで悩むシュットラウルさん。
 少しでも、時間を稼げればいいわけだから……。

「なら、俺が行きますよ」
「……だが、リク殿には南へ行ってもらうとなっている」
「まぁ、俺も東側の魔物を全部なんとかしてから、とは考えていません。とりあえず押されているから、魔物を一旦怯ませればと思って……一発ドカンとやっておけばいいかなと」

 寝て多少は回復したとはいえ、残りの魔力量が少し心配だから殲滅とかまでは考えていないけど、魔物の勢いを削ぐくらいの事はできる。

「……味方の兵に被害を出すのは、ちょっと」
「父さんと母さんが危険な目に遭いそうね……」

 シュットラウルさんとモニカさんが、溜め息を吐くように言う。
 モニカさんはともかく、シュットラウルさんには魔法の失敗とかをまだ見られていないはずなんだけど……誰かから聞いたのかも。

「いや、さすがにそんな事はしないですから……」

 大量の魔力を使うような魔法は、さすがに南側で使うために取っておきたいけど、一度くらい何かをして時間を稼ぐくらいの事はできる。

「とにかく、東側に行って魔物の勢いを削いでから、すぐ南に行くように考えています」
「リク殿がそうしてくれるのは助かる。少しでも猶予ができるなら、東に人を向かわせても間に合うかもしれん」
「リクが行くなら、私達はまだここを動かなくて良さそうね。もしもの時は微力ながら向かおうと思ったけど」
「なんとか、間に合う猶予を稼いで見せます。――フィリーナとカイツさんは、予定通りクォンツァイタを。無理に動くよりその方が結果的に有利になるだろうから」

 多少魔物側の勢いを止めて、時間を稼げばいいだけだからそこまで難しい事じゃない。
 まぁ、南に行くのが遅くなるけど……あちらは切羽詰まった状況じゃないからね――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...