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騎馬隊の次は歩兵隊
しおりを挟む「このぉ!」
「せい!」
「真ん中が開いているから、左右から来られても大丈夫……っと! せい!」
「ぐぅ!!」
「がはっ!」
ルールに忠実に、戦線離脱しようと馬の進路を逸らす中央の兵士さんとは別に、左右の騎馬はまだ健在……俺を挟むようにしながら、左右から突き出されるランス。
だけど、それは中央があってこそ生きるもの……姿勢を低くしてランスを掻い潜り、がら空きの中央というか、正面に滑り込みながら手を地面に突いて体を起き上がらせ、そのまま足に力を入れてジャンプ。
通り過ぎようとしていた兵士さん達に、それぞれ木剣で腹を打ち据えておく。
くぐもった声を出した兵士さん達は弾き飛ばされ、馬はそのまままっすぐ走って行く……。
「三番、突撃ぃ!!」
「……これいつまで続くんだろう……? ともあれ、なんとかしないとねっ!」
俺がやった事などに、同様の気配はなく、中隊長さんが間髪入れずに次の号令を飛ばす。
とにかく、騎馬の人達がいなくなるまでなんとか対処し続けるしかないと考え、落ちている矢などを活用しながら、三騎をやり過ごしたり弾き飛ばしたり落馬させたり……。
ユノに注意されないよう、馬に怪我をさせないように気を付けながら、戦っていく。
「六番、突撃!! 一番、追撃!!」
「え、追撃!?」
そんな中、正面からの号令に別の内容が加わった……一番って、最初に飛び上がってやり過ごした騎馬だったはずだけど……。
と思って、正面から来る騎馬を見据えながら、探知魔法で背後を窺うと、本当に一番かどうかはわからないまでも、騎馬と思われる反応が三騎、こちらに近付いて来ていた。
というより、次の六番よりも近いくらいだ。
もしかしなくても、やり過ごした後に方向転換してもう一度突撃してきたって事か……まぁ、本当にやり過ごしただけなので、戦線離脱扱いになっていないからかぁ。
この様子だと、少なくとも落馬したり武器を落としていない騎馬は、態勢を整えてまた突撃してきそうだ。
「くっ……完全に挟み撃ちか……。でも……っ!」
挟まれたからといって、諦めるわけにもいかない。
演習だから、俺が降参したらその場で終了になるだろうけど、これくらいで終わらせるのは嫌だから……結構、負けず嫌いなのかもね。
「はっ! せいっ!」
自分の事を今更に自覚しながら、地面にある矢や、それこそ木剣すらも使い、投擲して前後の数を減らしたりで対処していく。
やっぱりというか、さっき考えたように、無事だった騎馬も再び戻ってきたりもしたけど、それもギリギリでランスに当たる事なく対応。
……本当は、一度だけ背後からランスに当たったんだけど、結界を動かして受け止めたから難を逃れた。
ランスを突いた兵士さんは、頭を覆う兜の隙間から「それは反則では?」と言っているような目をしていたけど、一応ルール内だからね。
結界を動かすのは禁止されていないし、盾のような扱いと考えたら、ある程度自由に動かして攻撃を防ぐ事だってやっていいはずだ。
そういえばあの兵士さん、ランスの扱いが凄く上手かった……背後からでも油断せず、俺が探知魔法で動きを探っているのもわかっていたようで、突撃しながらもフェイントみたいな動きを入れていたっけ。
だから、結界で防ぐ事になったんだけど……多分、模擬戦の時槍を使っていた小隊長さんだろう、目にも見覚えがあったから。
「ふぅ……どうやら、騎馬は打ち止めのようだね……」
号令を出していた中隊長さんは、騎馬のほとんどがいなくなったのを見て、突撃を止める。
最後の方は、武装していない馬やランスではなく通常の槍を持っている騎馬も投入していたけど、それらすべてになんとか対処できた。
さすがにちょっと……というか、結構辛い戦いだったなぁ……。
「リク様、お見事です。まさか全て対処されるとは。――総員、引け! 無傷な者は、怪我をした者を連れて離脱しろ! 走って行った馬の回収も忘れるな! 馬を見失ったら、予算が減らされるぞ!」
中隊長さんが馬から降り、俺に一礼して周囲にいる騎馬隊……ほとんどが落馬していたり、俺に弾き飛ばされて地面にうずくまっていたりするけど、その人達に号令を出して、引いて行く。
はぁ……なんとか騎馬隊を退ける事ができたかぁ。
でも予算って、馬を用意したり武具の用意だとか他にも色々……お金の事は大変そうだね。
「っ! っとっと……」
騎馬隊の人達を見送りながら一息……と思ったら、発動中の探知魔法に魔力の反応。
意識していなかったため、反応が遅れて避けられず、正面に張ったままの結界に当たったけど……それは目の前で爆発する魔法の矢だった。
少し驚いて一歩二歩と後ろに下がると、次々降り注ぐ爆発の矢。
「最初の時よりは数が少ないから、気付けば避けられるけど……油断するなって警告かな?」
騎馬隊の突撃をなんとか凌いで、中隊長さんに声を掛けられたから油断していたけど、まだ演習は続いている。
これが本当の戦争なら、声を掛けられる事なくもっと間髪入れずに攻撃されていたんだろうね……全部終わるまで、油断しちゃ駄目だ。
「突撃ぃ!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉ!!」」」
「……今度は、歩兵隊ってわけだね」
魔法から始まって、弓矢に騎馬隊、さらに歩兵……今も続く爆発の矢は、騎馬隊の突撃と歩兵隊の突撃の間を埋めるためなんだろう。
徹底的に相手を休ませず、ひたすら攻め続けるってわけだね。
俺が受ける事、避ける事を考えて攻めないからこそってのもあるけど……シュットラウルさん、随分と攻撃的な訓練をしているようだ。
まぁ、守るやり方とかも訓練されているんだろうけど。
「でも、騎馬隊と違って歩兵隊なら……」
「「うぉぉぉぉぉ!!」」
「せっ! はぁっ!」
「ごふっ!」
「ぐぁっ!」
雄叫びを上げながら、爆発の矢が止んだとほぼ同時にかけて来る兵士さん達……振り下ろされる剣を避け、こちらの木剣を当てて弾き飛ばしておく。
騎馬隊の突撃の時もそうだったけど、俺一人相手にするには一度に戦える人の数が制限される。
本当に大型の魔物じゃないし、どれだけ広い場所でも正面から来るなら、精々二、三人ってとこかな。
俺を囲むように動いている人もいるから、完全に包囲したとしても、四人くらいが限界だと思う……それ以上の人数を一度に向かわせても、お互いが邪魔で思うように動けなくなるから。
「とは言っても、模擬戦と違って延々と戦い続けるってのは、結構しんどいけど……ねっ!」
「ぐぅ!」
呟きながら、回り込んで俺の背後から近付いて来ていた兵士さんに、地面に散らばっている木剣を投げつける。
狙い自体は適当だったけど、腕に当たったようで武器を取り落として戦線離脱扱いになってくれたね。
模擬戦の場合は、連続とはいっても一応お互いが構えてから開始されるから、少し間があった。
けど、演習の場合はそんな間は一切なく延々と戦い続ける事になる。
「……完全に囲まれた……って言っても、俺一人に数百人と考えたら、囲まれて当然だよね」
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