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攻撃されて怪しまれるリク
しおりを挟む「とにかく、状況を知るためにも……誰かに聞いた方がいいだろうし。魔力も残り少ないからなぁ……突っ切ろう! んっ!!」
今の俺には、無数にいる魔物達全てを殲滅できる魔力は残っていない。
体力はまだまだ大丈夫っぽいけど、それでもね。
とにかく街が無事であるなら、戻って誰かに話を聞いた方が状況は把握できるだろうし、モニカさん達の無事も確かめたいからね。
倒せなくとも、魔物の大群の中を突っ切るくらいはできるはずだから、最短距離で真っ直ぐセンテに向かう事を決め、気合を入れて走り出す。
「GIAAA!!」
「GIGI!?」
「GYA!」
「はいはいそこどいてねー!」
群れ成す魔物達へと身一つで突っ込んで、走り続ける。
野生動物と違って、魔物相手には避けようとすらしない。
気分は重戦車……周囲で魔物の悲鳴と思われる叫び声が聞こえるけど、気にせずそのまま突き進む。
魔物達はセンテへ向かって動いていたので、後ろから走って来る俺には無防備だ……まぁ、正面で構えられていても、弾き飛ばしているんだけど。
オーガ、ゴブリン、オークなど……見た事のある魔物や見た事のない魔物が入り混じっているけど、強力な魔物がいないのは幸いだったかもしれない。
ルジナウムで戦ったキマイラやキュクロプスとかの、強力で大型の魔物がいたら、多少減速する事を余儀なくされていただろうから。
一応、サマナースケルトンっぽい姿が見えて、召喚中だったらしいので通りがかりで膝蹴りをして、骨をバラバラにしておいたりもした。
……追加で魔物を召喚されるのは、少しでも減らしたいからね。
「お、見えてきた見えてきた……って、あれ?」
魔物の大群の中を突き進み、ひしめき合う魔物達の隙間からセンテの外壁が見え始めた頃、思わぬ光景を目にする。
センテの外、魔物達との間に何やら旗が複数掲げられていたんだ。
外壁の上とかならまだわかるけど……あの位置に旗があるって事は、誰かがそこにいるってわけで……おや?
「よし、抜けた! うん、やっぱり誰かいる! おーい!」
魔物の群れの中を抜け、旗が掲げられている場所に向かいながら、手を振ってアピール。
誰かがいてくれたら、きっと反応してくれる……って!?
「放て!!」
「ちょ、ちょちょ、待って待って!」
旗が掲げられている場所には、土で作られた壁があり、その向こうから人叫び声が聞こえたと思ったら、上空に火の魔法が複数放たれ、山なりになって俺へと向かう。
「あんまり魔力は使いたくないし……よっほっはっ!」
「GIAAA!!」
「GYAAA!!」
結界を使えば簡単に防げるだろうけど、残り少ない魔力を使うのももったいなかったので、走っている足を緩やかにしながら飛来する火の球を避ける。
俺の後ろの方では、火の球に当たったらしい魔物達の悲鳴が聞こえた。
通り抜けた俺を追いかけていたんじゃなくて、センテに向かっていたんだろうけど……まぁ、魔物が減る分にはいいか。
ってか、俺の声が聞こえていたはずなのに、魔法を撃って来るなんて……どうしてだろう? わからないけど、とにかく人がいるのは間違いないから、行ってみないと。
「ってか、あの壁って演習の時俺が作った土壁だよね? まぁ、有効活用してくれているって事かな? おーい!」
土壁の中央にはアーチがあり、凄く見覚えがある。
多分だけど、拠点というか防衛線を築くうえでの壁として有効活用してくれているんだろう。
それはいいんだけど、そろそろ誰か俺の声に反応して欲しい……さっきから飛来する火の球が止まないんだけど……。
後ろの魔物も多少巻き込んでいるのは、いい事かもしれないけども。
「む……? 撃ち方やめ!」
「お、ようやく止まった。俺の声が聞こえたからかな? おーい!」
「……何者だ! 魔物達の群れの中から出て来ておいて、我々に声をかけるなど……魔物達の仲間か!?」
「いやいやいや、魔物の仲間じゃないですよー! れっきとした人間ですって! あ、いや、この魔物達も人間が仕向けているから……ややこしいなぁ。とにかく、敵じゃありませんから!」
土壁から号令が響き、ようやく火の球が止まる。
もう一度声をかけると、土壁から頭を出してこちらを見ていた兵士さんと思われる人が応えてくれた。
って、俺の事を魔物の仲間だって思っていたのか。
だから、容赦なく魔法を放ったんだろうけど……そりゃ、魔物の群れの方から出てきたら、味方だってすぐには信じられないかぁ。
「とにかく、近付きながらアピールをするしかないか。俺ですよー、リクです!」
「何を馬鹿な事を! リク様であるはずがない! 頭に白い毛玉を付けていないではないか!」
「俺の認識って、そこなの……? ちょっとだけショック」
あと、毛玉扱いとかエルサが聞いたら憤慨しそう。
確かに、いつも頭にエルサをくっつけていたし、それで目立っていたのもあるので目印みたいな物ではあるけど。
王都みたいにパレードで皆に顔を見せたわけでもなし、ヘルサルみたいにしばらくそこに住んで、色んな人と関わったわけでもない。
俺の顔を知らないでも無理はないか……兵士さんも、訓練や演習で見かけた兵士さんじゃないみたいだし。
「どうしようか……えっと、シュットラウルさんやモニカさん、誰か俺の顔をわかる人に聞いてみて下さい。それと、今からそっちに行きますからねー!」
「怪しい奴め……だが、侯爵様やモニカ殿達の名を……くそ、近付かれているな、先程の魔法は避けられていたようだし……」
シュットラウルさん達の名前を出したら、信じてもらえるかと思ったら、むしろ余計に怪しまれてしまった。
とにかく、離れて叫び合っていてもらちが明かないし、お互いの顔が認識できるギリギリくらいの距離からもっと近づく……というか、すぐそばに行って話した方がいいだろう。
そう思って近づき始めたら、兵士さんが焦り始めた。
俺が魔法を避けていたのを見ていたみたいで、対処に悩んでいる様子……あくまでも、敵として見ているんだなぁと、ちょっと切ない。
「仕方ない……マックス殿! 英雄リク様を騙る怪しい者が、魔物達の方から……」
「うん……? マックスって……」
兵士さん、土壁の内側に向かって何やら聞き覚えのある人の名前を呼んだ。
マックスさん? いやいや、マックスさんはヘルサルの獅子亭にいるはずだし、こんな所にいるわけがない。
多分、同じ名前の別人だろう……マックスって名前、それなりにいそうだからね。
「どうした……む? おぉ、リクじゃないか!」
「って、本当にマックスさん!?」
ひょっこりと土壁の向こうから顔を出したのは、紛れもなく俺の知っている方のマックスさんだった。
でもどうしてヘルサルにいるはずのマックスさんが、こんな所に……?
「間違いなくリクだな! 無事だったか!」
「……マ、マックス殿? 今、なんと?」
「ん? いや、あそこにいるのは紛れもなく、リクだぞ。騙りでもなんでもなく、英雄リク本人だ」
あんぐりと口をあける兵士さん、かなり近づいたおかげで驚いている様子がよくわかった――。
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