1,053 / 1,903
ワイバーンの反応を補足
しおりを挟むセンテを出てから、大体二時間近く……それなりに早足で歩いていたから、十キロ近くの距離になると思う。
探知魔法は魔力量が増えたらしい頃から、随分広がって、感覚的には十五キロくらいになっている。
とはいっても、端の方は反応が薄いからよくわからない事もあるし、範囲が広い分情報が多くて俺の頭では全てを把握する事はできないんだけれども。
「ここからセンテの半分か。わかってはいたが、とんでもない範囲だな……遠くなる程にわかりにくいとしてもだ」
「リク様は、偵察いらずですね」
「とは言っても、そんなに便利とも言い難いんだけどね。人や物が増えたら情報が増えるし、その情報から必要な情報だけを抜き出すのも、俺自身だから」
結局、どれだけ範囲が広くなっても、正確さが重要だと思う。
だから、使っている時はいつも、俺が把握できる範囲や欲しい情報に意識を集中させている。
ワイバーンが空を飛んでいるため、発見が遅れたのもそのせいだね。
「とにかく、調べてみるよ。俺達がここに来るまでに移動していなければ、多分いるはずなんだけど……」
皆にそう言って探知魔法を発動、周囲を調べ始める。
意識を向ける方角は北東を中心に、ワイバーンが行かないと思われるセンテ方面は、情報の正確さを求めるためあまり意識しないように。
「ん……あれかな。ワイバーンだと思う反応が一つ……いや、二つだね。あんまり離れていないかな」
探知魔法によって、それらしい反応を見つけ、皆に言う。
このまま道を北東にしばらく進んだ後、途中で道を外れている場所だ……木々の反応などもあるから、森とか林なんかに隠れているんだろう。
「ワイバーンが二体って事ね。リクさんがさっき見つけた反応と、同じなの?」
「二体のうち一体が、多分それだと思う。魔力反応が一緒だから。でも……」
「どうかしたのか?」
「ワイバーンの周辺に、他の魔力反応があるんだ。それと、ワイバーン自体の反応も弱い気がする」
木にも魔力反応があるから、最初はそれだと思ったんだけど……違う。
魔力量は少なくても、しっかりとした反応を返す木などの植物とは違って、周辺の魔力反応は弱々しい。
というより、霧散して空気中に溶け込んで行っているような感じだ。
広がり、薄くなって反応がなくなって行く……。
「他の魔力反応? それは、近くに指示を出していると思しき者がいる、という事じゃないか?」
「ワイバーンの反応が弱いというのはどういう事でしょうか? 弱っているのですか?」
俺の言葉に、ソフィーとフィネさんが続けて質問をしてくる。
周辺の魔力はどんどん薄くなる一方だから、多分指示をしている人とかじゃない……だってこれ、多分死んだ何者かの魔力が霧散している感じだから。
「うーん……どうだろう。多分指示している人はいないと思う。人間らしい反応がないから。周辺の魔力はワイバーンの獲物なんじゃないかな? 魔力がなくなって行っているから。それと、ワイバーンの方は弱っているって感じはないね」
「……聞いただけだと、私達には想像しづらいわね」
「まぁ、こればっかりは俺が魔力反応から判断しているだけだから、伝わりにくいよね」
俺自身、反応からの想像でしかないわけだし。
実際に自分達の目で見た方が、正確な情報を得られるのは間違いない。
「ワイバーンが何かの獲物を捕まえて、というのはわかるが……ワイバーン自体の反応が弱いというのはどういう事なのか理解できないな」
「魔力の反応が弱いというなら、魔力量が少ないという事なのでしょうけど。ですがワイバーンは基本的に魔力を豊富に持ち、空を飛ぶのも翼だけでなく魔力を使っていると言われています。それが弱い、魔力が少ないというのは、考えにくいです」
「俺もそう思うんだよね……でも、王都に襲来したワイバーンの群れと比べたら、かなり魔力量が少ないんだ。王都の方は、一体一体がアルネやフィリーナよりも多くの魔力量を持っていたはずなんだけど、こちらのワイバーンは、人間とそう大差ないくらいだね」
どういう事なのかはわからないけど、今探知魔法で反応を調べているワイバーン二体は、近くにいるモニカさんやソフィー、フィネさんとそう変わらないくらいの魔力量だ。
弱々しい反応ではないから、怪我や病気で弱っているというわけではなさそうだし……でも魔力の性質そのものは、王都で戦ったワイバーンのものと酷似している。
「なんにせよ、見に行くのが一番早いの。ここで考えていても、わからない事はわからないの」
「……そうだな、ユノの言う通りだ」
「そうね。そのワイバーンがいる場所は近いのよね? だったら、行ってみるしかないわね」
「南の調査を引き上げて、ここまで来たからな。ちゃんと調べないうちには帰れないさ」
「そうですね。ですが相手はワイバーン……リク様が言っている通り、魔力量が少なくとも油断は禁物です」
退屈そうにしていたユノの発言に頷き、何はともあれ皆で調べに行く事に決まる……元々、そうするつもりだったからね。
フィネさんの言う通り、魔力量に対する疑問はあっても相手はワイバーン、油断していい相手じゃない。
簡単には斬り裂けない硬い皮を持ち、火を吹く事もある。
空を飛ばれたら、地上にいる俺達には対処法が限られてしまうし……まぁ、その時はエルサに飛んでもらうつもりだけども。
「……うん、しばらく動く様子はない……かな? とにかく行ってみよう」
「えぇ」
皆にそう言って先頭に立ち、案内するようにワイバーンの反応がある場所を目指した。
「ここから、真っ直ぐ東だね。……暗いからよくわからないけど、向こうに林があると思う」
「確かに、私達にはわからないわね」
整備途中の道をしばらく進んだ辺りで、道から外れて東へ進む。
真っ暗になっているから遠くがほとんど見えず、まだ林自治は確認できていないけど、探知魔法で木々の魔力を確認しているから間違いないはず。
「うーん……これは、他にも魔物がいそうだね。もしかしたら、それを狙ってワイバーンが降りたのかもしれないけど」
「魔物か……どんな魔物かはわかるか?」
「多分、ゴブリンとかウルフとか……オークもいるかな? 強い魔物の反応はないよ」
木々の魔力や、ワイバーンの魔力、そして薄く広がっては霧散していく魔力以外にも、魔物らしき魔力反応がある。
人間ではないのは間違いないし、はっきりとしない部分もあるけど、魔力の大きさや感じた反応から、センテ南でも遭遇した魔物だと思われた。
種類はともかく、強い反応はないから、弱い魔物ばかりなのは間違いないはずだ
「ワイバーンの相手は、リクさんよね。だったら、私達が他の魔物を牽制しておくわ」
「どうして、俺がワイバーンの相手だって決まっているんだろう? まぁ、やるけど」
「まぁ、牽制よりも討伐になりそうだが……そうだな、それがいいだろう。弱い魔物なら、向こうから来るのを待つより、こっちから行った方が確実だろうからな。もちろん、油断はしない」
「だって、リクさんならワイバーンを確実に倒せるはずだし、もしもの時はエルサちゃんもいるから」
0
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~
平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。
しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。
カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。
一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる