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防衛訓練演習開始
しおりを挟む「カイツ殿の方は、フィリーナ殿のロングボウとは逆だな。速射性を重要視している。習熟した者が使うと、正面からは近寄れない程の矢が連続で放たれる。だがまぁ、その分狙いを定めるのが困難でな……カイツ殿が使う物は狙いを付けるというより、手数で相手を圧倒するために使われる事が多いか」
「成る程……どちらも、扱うのは難しい物なんですね」
弓自体、とりあえず刃筋を意識して振れば斬れる剣と違って、扱いは難しい物だと思う。
まぁ、剣も色々とあるから一概には言えないけど。
でも多分、簡単な物でも俺が見様見真似でやったら、矢が前に飛んで行かないんだろうなぁ……。
そんな弓の中でも、さらに扱いの難しい物を使うエルフの二人。
魔法だから、通常の矢を射るのとは違うんだろうけど……見ている分には面白そうではある。
ただカイツさんの方は、久しぶりどころか数百年ぶりって言っていたから、ちゃんとできるのか心配かもしれない。
若い頃と言うのが百年規模になるのは、長寿のエルフならではか……一応、フィリーナもカイツさんも、エルフの中ではまだ若い方のはずなんだけどね。
「む? 向こうの準備が整ったようだな」
「みたいですね」
「だわ~」
壁の向こう側から、兵士さん達の準備が整った事を報せる旗が振られる。
モニカさん達の方も、弓を確認していたフィリーナとも話し終えて、作戦会議を終了させ、いつでも動き出せる状態のようだ。
弓の事を聞いている間に、それなりの時間が経っていたらしい。
それらを見て、俺の頭にペタッとくっ付いていたエルサが、顔を上げた感覚があった。
「……もうすぐ始まりますけど、本当にシュットラウルさんはここでいいんですか? 執事さん達とか、参加しない人の方に行った方が、安全だと思いますけど」
「構わんよ。自分の身くらいは自分で守れるくらいの嗜みはあるつもりだ。それに、あまりリク殿を狙っては来ないのだし、もしもの際にはリク殿のすぐ近くが一番安全だろうからな」
「まぁ、そうなのかもしれませんけど……」
ずっと俺の横にいるシュットラウルさん。
演習に直接参加はしないのだから、離れていた方が安全だと思ったんだけど……シュットラウルさんは特等席で見れると、むしろ楽しそうだ。
ルールとして、後方で援護をする俺……というかエルサや、フィリーナとカイツさんは兵士さん達が狙わないようにとなっている。
まぁ、一応向こうから魔法を使って牽制をしたりして、援護の手を緩めさせるなどは許可されているけど、兵士さんが直接こちらに来て攻撃を……というのは禁止だ。
だから、来るとしても散発的な魔法攻撃くらいだし、それくらいならシュットラウルさんも自分でなんとかできるはず。
さらに、シュットラウルさんの口ぶりには、俺の結界を当てにしている様子も感じられた……そりゃ、危険だと思ったら結界を張るつもりだけどさ。
俺だけじゃなく、少し離れているけど近くにはフィリーナやカイツさんもいるんだし、怪我をさせないようにしないといけないからね。
「私の事よりも、そろそろ始まるぞ?」
「はぁ……わかりました。もしもの時は結界で守りますから」
「うむ、頼りにしているぞ。……リク殿が結界を張る状況にならないようには、こちらも気を付けるつもりだ。さて、特等席でじっくり演習の様子を見させてもらうかな」
俺達や兵士さん達がいる場所の真ん中付近に、執事さんと参加しない兵士さんの二人が進み出てきた。
それを見て、わくわくとした様子を隠さないシュットラウルさんに溜め息を吐きつつ、危ない時は守る事を了承する。
やっぱり特等席にいる気分のようだけど……参加しない人がいる場所の方が、全体を俯瞰的に見られて良さそうなんだけどなぁ。
本人が気にしていない様子だから、俺も気にしないようにしよう。
「それでは、これより特別防衛演習訓練を開始します!!」
開始した後すぐ走って執事さんと離れるためだろう、魔法で拡大された声を全体に響かせる兵士さんは軽装だ。
声を聞いた俺達はもとより、向こう側の兵士さん達にも緊迫感が漂うのが伝わってくるように、周囲はしんと静まり返った。
数秒程度、誰も動かず何も音を出さない状態になった後、スッと真ん中にいる執事さんが手を空へ向ける。
「では、開始ぃ!」
次の瞬間、空へ向けて執事さんが魔法を光る放ち、それと同時に執事さんを抱えて場外へ走り出す、声を出していた兵士さん。
戦闘に巻き込まれないように、急いで退避しているんだろう……お疲れ様です。
「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」
執事さんを抱えた兵士さんが離れていくのに合わせ、空に打ちあがった光が効力を失い消えていく……。
と、次の瞬間、五百人からなる兵士さんの方で、咆哮とも言える叫び声が上がった。
……以前の演習をした時よりも大きく迫力や意気の籠った叫びだったので、ちょっとだけ気圧される。
「負けていられません! こちらも動きます! リネルト、そちらは任せたぞ!」
「はい~、任されました~!」
「お願いします、アマリーラさん、リネルトさん!」
「応!」
「おー!」
俺と違い、こちらではアマリーラさんが負けないように声を張り上げる。
走り出すアマリーラさんは、俺から見て左の右翼、リネルトさんは右の左翼へ駆け出す。
後ろから声をかけるモニカさんに応えて、さらに駆ける速度を上げた。
「こちらもやるわよ、カイツ! アマリーラさん達が活躍できるかは、私達にかかっているわ!」
「わかっている!」
アマリーラさん達を見送り、モニカさん達が少しだけ待っている間に、今度はフィリーナとカイツさんが動き出す。
二人共、借りた弓を構えて魔法を使うようだ。
「……ウィンドアロー!」
最初はショートボウを構えたカイツさん。
弓の弦を引き絞って……というわけではなく、魔法を発動するたびに弦を指先で弾く使い方だ。
ただ、速射性を重視する弓だからなのか、連続で魔法を放った。
最初のウィンドアロー……見えない風の矢が二つ、左右に別れたアマリーラさんとリネルトさんをそれぞれ追い越して、土壁へと向かう。
その風の矢は、土壁からこちら側……外側で待ち構えていた兵士さん達の隙間を抜け、壁に当たって周囲に風をまき散らす。
探知魔法を使っていた俺はともかく、急に突風が吹いた事に驚いた兵士さん達は、風で飛ばされないよう身構えていた……多分、そこまでしなくても装備の重さもあって飛んだりはしないんだろうけど。
でも、急に吹いた風だから咄嗟に身構えるのもわからなくもない。
「次だ! ファイアアロー! アイスアロー!」
さらに続けて、カイツさんが魔法を放つ。
アマリーラさんが向かう右翼には炎の矢、リネルトさんが向かう左翼には氷の矢をほぼ時間差がないくらい、連続で放った。
「ぐあっ!」
「つっ!」
狙い通りなのか、風に身構えていた兵士さん達は、続けて放たれた魔法の矢を避ける事ができず、そのまま直撃。
周囲に炎や氷の破片をまき散らした……鎧があるから大きな怪我はないだろうけど、今ので左右ぞれぞれ二、三人は戦闘不能になったかな――。
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