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洞窟内部にいる少女
しおりを挟む――洞窟内部に入り、しばらく探索しているうちに大きな広場とも言える場所に出た。
鉱山程じゃなくても、複数の道が入り乱れている構造になっているので、そのどれかが東側に繋がっているんだろう。
広場には、誰かがいた形跡以外にも魔物の死骸などもあり、ワイバーンが食事をしたであろう形跡なんかもあったので、ここが隠れ家なのは間違いなさそうなんだけど。
「ちょっと、不思議な感じがしますね……」
「確かに。何者かが掘った形跡もあちこちにありますが、それとは別の……言葉で言い表せない感覚です」
「なんでしょう~、この世ならざる感覚と言いますか~……拒絶されているようにも、歓迎されているようにも感じます~」
なんだろう、どこかで感じた事のあるような感覚に、全身が包まれているような不思議な場所だった。
リネルトさんが言うように、ここから出て行くよう促されているかと思えば、むしろ受け入れられているような安心感を覚えたりもして、よくわからない。
探知魔法で調べてみても、特にこれといった魔力反応もないし……。
「これは……まずいのだわ。リク、すぐに外に出るのだわ」
「エルサ?」
「……さすがはドラゴンね。ここがどういう場所になっているか、わかったみたい」
「え……?」
真剣なエルサの声、どうしたのかと聞こうとすると別の方向から声が聞こえた。
この声は、アマリーラさんやリネルトさんとは違う女の子の声……どこか聞き覚えのある気がする声だ。
声が聞こえた方を見てみると……。
「え……?」
「ふぅん、お前がリクなのね。なるほどなるほど……」
声のした方を見て驚き、声を漏らす。
そこには小さな女の子、大体十歳くらいだろうか? 小学生くらいの女の子がぽつんと立って、俺に対して値踏みするような視線を向けていた。
こんな所に女の子が……という意味で驚いたんじゃない、いやそれも驚く事だけどそうじゃなく。
「……ユノ? こんな所で何をしているんだ? モニカさん達と一緒にいたはずじゃ……」
「ユノ? 誰それ」
どう見てもそこにいた女の子は、モニカさんと一緒にセンテ周辺の調査をしているユノそのものだった。
雰囲気とかは違うけど……どう見てもユノだった。
だけど、ユノそっくりなその女の子は首を傾げるだけだ。
「ち、違うのだわリク。それはユノじゃないのだわ。と、とにかくここから早く逃げるのだわ」
「え、でも……ユノにしか見えないし。って、エルサ……どうして震えているんだ?」
「それとは失礼なドラゴンね。まぁでも、私がどんな存在かわかっているのはさすがと言うべきかしら」
頭にくっ付いているエルサが、声を震わせている。
いや、くっ付いている状態だからよくわかるけど、エルサの体も震えているようだ。
女の子は、エルサの事をドラゴンと呼び、喋り方もユノより女性らしさを感じる……本当にユノじゃないのか?
いやでも、ユノもやろうと思えばちゃんとした喋り方ができるはずだしなぁ。
「まぁ、ここまで来たのだから、今更逃げられないわよ? ほら、見てごらんなさい?」
「え……あ、アマリーラさん! リネルトさん!?」
溜め息を吐くように、それでいてどこか楽しそうにしながら、手で周囲を示す女の子。
何が言っているのかわからないけど、示された方を見ると、一切動かないアマリーラさんとリネルトさんがいた。
さっきまで話していたのに、周囲を見渡すような恰好のまま……まるで時間が止まったみたいになっていた。
「ど、どういう……?」
「あら、察しが悪いわね。まぁ、こういう力を目の当たりにするのが始めてなら、仕方ないのかしら? そちらの獣人は今、こことは切り離されているのよ。だから、こちらからは干渉できないし、向こうからも干渉できない」
「切り離されて……でも、すぐ目の前にいるのに……」
「難しく言ってもわからないでしょうから、簡単に言うけど。貴方とそこの獣人達が存在する次元がズレているの。私がやったんだけど。ちょっと特殊な空間にしたから、こちらから見えてもあちらからは見えないし、時間も限りなく引き伸ばしてあるから、向こうが止まっているように見えるわ。ほら、ちょっと触ってごらんなさい」
何を言っているんだろう、この女の子は。
次元がズレている? 時間を引き延ばす? よくわからないけど……何か尋常じゃない力を使っている、って事でいいのかな。
微笑みながら促す女の子の言う通り、頭で震えているエルサを右手で抑えながら、左手でアマリーラさんに手を伸ばす。
「え……触れない?」
だが、その左手は何かに触れた感触はなく、ただ空を切るだけだ。
確かにアマリーラさんの肩に触れたはずなのに……。
「それが次元がズレているという事。お互いに干渉できない証拠よ。わかった?」
「……い、一応は」
どういう事なのかはわからないけど、とにかくアマリーラさん達と俺達は空間を切り離されて別々にいる、と考えた方が良さそうだ。
「でも、一体どうしてこんな……本当にユノじゃないのか?」
「だから、ユノって誰よ。私とリクが会うのは、これが初めてよ。……そうね、そこの震えているドラゴンにでも聞いてみたら?」
ユノはこんな事はしないし、普段通りならもっと子供っぽい雰囲気と喋り方をしている。
見た目はユノにしか見えなくても、本当に別人なんだというのがようやく理解できた。
「エルサ?」
「そ、それはユノじゃないのだわ。全然別の、けど同一とも言える存在……だわ」
体の震えをさらに強くしたエルサ。
先程と同様、声までも震わせながら話してくれるけど……どういう事だ?
全然別と言いつつ、同一の存在って矛盾しているじゃないか。
「つまり、どういう?」
「は、は、は……破壊神、なのだわ……」
「え!? そ、それってつまり……あのアルセイス様が言っていた!?」
破壊神と言えば、創造神であるユノの裏の存在というか、表裏一体の存在。
だから、全然別なのに同一とも言える……ってわけか。
「そ、そうなのだわ。こんな、次元にズレを生じさせる事なんて、私みたいなドラゴンでもできないのだわ。それこそ、神でなければ……」
「ほ、本当に……破壊神……」
改めて女の子の方を見る。
ユノに瓜二つな姿をしているその女の子は、よく見てみると確かに人間ではない気配のようなものを感じる。
なんとなく、アルセイス様にも似た気配のような……だけど、それは神々しいとかそういった類のものではなく、深く暗い闇が滲み出しているような、言葉に言い表すのが難しい気配。
見ているだけで、飲み込まれてしまうんじゃないかと思ってしまう、そんな感覚だ。
つまり、本当にこの女の子が破壊神で、エルサが震えているのは恐怖を感じているからって事か……。
「結構、ヒントを出したつもりだったのだけど、リクにはわからなかったようね? ほらここ、何か覚えのある感覚はないかしら?」
「……お、覚えがあるって言われても」
ヒントらしきものは全然感じなかったんだけど……そう言われて、女の子から目を離さないようにしながら、周囲を探るように意識を向けた。
……確かに、通常とは違う何か不思議な感覚はあるけど……ん? ちょっと懐かしいような、以前どこかで感じたような……?
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