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全力の魔力解放
しおりを挟む「ただの力押し、これだけじゃ私には傷を付ける事もできないわよ?」
「くっ……ぐっ!? がはっ……!!」
こちらは全力なのに、破壊神は特に力を込めている様子はない。
そして、再び無造作に右手の平を俺にかざした瞬間、何かとてつもなく重い物を打ち付けられたような感覚と共に、壁まで弾き飛ばされた。
剣に全力を注いでいたので、防御らしい防御もできなかった俺は、凄まじい勢いで壁に当たって体内の空気を吐き出す。
「くぅ……リク、しっかりするのだわ!」
「ぐっ……はぁ……ふぅ……なんとか、大丈夫だよエルサ」
エルサがパタパタと翼をはためかせながら、俺に声をかける。
さすがにさっきの勢いでは、俺の頭にくっ付けていられなかったんだろう……まぁ、壁に当たったのが俺だけで良かった。
「防御はそれなりだけど……攻撃はちょっと雑なのね」
「ふぅ……どうして、全力で振り下ろしたはずなのに、あんなに簡単に受け止められたんだ……」
「私は破壊神。破壊というのは別に物を壊す、というだけではないわ。単純な攻撃ならその威力を破壊する……つまり、私にとってさっきのは綿埃が指に乗った、程度の事でしかないわ」
「……は、ははは……全力のはずなのに、綿埃って」
「リ、リク?」
その気はないのに、笑いが漏れる。
エルサが心配しているようだけど、ほとんど初めて全力で振り下ろした剣が、綿埃と言われたんだからね。
別に何もかもを諦めたとかではないけど、漏れる笑いを止める事はできなかった。
「頼りの結界は破られ、攻撃も通用しない。気が触れたかしら?」
「そう、かもしれないね、ははは。楽しいとか、そういう事は一切感じないんだけど、あぁまで簡単に返り討ちにされたら、笑うしかできなくて」
圧倒的な破壊神を前に、笑う事しかできない俺は、もしかしたら気が触れたように見えるのかもしれない。
こちらの世界に来て、どうしようもなく対処も何もできないって事は、ほとんどなかった。
だからかもしれない……これまで魔力量がなんだ、英雄だなんだと言われて、謙遜しつつもどこか調子に乗っていた部分があったのかもね。
でも、破壊神という圧倒的、絶対的な存在に、恐怖心が沸き出ている。
感覚が麻痺しているのか、これまで感じた事のない程の恐怖を感じ、自己防衛のために表面的に笑いが込み上げてきたんだろう。
「ま、気が触れたのでも、恐怖に支配されたのでも、なんでもいいわ。ここまでのようだから、そろそろ終わりにしましょうか。……存外、つまらなかったわね」
先程までの笑みがなくなり、無表情になった破壊神。
その雰囲気は本当につまらなさそうで、おもちゃを失くした子供のように見えた。
「はは。勝手に来て、勝手に俺相手に遊んだつもりなんだろうけど……」
「私は破壊神。神なのよ? 何をするにも誰にも文句を言う筋合いはないわ」
「そうかもしれないけど……でも、ただ破壊されるだけじゃ、嫌だから」
遊ばれて、つまらないからはい終わり……って言われても、簡単に諦めるわけにはいかない。
たとえ相手が破壊神で、圧倒的、絶望的な相手であってもだ。
「へぇ……? 諦めてはいないのね。でも、だからってどうするの? 頼りになるはずの結界? は意味がない事がわかっている。かと言って剣を使っても私には傷一つ付けられないのよ?」
「本当に意味がないかどうかはわからないさ。でもとりあえず……」
再び面白そうに口角を上げる破壊神。
確かに結界は破られたし、先程の閃光に対しては透過してしまったけど……だからといってもう使えないわけじゃない。
真っ直ぐ全力での剣が通用しないなら、もっと別の方法を考えればいい。
破壊神に対して、殺気や雰囲気にのみ込まれないよう気を強く保ちながら睨み、エルサに目配せ。
「リ、リク……ん、だわ」
それだけでなんとなく俺がやろうとしている事が通じたのか、不安いっぱいで怯えた目をしていたエルサが、決意したように頷いた。
これも、契約で通じているおかげだろうね。
「諦めるのはやれる事を全力でやってからだ! エルサ!」
「わかっているのだわ! 結界、だわ!」
頭の中で急速にイメージを固め、エルサに結界を使わせて自分と俺を守ってもらう。
さすがエルサ、ちゃんと俺の意図は伝わっていたようだ!
「無駄なのがわからないのかしら?」
「させないよ! 本当に無駄かは、やってみないとだ!」
こちらに手をかざして結界を破壊しようとする破壊神に対し、全力、加減一切なし、可視化された魔力を練ってさらに凝縮させ、魔力そのものだけでも人を押しつぶせそうな高密度の魔力を、全て魔法に注ぎ込む。
「マキシマム・エクスプロージョン!!」
「なっ!?」
イメージと魔法名を解き放ち、発動。
瞬間、破壊神の頭上当たりで光も闇も、その他全てが収束されて解放されるような、ほんの刹那程の光景の後に爆発。
初めて、驚きの表情と声を聞けたと思った頃には、俺とエルサを巻き込んで視界も感覚も何もかもがぐちゃぐちゃになる程の爆発がその場を満たした。
暴力的な爆発、周辺に何も残さない、残すつもりや容赦が一切ない爆発……多分、ここが神の御所を真似た場所と言われていなければ、俺は躊躇して全力を出せなかっただろう。
周囲は爆発の音なのか光なのか、それとも単純な暴力なのか。
すでにエルサの張った結界は、複数重ねだったにもかかわらず、全て割れて消し飛んでいる。
多分、エルサは壊れる端から何度も結界を発動して、自分の身を守っているだろう……俺は、体を硬くして耐えるだけだ。
ただ、足を踏みしめようにも地面の感覚すらなく、宙に浮いているような、凄まじい勢いで飛ばされているような、それとももう爆発が収まり平穏が訪れているような……はっきりしない感覚なのが頼りないけど。
……自分の魔法でやられるのだけは、格好悪いから勘弁して欲しいなぁ。
なんて思考がよぎる間にも、周囲の爆音は、ともすれば全てを破壊しつくすのではないかと錯覚するほど、荒れ狂っていた。
「……やったのだわ?」
「エルサ、それは言ったらいけないよ……」
どれくらい経ったのか、時間の感覚すら曖昧に成る程の激しい爆発に耐え、音も何も感じられなくなった頃、足下でエルサの声がした。
目を開けながら、フラグと呼ばれるそれを立ててしまったエルサの声の方を見てみると、ひっくり返って頭から地面にはまり込んだエルサを発見。
……結界を連続で発動し続けても、飛ばされるのはどうにもできなかったのかもね。
「……中々思い切った事をするわね……正直驚いたわ。破壊神を驚かせるなんて、リクは人間じゃないのかしら?」
まだ晴れない視界の中で、聞きたくなかった声……破壊神だ。
「生憎と人間だよ、多分ね。……ほらエルサ、エルサが変な事を言うから、はぁ」
「わ、私のせいなのだわ!?」
言い返しながら、エルサに向かって溜め息。
爆発で対象が見えなくなった時、エルサのセリフでフラグを立てたら相手は無事……というのはよくある事だ。
とは言っても、最初からあれでなんとかなるとは思っていなかったんだけどね――。
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